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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魂の聖域

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特殊な場所

 順調に遺跡探索を続け、俺達はやがてバールクス王国の南部――ロロスティア地方へと辿り着く。


 基本的に魔王襲来による被害は首都に近ければ近いほど大きくなっている。無論南部でも魔物が多数出現したケースもあるため被害の大きい所も存在しているのだが……街道沿いの町については、比較的傷も浅そうだった。


「えーっと、次の遺跡はどうやら以前から発見されていたようですね」


 遺跡へ向かう間、俺は資料を手にするソフィアの話を聞くことにする。


「入り込んだ冒険者もいたようですが、最奥にあったものを手に入れることなく終わったそうです」

「既に人が入っている場所か……その冒険者達が調べているのなら、資料がある可能性は低いような気もするけど」

「デヴァルスさんの資料によりますと、最奥に眠っているものが気になるそうで」

「気になる……?」

「リリトさんが魔法で調査していた時、特殊な魔力を感じたそうです」


 それが調べる理由……となると、


「今から向かう遺跡には他の場所にはない何かがあるってことか?」

「そういう解釈みたいですね。ただ魔力を感じるということなので、資料の類いかどうかはわかりませんが」


 ふむ、気になった部分があったから調べるってことか。俺は「わかった」と返事をして、ソフィア達と遺跡へ向かう。


 程なくして到着した場所は、岩山。その場所にぽっかりと洞窟が見えた。


「事前に聞き込みをした情報によると、普段は入口など見えていないようですが……」

「……聞き込み? ソフィアが?」

「はい」


 王女である彼女の顔も少しずつ知れ渡っているはずだけど……まあソフィアが上手くやったのだろうか。


「ともかく、今日は開いていると」

「幻術の類いでしょうから、普段から入ることはできそうですけれど……ともあれ、あそこが入口です。魔物などは外に出てくることはないようですが、気をつけてください」


 彼女の警告と共に、俺は遺跡の中へ……とはいえ、人の手が入っている以上は罠なども解除されている可能性が高い。よって魔物にさえ注意すれば――


「……ん?」


 入口を抜け、暗闇だったので魔法で明かりを作成した直後、俺は立ち止まった。


「ソフィア……」

「はい、私も感じます」

「なんだか、魔力が漂っているわね」


 リーゼも同調。エイナも「そのようです」と相づちをうち、全員の意見が一致した。


「というか、視線のようにも感じられるわね」


 さらなるリーゼのコメントに俺は「そうだな」と同意した。


 彼女の言う通り、漂う魔力は俺達をどういう存在なのかを見定めているような空気が存在する……まるでこの遺跡自体が侵入者を推し量っているような空気。確かにデヴァルスが気になった場所だとして調べようとするのも納得がいく。

 ただその気配に殺意などはなく、不安感を煽るようなものでもない。加え出現する敵は、それこそ弱い魔物ばかり……『グレイラビット』というゲームの序盤に出てくるような魔物が出現し、当然ながらそれらを蹴散らし俺達は進む……久しぶりに見たな、この魔物。


「魔物自体は弱いですね」


 ソフィアの感想。それにエイナが同調し、


「この遺跡内の魔力は、リーゼ様の仰るとおり視線めいたものを感じますが、魔物を強くするといった効果はないようですね」

「仮にこれが私が言った通り視線の類いであるとしたら、この遺跡内に何かしらの存在がいることになるけれど……」


 遺跡に何かがいるとすれば魔物以外にいるとは思えないが……害意がない様子なので、魔物であるにしても少し違うのか。


「この遺跡の守護者とか、か?」


 俺の推論にリーゼは「かもしれない」と答え、


「ま、ともあれ最奥へ行く前に色々と調べましょうか。資料をまずは探さないと」


 その言葉に従い、俺達は遺跡探索を続行。やはり視線のような魔力を感じ取ることができたわけだが、ひとまず俺達は無視して調査を行う。

 少しの間歩き回り、部屋を見て回る……とりあえずわかったことは、この場所はほとんど物が存在していないということ。鉄箱など何かしらの用途で使っていたことがわかるのだが――


「施設として使っていた、とは思えない場所ね」


 リーゼの指摘。それにソフィアは賛同したか、


「はい、表現としては、倉庫のような場所でしょうか……」

「箱とかは置いてあるからな。資材を搬入する場所というのがしっくりくるかな……」


 それなら何かしらアーティファクトがあってもおかしくないが……ここで俺はリーゼへ言う。


「仮に冒険者達が踏み込む前からこういう様相であったとしたら、そもそも使われていなかったのかもしれないな」

「そう解釈するのが妥当なくらいには、何もないからね……ただそうするとこの魔力は一体何なのか、だけど。それなりに奥へと来たけど、魔力が少しずつ濃くなっているわよね?」


 リーゼの疑問。俺はそれに頷き、


「といってもそれほど量が変わっているわけじゃないが……この様子だと、最奥の場所に魔力の根源があるのかもしれないな」


 正直何かがいるとは考えにくいので、人間などが近づくことで反応するアーティファクトとか、だろうか? それならまだ一応説明がつく。


「ともあれ、一通り調べてから最奥へ向かおう」


 ――その後、魔物を蹴散らしながら遺跡内部を探索したが、成果はまったくなかった。そして俺達は一番奥と思しき場所へ向かったのだが、


「……扉か」


 俺達の目の前に観音開きの扉が。で、ここだけ魔力的な仕掛けがある。


「罠っぽいな……たぶん一度締まったら開かないとか、そういう罠かな?」

「そうでしょうね」


 ソフィアは同意しながら考察する。


「扉の奥から明確な気配を感じますから、この奥に入口から感じられる魔力の根源があるようです……冒険者達はおそらく、この場所に罠があるとして引き上げたのかもしれません」


 その可能性は高そうだな……というわけで俺達は互いに顔を見合わせ、


「といっても中の魔物は俺達にとってはさしたる障害じゃないよな」

「だと思います」

「だろうな」

「だと思うわ」


 相次いで答えるソフィア達。心強いというかなんというか……。


「……それじゃあ、扉を開けようか」


 俺が手を伸ばす。罠の類いはなさそうだけど……この場合、部屋に入ったら閉じ込められるとか、そういう仕組みだろうか?

 たぶんだけど、中にいる魔物がその辺りを制御しているとか、かな……? 疑問を抱きながら俺は扉を開ける。そして中を確認すると――遺跡最奥の敵が待っていた。


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