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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魂の聖域

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深夜の協議

 その後、俺達はユノーを伴い最寄りの町へと戻る。移動は翌日以降ということにして、その日は町で一泊することになったのだが――


「調査は一通り終わったけど、収穫は天使だけか……」


 閑散とした酒場で俺は一つ呟く。時刻は深夜前といったところ。俺以外にちびちびと飲んでいる人がいるためか、まだ店は営業している。

 普通なら明日に備えて眠る時間なのだが、今日は別だった。


「……ルオン様」


 俺を呼ぶ声。視線を転じれば名を告げたソフィアと、横にはエイナ。


「話し合い、ですよね?」

「そうだな。意味があるのかわからないけど」


 そう一言告げた後、二人を席へ促す。そして三人で会話をすることに。


「ちなみにだけど、リーゼは?」

「既に眠りました。事情を簡潔に説明したら、後は任せると」

「彼女は関わっていなかったわけだし、今回の話に参加しなくとも良いかな……」


 俺達で判断しろって意味合いでもあるのだろう……では、


「天使ユノーについて話をしようか……遭遇した時点でソフィアもエイナも気付いたとは思うけど」

「……はい」

「そうだな」


 重々しい表情で二人は同意する。


 遺跡で唐突に遭遇した、というのも困惑した理由ではあった。とはいえそれが一番ではない。

 今回こうして集まったのは、その確認と、何よりどうするかについて――最初ユノーを見た時、リーゼ以外の三人は同じことを思ったはずだ。似ている、と。


 いや、似ているというのも語弊がある。うり二つと言っていい。

 誰にか――それは、以前堕天使ロスタルドを打倒する際、手を組んだ闇に潜んでいた堕天使、アンヴェレート。


 彼女が闇を払った時の顔立ちと、まったく一緒だったのだ。


「天使ユノーからマスターの名前について問い質してはいないけど、十中八九彼女の名前が出てくるだろうな……そう確信させられるくらいに、似ている」

「分身、でしょうか」


 ソフィアの疑問。そこで声を発したのは、テーブルの上に出現したガルクだった。


『魔力の質については似通っている部分もある。アンヴェレートの魔力を利用して形作られた存在と考えていいだろう』

「ガルク、彼女が言及していたことについてだが」

『初めて会った気がしない、という言葉だな』


 ガルクの指摘に俺は頷き、


「あれはもしかして、アンヴェレートの魔力とかが関わっていたりするか? 彼女が消えてから時間は経過しているけど、何か感じ取ったのか」

『我としてはルオン殿達からアンヴェレートの魔力を感じたことはないので、否定したいところではあるが……同一の魔力を抱える存在だ。天使ユノーにしかわからない残り香のようなものを、感じ取ることができたのかもしれない』

「そうか……」


 ここで俺は一考し、


「役割としては使い魔なのか、それとも……この辺りはデヴァルスさんに尋ねてみればいいだろう。小さい天使という存在が他にいるのなら、その辺りの疑問は解決する」


 マスターの名前を聞かなかったのは、困惑した状態で尋ねて「なぜ確認するのか」と疑問を持たれるのが嫌だったためだ。問い返されたらどう説明していいかわからなかったし、疑問をぶつけるにしてもこうして一度話し合いをして、頭の中を整理してからにしたかった。


「ともあれ、目標としていた天使とは別に解決しなければならないことができてしまった。天使ユノーをどうするのか」

「保護するのは問題ありませんし、お城の方々は受け入れてくれると思います」


 ソフィアの提言。こちらは「それは良い」と応じ、


「残る問題は……彼女にアンヴェレートのことを話すのか、だけど」


 ソフィアとエイナは沈黙してしまった。その理由は痛いほどわかる。


「天使ユノーもまさか最近まで生きていたとは想像もつかないだろうし、ショックは小さいかもしれないけど……あの遺跡に押し込められ目覚めまで相当時間が掛かった時点で、マスターは死んだと解釈しているだろうから」

「戦いがあったと言っていましたが、それは堕天使ロスタルドとの戦い、でしょうか?」


 ソフィアが口にした疑問に対し、俺は肩をすくめ、


「そこについては、アンヴェレートに直接訊いてみなければわからないな……といっても当事者がいないわけで、謎のままか。ただまあ、状況証拠的にそうなんだろうなと推察はできるけど」


 アンヴェレートは過去についてあまり深くは語らなかった。なので真相は闇の中になってしまうけれど――


「ともあれ、天使ユノーがアンヴェレートの関係者であることは、ほぼ間違いないと思う。仮にマスターが別人であったとしても、あそこまで顔を似せている以上は、そのマスターとアンヴェレートが関係者であったことは確定的だ」

「……これはあまり良い想像とは言えないが」


 と、ふいにエイナが語り出す。


「例えば彼女を想うがあまり、使い魔の顔を彼女に似せたというケースは……」

「ゼロとは言えないが、そうだとしたらそっとしておけばいい気はするな……」


 俺は苦笑しながらそう答えると、一つ提案を行う。


「明日、調査に必要ということでマスターを含め、彼女に知っている天使の名を教えてもらうことにしよう。町へ帰ってくるまでに肝心のレーミッドという天使の名は知らないと判明したわけだけど、該当する天使に繋がる名前が出てくるかもしれないし」


 可能性は限りなく低いけど……ただ当時のことを知っている天使だ。何か有益な情報を得られる可能性だって考えられる。


「ひとまず決めておくことは以上かな……資料にある遺跡については巡ったから、帰ってから今後どうするかは検討するしかないな」

「デヴァルスさんの方がどうだったか、ですよね」


 ソフィアの言及に俺は首肯。

 デヴァルスも調べているので、そちらで成果があれば良いけど……厄介事とは言わないが、まさかこの大陸で彼女の名を引き合いに出すことになるとは思わなかった。


 俺はふと、アンヴェレートの最期を思い返す。あの時、彼女は俺にあることを告げた。それについては俺単独でやっても良かったけど、デヴァルスにも事情を伝えどうするかは一任してあるのだが――


「……その件を含め、デヴァルスさんと話をしておくか」


 小さな呟き。結論が出たので俺は解散を言い渡し、部屋へ戻ることにする。


 天使ユノーについては、もう少し目覚めるのが早ければ……そんな風に思ったりもしたが、結局のところ彼女の存在に気づけなかった以上はどうしようもなかったかな。なんだか引っ掛かるものを感じていたが、それを押し殺し――俺は、眠ることとなった。


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