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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魂の聖域

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使者の意見

 翌朝から次の中継地点へ向け進むことにする……まあ天使に任せているだけなので、取り立てて障害もない。

 で、三つ目の中継地点で俺は使者と顔を合わせることにしたのだが……その見た目は、


『話は聞いている、地底の力に挑む戦士よ』


 幻獣ルグの使者……で、当のルグは狼のような姿らしいので、この使者もまた同じような出で立ちだった。

 ただ毛並みが面白い。右半分が黒く、左半分が白い。ひょっとして幻獣ルグも同じなのかなと思いつつ、俺は言及する。


「初めまして、ルオン=マディンだ……こうして使者を寄越して話をしたかったというのは、どういう理由なんだ?」

『我らが主であるルグ様は、多少なりとも警戒している……そこでこの私が人間を見定めてこいという指示を受け、こうして話をすることになった』


 見定める、ねえ。それはたぶん、


「幻獣に取り入ろうと頑張っているのは実はフリで、実際は幻獣の力を奪おうとしている……そんな懸念を抱いているとか、かな?」

『そのような解釈で構わない』


 こればっかりは仕方がない。というより幻獣テラが物わかり良すぎたという解釈でいいだろう。

 テラは警戒の度合いが薄いみたいだけど、他の幻獣は組織の内容を聞いた時点で訝しんでもおかしくない。何しろ天使や竜、果ては魔族まで関わっているわけだし。


「……こっちはまず、信頼を得なければいけないのは理解している」


 そこで俺は口を開く。


「とはいえそれは顔を合わせて話をする以外に道はない……俺としては敵意がないことを示すだけだ。警戒を解いてもらうためにこっちは腐心するつもりでいる」

『そちらの言い分は理解した……が、こちらの主張もきちんと述べておこう』


 主張、というのは――


『まずお前達が相手取ろうとしている存在について。我ら幻獣と呼ばれる存在の観測から、異変が生じていることはそちらも理解しているはずだ』

「ああ、天使を通して聞いている」

『それについてどういう結論になっているかなどは、後々聞くことになるかもしれんが……正直なところ、それはあくまで自然現象に近いものであり、災害が起こるといった部分は懐疑的に見ている者も多い』


 ……懐疑的、か。未来に何が起こるのかわかっていない以上、そう判断するのは当然とも言える。

 現状、俺が転生者であることを含めた部分については喋っていない。幻獣と信頼関係を結べたら、話すことになるだろうけど――


「一ついいか?」


 俺は目の前の使者に対し、疑問を呈する。


「そちらの口ぶりからすると、異変を察知して幻獣は幻獣で対策会議をしていたのか?」

『そういう解釈をしても構わん。詳細を語ることは権限がないためできないが』


 なるほど……使者は懐疑的と言ったが、中には懸念している者だっているかもしれないな。

 俺が知っているゲーム知識からすると、これからいよいよ『神』も動き出すんだろうけど……変化があるにしろ、幻獣達でも意見が分かれる程度の兆候ってことか。


「……そちらが色々と疑問視しているのは理解できた」


 俺は使者に対しそう述べる。


「なおかつ俺達の目論見についてもわからない部分があるだろうから、警戒しているのは理解できる……が、こっちとしては下手に出て話を聞いてもらうしかないな」

『元々は、こちらに攻撃を仕掛けるつもりだったのだろう?』

「確かに、そうだな」


 誤魔化すのは悪手だと思ったのでそう返答すると、使者は目を細めた。


「そちらがどの程度事情を知っているのかわからないが……こちらは『神』の情報を求めていた。その結果膨大な魔力を必要としていたため、幻獣について調べようと思ったわけだ」

『そして幻獣テラと接触した……ならば、そちらが攻撃を仕掛けないとは限らないだろう』

「そう思われてもおかしくないが……なら、どうすればいい?」


 問い掛けに使者は沈黙する……が、雰囲気的には「ようやくこの流れになった」という感じだな。


「ただ、さすがに全員の武装を解除するとか、そういう方向は無理だぞ」

『構わんよ。ただルグ様については現状、そちらに興味を示したが表に出る可能性は低い……それを言い含めておこうと思ったのだ』

「幻獣テラや幻獣ジンとは違い、まずは様子見ってわけか」

『いかにも。安全だと確信した段階でルグ様は動く。それは心してくれ』


 なるほど、幻獣ルグが出ないかもしれないから、そこは了承しておけと。まあ名前を聞いているのに一向に姿を現さないという状況となったら、俺達が訝しく思うかもしれないからな。幻獣テラに配慮する面もあるのだろう。

 なんというか、俺達も幻獣側も探り探りという感じだな……。


「ともあれ、いきなり顔を合わせたら戦闘開始になるとかよりはいいさ。そちらが信用してくれたタイミングで顔を出してもらって構わない」

『うむ、ならばそのようにルグ様には伝えておこう』

「一応確認だけど俺達はあなた達、幻獣がいる場所に行っても問題はないんだよな?」

『そこは私が拒否する権利はあるまい』


 返答し、使者は走り去る……というか、水上を走って帰っていくぞ。


「問題はなさそうだな」


 横からデヴァルスが現われて言及。それにこちらは肩をすくめ、


「幻獣ルグは姿を現さないかもしれないぞ」

「このくらいは想定内だ。まずはこっちに友好的な幻獣テラと話をするところからスタートになるな」

「幻獣ジンは好戦的みたいだし、一悶着ありそうだけど……」

「試練と称し、戦いを挑まれるくらいの覚悟はした方がいいな」


 デヴァルスはそう述べると、天を仰いだ。


「幻獣達の話を聞いていてわかったことは、彼らも地底に眠る『神』については得体の知れないものとして認識しているようだ」

「中には恐れる者もいるのかな?」

「そういう懸念を抱く者もいるだろうな……なんだか『神』の恐ろしさが増すような話だが、ルオンさんが相手にする存在はそれだけ巨大であるわけだ」

「幻獣テラとしては自分に勝てない者達が『神』に挑めるはずもない、って感じかな?」

「たぶんそうだな」

「……テラの特性は厄介だけど、俺なら勝てる。けど仲間達は――」

「幻獣ジンのこともある。例えばテラはルオンさんと戦い、仲間達はジンと、なんてパターンもありそうだな」


 ……幻獣ジンについては調べて見たけど情報なかったから厄介だな。ただここは、


「正直、出たとこ勝負かなあ……」

「行き当たりばったりだが、ルオンさんならなんとかなるさ」


 俺は苦笑する――ゲームの知識ではわからない部分ではあるけど、俺にはゲーム知識を利用した力はある。それで幻獣達を納得させる……手法としてはそれしかないな、と思った。


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