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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魂の聖域

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二つの情報

 翌日から俺達は城へ戻るべく移動を開始。天使ユノーが加わったことでずいぶんと賑やかになった。

 その間に一つ確認を行う。天使にアンヴェレートの詳細を伝えるのはデヴァルスと相談する時に判断するのだが、こちらの推測が合っているのかを確認しておく必要がある。


 よって、会話の中でそれとなく尋ねることに。その役目はリーゼが担う。


「そういえば、あなたにも当然マスターがいたのよね?」


 街道を歩きながら会話を行う。先頭は俺で、少し後方に耳を傾け様子を窺うことに。


「うん、いたよー」

「その人も当然ながら天使だったと思うけれど、迎えにこなかった以上は戦いに負けたってことかしら?」

「どうだろう……仮に生き延びたとしてもずいぶんと時間が経ったわけだから、さすがにもう生きていないと思うよ」

「念のため訊いてもいい? 天使と交流があるから、もしかしたら聞き覚えがあるかもしれない」

「ないと思うけどなあ……マスターの名前は、アンヴェレートだよ」


 ――やっぱり、そうなのか。

 内心の呟きなど、心情については表に出さない。彼女の扱いについては城にいてもらうことに確定しているので、問題はない……のだが、何か引っ掛かるなあ。


 またその後、ユノーから色々と情報を聞き出してはみたけれど、あの遺跡にいた経緯などを含めてまったくわからないらしい。ただ一つ、


「マスターはあなたにとってどうだった? 優しかったの?」

「そうだねえ。こんなこと言うのもアレだけど、研究に没頭していて友達とかあんまりいなかったみたいだからねえ……あ、もちろん研究者として交流はあったみたいだけど、あたしは関わっていないから詳しくは知らないよ」

「気心のしれた相手はあなただけだったということ?」

「そうだね。もっともあたしはマスターに創られた存在だけど……こっちは話をするだけで毎日楽しかったけど、マスターはどうだったのかなあ」


 ――ユノーにアンヴェレートのことを伝えても、もう会えないとわかっているみたいだし精神的に問題はないと思う。一瞬デヴァルスと相談せずともいいのではないかと思ったが……堕天使となってしまったわけだし、ここは少し考慮すべき点か。

 それに、下手にその辺りのことを喋って天使ユノーが天使などに話してしまったらどうなるかわからないし……うん、やっぱりデヴァルスと相談してどうするか決めた方が無難だろうな。


 ひとまずそう頭の中で決定し、城へと急ぐ……距離はあるが寄り道などしなかったので、すんなり帰ることはできたのだった。






 城へ戻ると既にデヴァルスが待っていた。話によると俺達よりも五日ほど早く調査を達成したらしい。俺は彼と対面する形かつ、二人だけで話をすることとなった。


「どうだった? 調査は?」

「怪我もなく無事にできたのは何よりだが、収穫はなし……いやまあ、一つだけあるんだけど」

「微妙な返答だな……まあいい。まずこちらから報告してもいいか?」

「ああ、いいよ」

「まずレーミッドの研究施設については見つからなかった……これは極めて残念であり、前途多難だと言っていい」

「まだ調査していない遺跡はあるだろ?」

「確かにあるが、可能性が高い場所を狙って調べていたからな……ただ、手がかりらしきものを見つけることはできた」


 それは朗報だな……言葉を待っていると、


「とはいえ、厄介なことになったのは事実なんだが」

「……どうした?」

「結論から言うと、レーミッドは他者に資料を提供していた。その天使とは異なる彼の友人の手記のようなものを手に入れ、その事実が判明した」

「ということは、その提供した天使を調べればいいと?」

「そうだ。だがな……」


 苦笑するデヴァルス。どういうことかと眉をひそめていると、


「その、提供した天使の名が……アンヴェレートらしいんだ」


 そう告げるとデヴァルスはこちらに目を向け、


「――どうしたんだ? 驚くとは思っていたが、なんだか様子が違うぞ」


 俺が目を丸くしていることに対する言及である。うん、そう問いたい気持ちはわかる。


「……こっちの報告をしてもいいか? 実は俺もアンヴェレートに関わる情報を持っている」


 というわけで天使ユノーについて話す。結果デヴァルスは、


「うーーーーん……」


 無茶苦茶唸り始めたぞ。気持ちはわかる。


「まさかここに来て二度もこの名を聞くことになるとは……」

「俺も同意見だ。それで、どうする? どうやら鍵はアンヴェレートが持っているけど、彼女が研究していた場所なんかは、十中八九壊されているだろ?」

「そうだな。堕天使となったロスタルドの仕業なのかは不明だが、彼女の研究施設等は壊れていると考えるのが妥当だ」

「ということは、引き続きレーミッドの遺跡を探すのか?」

「微妙なところだが……アンヴェレートについて注力しようか。彼女についての手段は時間が経てば経つほど可能性が低くなるし」


 どういうことだ――と聞き返そうとした矢先、デヴァルスは話題を変えた。


「本題に入る前に、天使ユノーについてだ。手のひらサイズというのは使い魔型の天使だな。ルオンさん達には見せていないが、天界にもああした存在はいる」

「へえ、そうなのか……天界に連れていった方がいいのか?」

「いや、堕天使となってしまった天使の使い魔である以上、立場としては微妙だ。ルオンさん達で保護してもらう方がいいと思うが……ここは彼女の意見も尊重しよう」

「なら話すってことでいいんだな?」

「それで構わない……というより、そちらに任せてもいいか?」

「俺は構わないよ。一緒に旅をしていて思ったけど、見た目的にも場を和ませる力を持っているし、性格的なトラブルはなさそう。それに城の人は精霊の類いだって見慣れているし、問題は生じることはないだろう」

「心配なさそうだな。では話を戻そう。情報を得るための手法だが、アンヴェレートに直接訊くのがてっとり早い」


 ……ん?


「ちょっと待て、アンヴェレートに? 生き返らせるとか?」

「それは天使でも無理だ……が、生き返らせるのではなく、魂を一時的に呼ぶ。天使ユノーにとっても話ができるし、これが望ましい手段だろう」

「できるのか? そんなことが?」

「はっきり言ってかなり大変だが」


 苦笑するデヴァルス。天界の長がこう言っているのだ。相当難易度が高い手法に違いない。


「今から説明しよう。遺跡をくまなく調べるのとどっちが早いのかわからないが……ルオンさん、実際に彼女のことを優先するか、遺跡をなおも調べるか……どうするかは内容を聞いて判断してくれ――」


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