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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魂の聖域

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中継地点

 ――そして、出発の日。集ったのは戦闘員に加えてリチャルといった研究員も少々。そして、


「よろしくお願いします」

「……なんというか、説得で疲れてないか?」


 ソフィアも帯同することに。ただその、なんだか疲れているように見えるのは俺の気のせいじゃないよな?


「その、色々と頑張ったといいますか……」

「……説得、しただけだよな?」

「ルオン殿」


 と、横からエイナが割って入る。


「昨晩、深夜どころか日が出始めるくらいまで話し合っていたと聞けば、その一端が理解できるかと」


 ……それ、単に疲労困憊の重臣がただ単に根負けしただけなのでは? というか相手からすれば「無理矢理であり、こっちは外出を認めていない」なんて展開になりかねないのでは? 大丈夫?


「大丈夫です、ルオン様」


 そんな心の疑問に対し、ソフィアは口添えする。


「お城の方々は認めてくださいました」


 ……なんというか、ゴリ押しである。そりゃあのけ者にされたくないということでソフィアとしては必死だったわけだけど……うん、まあいいか。

 なんだか考えるだけ無駄な気がしたので、俺は気を取り直し、


「それじゃあ出発だけど……案内役は天使で、使い魔を用いて移動らしいから、まずは山へ向かう」


 というわけで出発。山へと進む間に、デヴァルスと合流する。


「やあ、絶好の旅日和だな」

「なんだその挨拶……で、予定としては――」

「さすがに島へ向かうには数日必要だから、いくつか中継地点を用意している……と、その一つに幻獣側の使者がいるぞ」

「使者?」


 そういう存在が待ち受けているとは、どういう……眉をひそめる間にデヴァルスは解説を行う。


「幻獣テラはかなり協力的だが、テラから話を聞いた幻獣の中には警戒している者もいるって話だ」

「……人間に近しい幻獣の使者か? 好戦的って聞いていたけど、部下とかは警戒しているのか?」


 確か人間に近い幻獣……報告書では名前がジンだったはず。


「いや、別の幻獣だ……テラを含め今回関わることになるのは三体。テラと報告書に記載したジン。そして神霊ガルクに近しい狼の姿を持つ幻獣ルグ……使者はルグのものだ」

「当然ながら幻獣テラと親交のある幻獣はいるよな?」

「そうだな。他の幻獣にもテラは連絡をとったそうだが……特に地底に眠る存在について調べることができる幻獣について幾度か連絡したそうだが、その幻獣は現われなかった」

「アンヴェレートの件に加え、その幻獣に会うのが目標かな」

「そういうことになりそうだ」


 デヴァルスは頷くと、手で進行方向を指し示す。その先に、移動のための竜が複数体存在していた。






 天使が用意した使い魔が竜とはいかに、と思ったのだがデヴァルスいわく「人数などを考えれば妥当」とのこと。姿形を変更することは可能みたいだけど、以前魔界へ赴くときに竜で移動するとかあったので、その影響とかもあるらしい。

 まあ別にこだわりがないのでいいけど……そんなやり取りもしつつ、俺達は移動を開始。目的地は大陸の南……といっても相当距離がある。よって天使達が用意した中継地点を幾度か経由して、俺達は向かって行く。


 竜の移動速度はそれなりで、魔王クロワが生み出したものとは遅い……ちなみにデヴァルスからすれば「無茶言うな」とのこと。まあ積載人数が違う上に、複数体いるからな。安全な空の旅を優先したってわけだろう。

 で、俺達は一つ目の中継地点へと到達した……のだが、


「これ、即席で用意したのか?」

「無論だ」


 俺の言葉に胸を張って返答するデヴァルス……中継地点一つ目は無人島なのだが、驚くことに建物があった。しかもずいぶんと小綺麗なホテルみたいな建物である。


「いやあ、単に魔法によって生み出した産物なんだが」

「建物を魔法で?」

「天使にはこういう芸当もできるってわけだ。ほら、ルオンさん達が天界で暮らしていた建物があっただろ? あれもこうして造られたものだよ」


 便利だな……と思っているとデヴァルスは苦笑し、


「ただ、今回のやつはあくまで急ごしらえってことであまり強度はない。具体的に言うと魔法なんかを使用するとあっさりと壊れる。それと、魔力を維持しなくなれば風化するので、この建物も寿命は短いぞ」

「どのくらい?」

「精々十日くらいだな」


 ……頑強そうな建物だが、実際は魔法によるものなのであっさり壊れるようだ。


「天界にあったあの宮殿みたいなのも、同じなのか? 魔力を供給していたようには見えなかったけど」

「天界にあるからなんとかなっているんだよ。天界の中ならば魔力供給は容易だからな」


 ああなるほど……たぶん天使達が天界で用いるための魔法を応用しているのだろう。十日で消え失せるというのは、天界ではなくこの世界では魔力供給を行うものが存在していないので、あっさり壊れるってわけだ。


「暴れない限りは大丈夫だから、明日に備えてゆっくり休んでくれ。全員が個室に入れるくらいの部屋数はあるはずだ」


 デヴァルスの言葉に仲間達は建物の中に入って行く。そこで俺は周囲を見回す。海岸線がくっきりと見える見晴らしの良い場所で、季節が夏ならば「泳ごう」みたいな主張をする人だっていたかもしれないな。


「あ、デヴァルスはどうするんだ?」

「俺は次の中継地へ向かうための準備をする。点と点を経由しての移動だからな。中継地点が見つからないのも命取りである以上、絶対辿り着けるよう色々と処置をしておかないといけない」

「そっか……ちなみに俺に会いたいという幻獣の使者はどの中継地点に?」

「三つ目の中継地にいる。そこには案内役の天使もいるから明日には辿り着きたいところだ……というわけで、さっさと準備をしよう」


 そう言い残したデヴァルスは足早にこの場を去って行く……旅の準備については彼に任せればよさそうだな。

 とすれば、俺は……ひとまず休めばいいか。


 しかし、まさか竜を用いてこんな旅をさらにすることになるとは。城に入って組織を設立したのだから、こんな無茶をやるようなことは少ないだろうと勝手に思っていたんだけど……日ごとに無茶度合いが増していく気もする。


「ま、幻獣に関わろうとしている時点で無茶苦茶か」


 そんな呟きの後、俺は建物に入る……ひとまず旅は順調。残る障害はおそらく中継地にいる幻獣の使者のようだった――


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