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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魂の聖域

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幻獣との対面

 そうして俺達は旅を続け……とうとう幻獣が待つ場所へ到達した。

 位置としてはシェルジア大陸の真南だろうか……距離のほどは俺も明確にわからないけれど。


 そしてこの島々の中で最初に訪れた場所は、ずいぶんと大きな島だった。


「まず、ここがどういう場所なのかを説明しておく」


 海岸で俺を含めた組織の人間は、デヴァルスから説明を聞く。


「この海域には大小様々な島が存在している。その一つ一つの島に幻獣のすみかが存在する……で、この島は群れるように存在する島々の中で中央に位置していて、幻獣同士が顔を突き合わせて話し合いをするような島でもある」

「会議場ってところか?」


 俺の言葉にデヴァルスは「まさしく」と応じる。


「そしてこの土地は中立地帯……つまり、島内での戦闘は禁止。これは幻獣同士もそうであり、俺達も守らなければならない」

「絶対的なルールってわけだな。わかった……武装解除とかはしなくてもいいのか?」

「そこまでする必要はないと幻獣テラは言っていた。さて、ここから会場に向かうわけだが――」


 そこまでデヴァルスが述べた時、一頭の鹿がこちらへ近づいてきた。

 体毛は白……いや、白銀か? そういう色合いをした存在であり、漂う魔力によるものか、普通の動物とは逸する雰囲気を見せていた。


『ようこそ、人間の方々』


 女性……のような高い声を発する鹿――いや、この場合は幻獣と呼称するべきか。

 俺達が普段幻獣と呼ぶ存在はそれこそ幻獣テラとか、言わば強大な存在だが、彼らにも部下などが存在するわけで、目の前の存在はそういう立ち位置なのだろう。


『私がテラ様の下へとご案内致します』


 そう言って幻獣は先導を始める。俺達はそれに追随することにして、海岸を離れ森の中へ。ただ道が整備されており、俺達は難なく森の中を突っ切ることができた。


「道、というのは話し合いの場があるからってことかな?」

『その通りです』


 独り言のように発した呟きだったのだが、案内する幻獣は律儀にも答えた。


『周囲の木々は外部から話し合いの姿を見られないようにするためです』

「はー、なるほど……幻獣同士が顔を合わせる頻度は多い?」

『年に数度といったところでしょうか』


 内容はさすがに知らないと思うので、コメントはしないでおく……と、会話をする間に俺達は森を抜けた。

 前方に見えたのは、平原……なのだが、所々に大小様々な石が点在している。それをよく見ると上部分が真っ平らなので、もしかすると椅子代わりなのかもしれない。


 そんなことを考えていると、やや遠方に大きい鹿の姿が……その存在が俺達へゆっくりと近づいてくる。

 全員が動きを止める。理由は明白……凄まじい気配を放っていたからだ。


『よく来てくれた』


 ――鹿の姿であることは間違いない。ただ金色の毛並みを持ち、まるで世界全てを見通すかのような青い目を持つ……こちらを一瞥しただけで、心を全て読まれているような、そんな感覚さえ抱く、途轍もない存在感を放つ、幻獣だった。


「……あんたが、幻獣テラか?」


 問い掛けに対し、幻獣は首肯した。


『いかにも。私がテラと呼ばれる者……とはいえ、一つばかり補足しておくべきか』


 補足? 疑問に感じた矢先、彼から言葉が。


『幻獣テラの名は、私のことに相違ない。しかしこれは私が種族の長を務めるが故に与えられる名だ』

「種族を統括する存在が、そう呼ばれるようになると」

『その通りだ』


 ふむ、なるほど。


『ただし、例えばジンなどは人間に近しい営みをしているため、種族の一人一人に名は存在する……と、幻獣全てが私達と同じような名付け方をしているわけではない』

「話は理解できた……で、問題は他の幻獣達は――」

『まずは私が話をする……私が今回の話し合いの場を設けた以上、まずきちんと私が話をまとめるのが筋、というわけだ』

「……そっちは矢面に立って、色々と大変そうだな」

『言及はしないが、少なからず紛糾したのは間違いないな』


 幻獣同士で色々あった様子……まあテラが他の幻獣の意見を聞いて俺達を門前払いしないだけ良かったと言えるか。


『とはいえ、ジンについては少しばかり事情が違う』


 さらに幻獣テラは続ける。


『彼の場合は今にも飛び出しそうだったからな。ここで話をするのではなく、場所を改めて、ということになった』

「……ここは戦闘禁止の場所じゃないのか? そういう所で顔を合わせた方がいいのでは?」

『それを破りそうな勢いだったからな』


 おいおい……それ大丈夫なのか?


『どうやらジンにとっては人間と接することに対し興奮しているようでな……それを抑える方が大変だったというわけだ』

「こちらとしては興味を持ってくれたら話をするのも楽だし嬉しいけど、戦いのことに絡む、というのはよろしくないかな……」


 後方にいるエーメルのことを頭の中に思い浮かべながら語る。すると当の彼女から「悪かったなー」などという野次が飛んできたのだが、無視しよう。


「ともあれ、ここできちんと話し合えるのは良いと思う……それじゃあ本題に入ろうか」

『うむ、まずそちらは幻獣が持つ魔力が欲しいとのことだが』

「俺達は幻獣から得られる物を目的として調べていたからな……けど、こういう展開なら無理に奪おうとするつもりはない……が、魔力が欲しいのは変わっていない」

『こちらも協力する意思を示すものとして、提供できる物は提供するつもりだ……とはいえ、交渉するだけでは足らない』

「俺達が『神』に挑むにふさわしいか……それを確かめてから、ってことだな?」


 問い掛けに幻獣テラは『いかにも』と答えた。


『私達としても地底に眠る存在についてはわからないことも多い。それを知る手がかりについて必要ならば協力するが、多少の力を示してもらわないと納得しない者も多いのだ』

「こちらもそれについては認識しているさ……で、どうやる? ここで戦うわけじゃないだろ?」

『うむ、場所を改める必要性はあるが、その前に質問をしたい』


 沈黙が生まれる。こちら側は言葉を止め、テラが話すのを待つ。


『天界の長、デヴァルスによると地底に眠る存在についてそちらもいくらか情報を持っている……というより、目の当たりにしたことがあるようだな? 英雄よ、それについて直接意見を聞きたかった』


 『神』についてか。それを聞くのが彼らの目的の一つ、ということかな。


「ああ、その点については話そう……俺は何度かアイツと出会っている。その時に遭遇したことについて語ればいいのか?」

『構わない』


 幻獣はまだ『神』と直接対峙し、会話をしてはいないのか――そんな結論を抱きながら、俺は幻獣テラへ向け口を開いた。


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