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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魂の聖域

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駆け引き

 俺とリーゼの武器が激突した瞬間、衝撃が少なからず両腕へと走る。フィリ以上の衝撃だと感じたと同時、リーゼが所持していたハルバードにヒビが入った。

 魔法で作り上げた武器の限界。さすがに衝撃に耐えきれなかったらしい――と、ここで彼女はなおも前に進んだ。ハルバードを失ったことで逆に身軽となって、懐へ潜り込もうとしているのか。


 そして彼女は拳を突き出した……体術か!?


「っ!」


 反射的に俺は剣を無理矢理引き戻し、その拳へ剣の柄頭を向けた。結果、小手に直撃。俺の体へ届こうとしていた拳がこちらの反撃によって軌道が大きく逸れた。

 それによって彼女の攻撃は不発に終わる。こっちは後退して一度仕切り直しと思ったのだが、リーゼはそれでも果敢に攻めようとする。


 蛮勇、という表現が似合うくらいの鉄砲玉だが、こちらが守勢に回ったことにより、好機だと悟り何が何でも食らいつこうという腹づもりなのだろう。とはいえ奇襲が通用しなかった時点で退くべきでは……と思ったが、彼女にはまだ何か手が残されているのか。

 もしそうなら――あるいはそういう風に見せかける意図でもあるのか。


 なんだか心理戦の雰囲気すら垣間見られた攻防だが……俺は突撃するリーゼに対し立ち止まった。後退を中断し、懐へ滑り込もうとするリーゼを迎え撃つ構え。

 彼女もそれに気付いたようだったが、ここで退いても意味がないと判断したのかなおも進撃。それに対し俺は左手に魔力を集めた。


 肉薄する俺とリーゼ。双方が次の一手に出ればそれで確実に決着がつく間合い。

 そして先手を打ったのはリーゼ。両腕に魔力を集め、こちらの反撃すらも吹き飛ばそうという考えの一撃だとわかった。


 下手な技ではなく、瞬間的に出せるだけの力を注ぎ込むような形か。防御を完全に捨てた形だが、現状で打てる手が少ない今の戦型では有効だとも思う。

 だが……リーゼが最適解を即座に出せたように、俺もまたこの状況下でベストと思える選択をとる。


「――放て」


 小さな声。左手に集めた魔力を解放。といっても攻撃的な要素はほぼ皆無。俺がやったのは極めてシンプルな風魔法。ほんの一時、リーゼの勢いを削ぐもの。

 俺の左手を中心にして舞う風は、リーゼの足をほんのわずかに止めた。前のめりになっている彼女にとっては耐えるだけの力は全身に入れていたはずだ。しかし一瞬――本当に一瞬だけ硬直したことにより、彼女の戦術は瓦解する。


 俺にとってその一瞬は十分過ぎる時間。両腕に収束させた拳を彼女が放つよりも先に、俺の剣がリーゼに届いた。

 といっても両断するわけではない。俺がやったのは、剣の刃をコン、と彼女の小手に当てること。刹那、刀身から発した魔力によってリーゼがまとっていた魔力が乱され、弾けた。


 相殺というレベルではない。リーゼの反応速度なら即座に魔力を再収束させるくらいのものだ。だが俺がそんな余裕を与えるはずもなく……追撃の剣が彼女の体へ降り注いだ。

 パン、と弾ける音。連撃によってリーゼの魔力はさらに弾け……動きを大きく鈍らせる。


 ここで後退を選択した場合、彼女も仕切り直しという形で再度攻撃を仕掛けてくるだろう。だがその余裕は与えない。返す刀で彼女の首筋に刃……それで彼女は動きを止めた。

 沈黙が生じる。周囲にいる面々も今の戦いにはついて来れているはずなので、動作一つ一つにどういう意味があったのかはおぼろげにでも理解しているはずだ。


 俺とリーゼは双方立ち止まったまま視線を重ね……やがて、


「頑張ったつもりだけど、一撃食らわせるまでは至らないか」

「……食らっていたらさらに追撃をって考えだったか?」

「そうね。今の攻防で決着がつくってわけでもないでしょう? 一撃当てたらその次……と、つなげることはできたはずよ」


 俺から距離を置く。そこでようやく周囲の面々――エイナがリーゼへ口を開いた。


「ハルバードを捨てることは、想定の内に見えましたが」

「正解よ。武器が壊れることは確信していた。魔法を用いていくら強度を上げても耐えきるのは難しいと思っていたし……けど、壊れるならそれを逆手にとって接近すればいい……そんな風に解釈して仕掛けたけど、甘くはなかったわね」

「でも、俺達の中で一番ルオンさんに迫っていたのは事実だな」


 アルトが言及。確かにそうだが――


「ただ失敗したら後がない戦法だからな……誰かがフォローを入れてくれないと危険すぎるな」

「それはほら、仲間達が頑張ってくれるでしょう」


 俺の言葉にリーゼは笑いながら語るが……、


「仲間に任せる、といっても無茶はやめてくれよ」

「わかってる。ともあれ色々とやりたいこともやれたから、私としては満足ね」

「……そっちが納得するならいいけど、今の戦法はオススメはしないぞ」

「ええ」


 ……王女という身分なのに一番無茶しそうな雰囲気だなあ……ただまあ、戦力としては十二分だと思う。奇襲とはいえ、こっちの裏をかいて突き崩そうとしたのは事実。もし風魔法の対策などしていたら、勝敗は逆転していたかもしれない。

 一つ言うならこれから戦うであろう『神』という存在に人間的な駆け引きが通用するのかという疑問はあるけど……意思があるのならば効果はあるのだろうか? その辺りはやっぱり情報を得なければどうとも言えないな。


「……よし、それじゃあ次に行こうか」


 俺が一つ呟くと、他の面々が顔を見合わせる。


「体の方はまだ大丈夫なのか?」


 尋ねたのはオルディア。俺は首肯し、


「まだいける……というわけで、来るといい。あ、ちなみに再戦もいいぞ」

「なら私が」

「リーゼ様、連続はさすがに辛いと思いますが……」


 即座に手を上げたリーゼに対しエイナが言及すると、


「連戦でもきちんと体を動かせるか……それを計るのも必要じゃない?」

「そうかもしれませんが……ルオン殿、この調子だと色々な状況下で模擬戦闘を行う流れになってしまうが……」

「それならそれでいいよ。最初に一騎打ちでと言ったが、もし組めるなら複数人でも構わない」


 むしろそっちの重点に置いた方がいいのだろうか……? 内心で俺の方も考えながら、訓練に没頭していくこととなった。


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