説得と報告
話が思わぬ形に向いてしまったわけだが、俺達の組織でやることは変わらない。幻獣テラがこちらに対し試練を与えるというのなら、それに応じるべく準備するだけ。
よって、俺はデヴァルスから言われた出発に合わせて色々と動き回る……で、問題はソフィアについて。協力的な幻獣ではあるが、戦う可能性は否定できない……ただそれは『神』に挑む組織に対するものだと予想できるので、彼女が帯同するなら戦うという可能性もある。そのためか、
「駄目でした……」
色々と説得してみたらしいのだが、猛反対だったらしい。仕方のない話かもしれないのだが、
「でも、あきらめている様子はないな……」
「はい。出発の日までまだ数日あります。準備は整っていますし、きちんと許可を取ればすぐに私も同行できます。ギリギリまで粘ります」
これまであまり見せないくらい決意に満ちた言葉である……俺に同行できないということでまず嫌なのと、さらにのけ者にされるのが嫌なのだろうと予想できる。
ちなみに現在は俺の部屋にソフィアが赴いて報告をしている……彼女の格好は城に入って幾度も見た白いドレス姿なのだが、なんだか窮屈そうに思えてしまうのは、たぶん気のせいではないだろう。
「でも、残り数日しかないぞ。説得できるのか?」
「わかりません……が、リーゼ姉さんだって同行するんです。私が一緒に行けないはずがありません」
その理由はわからなくもないけど……というかリーゼはいいのだろうかと疑問を抱いたが、言及はしないでおいた。
「しかし、幻獣という存在……それらによってもたらされる恩恵は計り知れないですね」
「そうだな。まさか幻獣側が友好的だとは思ってもみなかったし」
ただ、これは幻獣テラだけが親切なだけかもしれない。他の幻獣は例えば力で屈服させる必要があるとか……可能性は大いにありそうだよなあ。
その方が話は早いかもしれないけど……と、そういえば――
「デヴァルスさんが面白いことを言っていた」
「面白いこと?」
「幻獣、と聞いてソフィアは幻獣テラのように、動物のような姿をした存在をイメージするだろ?」
「そうですね。書物などに載っている幻獣も大方そうしたものです」
「ところが、幻獣というカテゴリーの中には人間のような姿を持つ者もいるらしい。天使の調査隊がそうした面々とも幻獣テラの仲介で出会ったらしいな」
もっとも、外見は一緒でも中身は別物だろうけど。
「その幻獣は人間が成すように集落を築いていて……その中にいる種族の長みたいな存在が、俺達組織の話を聞いて興味を示したらしい」
と、そうして話をしているとノックの音が。返事をしながら扉を開けると、エイナがいた。
「ルオン殿、報告書を……あ、ソフィア様。こちらにいたのですか」
「何か用があった?」
「いえ、侍女が探しておりましたので」
「……もしかして、黙って部屋を出たのか?」
こちらの質問にソフィアは微笑を浮かべ、
「ルオン様に会いに行くだけなので、問題はないでしょう」
……そりゃあまあソフィアの自由だけど、こういうので色々心配されるのでは……まあいいか。
なんというか、城に入ってからソフィアは結構奔放な一面もあるんだなと改めて思ったりする。公務とかはきちんとこなすのだが、自由時間になると時には秘密の脱出路を用いて外に出たりするくらいなので……ちなみに彼女の行動について、俺は何も言えません。そこはほら、察して欲しい。
で、エイナが去り俺は報告書へ目を通す。デヴァルスからのものであり、
「……あ、これは……」
「どうしました?」
首を傾げるソフィアに対し、俺は説明する。
「話題に出していた人間に近しい幻獣についてだ……その、なんというか、俺のことを事情説明したら、戦ってみたいと言い出したらしく」
「……好戦的ですね」
ソフィアの感想に俺は内心同意する。
さらにデヴァルスは組織のことについても詳しく説明を行い、その結果幻獣テラと人間的な種族とで『神』に挑む資格を持つかを見定めたいとのこと。ふむ、どうやら俺だけを試すという話ではないみたいだな。
「組織のメンバーにも頑張ってもらわないといけないみたいだな……」
「ルオン様、私について報告書に記載はあったりしますか?」
「……報告書にはソフィアのことを語ったかどうかはわからない」
一応組織に所属してはいるけど……いや、デヴァルスのことだからきっちり説明しただろう。それに組織にはソフィアだけでなくリーゼとかもいるわけで、王女がいると説明するのは極めて自然な流れである。
「説明したと解釈することにして……俺達は次に幻獣と戦うことになるみたいだ」
「……ここまでの話を統合すると」
と、ソフィアが語り始める。
「敵である『神』に関する情報を得るべく天使の遺跡を調べ、アンヴェレートさんがそれを知っているかもしれないという結論に至った。そして彼女を目覚めさせるには幻獣の魔力が必要で調査に入ったら、彼らは協力的で『神』に挑む資格があるかどうかを見定めようとしている」
「なんだか紆余曲折って感じだな……」
もし幻獣と手を組めたら彼らに無用な傷を与えることなく魔力源を確保。そこからアンヴェレートと話せるという構図になるので、想定よりも話は早く進むかもしれない。
「そして残る問題はソフィアについてだな」
「頑張ります」
「いや、別に行かない場合でも――」
「行きます」
語気が強まる。俺はそれ以上何も言えず黙って頷く他なかった。
で、ソフィアが去った後に改めて報告書に目を通す。デヴァルスは順調に幻獣と話し合いを続けている……もしかすると今後、組織内に幻獣が入ってきたりもするのだろうか?
「仮にそうだったらさらに賑やかになるな……」
現在エーメルが戦闘員の訓練を施しているけど、ここに幻獣が混ざったらさらにとんでもないことになりそうだ。
ともあれ、今は彼らとの話し合いが上手くいくことを祈るとしよう……俺は報告書をしまい、仲間達の状況を窺うべく立ち上がる。
「ソフィアは……あと数日だけど、結論出るのかなあ?」
たぶんクローディウス王は行ってもいいと許可するだろうけど……ここは城側に任せるしかないので、俺は自分にできることをやるべく、部屋を出た。




