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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魂の聖域

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挑む者達

 以降、鍛錬を続けた結果だが、結局誰も俺に勝利した人はいなかった……のはまあ仕方がない。けど戦力分析はしっかりとできたし、良い模擬戦闘だった。


 で、以降も鍛錬を行いながらデヴァルスの調査を待つ……ただ天使達が幻獣についてどこまで調べられるのだろうか――と思っていたら、訓練開始からおよそ五日後に連絡が来た。

 俺が彼に会うために客室を訪れる……で、彼の姿を見て俺は首を傾げた。


「……どうした?」


 デヴァルスは複雑な表情をしていた。こちらの指摘に対し彼は黙ったまま座るように促す。

 なので俺は着席する……と同時にデヴァルスは口を開いた。


「まず、幻獣について……生態などを調べるにしても、居所などを確かめなければならないため、天使達を用いて斥候を生息場所に放った」

「その相手は以前語っていた幻獣テラか?」


 デヴァルスは頷く。うん、経緯はわかったのだが、その表情は――


「そして当然、幻獣に見つからないよう調査をしていた……最高の形としては幻獣に見つからないように魔力の質などを調べられれば良かったが、結果として幻獣テラに見つかった」


 おいおい……大丈夫だったのか?


「で、結論としては、話をした」

「……は?」


 思わず聞き返す。話をした?


「幻獣は知性ある存在である以上、警戒されるくらいの考慮はしていたのだが、言葉を理解しこちらと話をすることができた」

「……それで、どうしたんだ?」

「こっちは島の調査だと最初は言い募ったらしいが、幻獣テラは狙いが自分自身であると看破した」

「駄目じゃないか……それで天使は――」

「いや、全員無事だ。幻獣テラはそれを踏まえた上で、話を持ちかけてきた」

「話? 何の?」

「調査理由……というかなぜ自分を狙うのかを話し、それ次第では協力すると」


 な、何て物わかりのいい幻獣と思いながら俺は話を聞き続ける。


「調査隊の面々は悩んだ後、俺に連絡をとった。そこでこちらが出向き話をした」

「それで、どうなったんだ?」


 ゴクリと唾を飲み込みながら問い掛けるとデヴァルスは、


「まず『神』に挑むことを正直に話すと、幻獣テラは協力すると表明した」

「それはつまり、幻獣は『神』の存在を知っている……?」


 そんな展開になるとは想像もつかなかったが……。


「そのようだ。例えば精霊で情報網があるように、あるいは天使達で情報網があるように、幻獣達にもそういう情報網があるようだ」

「幻獣テラは他の幻獣から『神』の情報を?」

「より正確に言うと『神』という概念ではなく、地底に眠る凄まじい力については存在を知っている……その力を知覚できる幻獣がいるらしい」


 そう語った後、デヴァルスは一度座り直した。


「幻獣テラによると地底の力を観測する幻獣が異変を感じ取ったらしい」

「異変……!?」

「地底の奥底の魔力が活発になっている……これが『神』に関連するものかどうかはわからないようだが、少なくとも地底で異変が起きているのは確からしい」

「幻獣も何かに気付いている……と?」

「ああ。そして人間が挑もうとしているのを聞いて、幻獣テラは提案した。ならば力を示し、地底に眠る存在に打ち勝てるだけの証明をすれば、協力すると」


 つまり、幻獣達もその地底の異変に対し危惧を抱いているということか。そしてこれは非常に良い展開になった。幻獣の力をとるのではなく、手を貸してもらえる……精霊、竜、天使、魔族に続いて幻獣とまで手を結べるとなれば、最高の形だ。


「アンヴェレートを目覚めさせるための活動だったが、話はあらぬ方向へ進んだ……が、むしろ良い流れだ。幻獣とも協力関係を結ぶことができれば、『神』に挑むための力を得ることができるな」


 デヴァルスの言葉に俺は頷き、


「それに、地底に眠る力を観測しているのならば、さらに情報を得られる」

「そうだな。とはいえ幻獣テラは情報を渡さなかった。俺達のことを完璧に信用しているわけではないようで……『神』に挑む組織の長であるルオンさんとも話をしたいらしい」


 ――こちらとしても願ったり叶ったりだな。


「ああ、俺としても幻獣と話をしてみたい……が、信頼を勝ち取るにはどうすればいいんだ?」

「そこは幻獣テラと話をしてみなければわからないが、天使が活動していることからもそう悪くない様子だったぞ」


 俺達はテラを狙いにきたんだけど……懐が深いというかなんというか。


「驚くべき内容だけど、ひとまずその要求に従ってみよう」


 デヴァルスは頷く。幻獣から情報を得るなんて発想は浮かばなかったけど、これは非常に良い展開だな。


「ふむ、俺以外にもソフィアも会わせてみたいな……神霊達も引き合わせるべきか。ガルク、どうだ?」

『うむ、我も顔を突き合わせて話をしてみたい』


 右肩にガルクが出現して言及。うん、方針は決まったな。


「内容的にきちんと話せばソフィアも外出許可はもらえるだろ……戦うわけじゃないからな」

「協力するには一定の力を示す必要が出てくるかもしれないが……ルオンさんなら心配はいらないか」


 そこでデヴァルスは肩をすくめ、


「ただ、ルオンさん以外に組織の人員の戦力分析とかされたら……」

「着実に強くなっているけど、まだまだ発展途上だからな……でもそういう話なら、組織の人員は連れて行くべきだろうな」

「ああ、組織がどういう面々なのかを示すのも、幻獣テラを説得するには必要だろう」

「日時は?」

「こちらの都合で良いとのことだが、早い方がいいだろうな」


 うん、そうだな……俺は頷き、そこから今後のことを決めていく。


 思わぬ幻獣からの提案だったが……ふと、俺は思う。ここまで様々な種族が手を結んだわけだが、そこに幻獣が加わることとなった。もちろん幻獣全てが仲間になるとは思えないが、それでも相当な成果だ。

 そしてこれは『神』に対し世界の種族全てで挑むような様相を呈している……ただそれでも力の底が知れない相手。そして幻獣から情報を得られるかもしれないことを踏まえ、今回の作戦は必ず成功させる……そう心の中で強く決心することとなった。


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