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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魂の聖域

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長の依頼

「おはよう、と」


 バールクス王国王城内に存在する組織の広間、俺は扉を開けて挨拶をする。いくらか人はいたけど全員が話し込んでいるようで、俺を見て小さく会釈するのに留めた。

 で、目的地は広間から入れる事務室。そこを開けると暖炉から熱気が湧き上がる暖かい空気が肌を撫でた。ちなみに暖炉が発する熱は薪がくべられた火ではなく、太陽のような魔法の光。


 壁際には書類や多数の本が押し込められた棚。そしていくつか事務机があるのだが、その日事務室にいたのは一人だけ。しかも朝から机に突っ伏していた。


「おはよう」

「……おはよー」


 顔を上げる。女性で長い茶髪を一本の三つ編みに。格好は士官服的なものではあるが、それを少しばかり着崩している。容姿的には結構可愛いと思うのだが、そんな顔つきは仕事が始まるためかどこか憂鬱に見える。


「寝ていないのか?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど、今日やる仕事内容がハードだから、ちょっとテンションが下がっているだけ」

「そうか……はい、サラご所望の仕事」

「うへえ……」


 言葉を吐くと、彼女――サラは額に手を当てた。


「ルオン、もうちょっと手加減してよ」

「これでも俺が三分の一くらいは受け持っているんだぞ? 他の事務員さんと一緒に頑張ってくれ」

「はあ、わかったよ」


 ため息をつきながら書類を受け取り中身を確認。そして深々とため息をついた。


 ――彼女の名はサラ=デイス。俺の故郷における知り合いというか幼馴染みであり、俺が「仕事を手伝ってくれ」と要望したことで故郷からこの城へ仕官した人物である。

 元々幼少の頃から死なないために修行漬けだった俺に友人ができるということはあんまりなかった。ただ彼女は俺が剣術を教わっていた人と同じ人を師事していたので交流があったのだ。結果的に故郷を離れるまで付き合いもあり、彼女は魔王襲来時故郷の町で警備兵をしていた。


 ただ事務的な仕事もそれなりにさばいていたというのを聞いたので、信用もできるし誘った結果、彼女は応じた……たぶん給金の多さに釣られてやってきたのだが、その分仕事も大変で毎日忙しない日々を送っているわけだ。


「明日休暇だろ? どうにか頑張ってくれよ」

「わかったよ……カティさんでも誘ってショッピングにでも行こうかな」

「ああ、そうするといい……それじゃあ俺はこれで」

「え、ルオンは今日どうするの?」

「来客なんだ、今から」


 俺はサラへ視線を向け、告げる。


「もしかすると城を出る可能性もあるから、そのつもりで。俺の仕事は他の人に割り振るから、負担は増えないから安心してくれ」

「それは良かったわ……何か荒事ってこと?」

「来客相手の話を聞いてみないとわからない」

「ちなみにお相手は?」


 サラの問い掛けに俺は、


「天界の長――デヴァルスさんだ」






 魔界での戦いから組織作りに集中して、季節は冬を迎えた。草木は枯れ寒い日が続き、山なんかは荒涼とした世界が広がっていたりする。


 そうした中、俺達の組織は着々と体裁を整えていった――魔界での戦いの後、俺達は熟慮を重ね、少しずつ仲間を増やしていった……その結果、フィリを始めラディやオルディアといったゲームの主人公達が全員集まってくれた。俺としては壮観と言って差し支えない面々がこの組織に集っている……で、そうした面々はエーメルと訓練を続け、確実に強くなっている。


 ただ現時点でエーメルに単独で勝った人間はいない……リーゼとかは一度惜しいところまでいったらしいのだが、奇策に次ぐ奇策だったようで、「正攻法でなければ意味はない」と語っていた……正直、魔王候補だった魔族(しかも鍛錬により成長中)に奇策とはいえ対抗できている時点で相当な気もするけど……ま、俺が何か言っても聞かないだろうし、仲間達が納得するまでやればいい。


 俺は俺で仕事をやる……今日デヴァルスが来訪したのは、魔族ビゼルとの戦いの前に語っていた頼み事についてだ。何をやるのかまだ知らされていないけど、事前に組織に所属する天使リリトから聞いた話によると「外に出てやるもの」とのこと。


 俺としてはどういう内容なのかおぼろげに想像できるのだが……組織のある建物ではなく城内の一角にある客室を訪れると、デヴァルスが待っていた。


「久しぶりだな、ルオンさん」

「ああ、デヴァルスさんも……ビゼルとの戦い前からずいぶんと経過したけど、落ち着いたから話を持ちかけてきたのか?」

「そういうことだ。魔王との折衝とか、色々と大変だったよ……ま、今はその話は置いておこう。そのうちに」


 彼は言うとソファへ促す。そうして俺とデヴァルスは対面で話をすることに。


「さて、改めて席を設けて話をするわけだが……ソフィアさんはどうした?」

「今日は別所で仕事だよ。ここ数日はすれ違っているな」

「寂しいか?」

「そう思えるくらい暇だったらいいんだけどな……」


 苦笑する俺にデヴァルスは「頑張れ」とひと言添え、


「こちらの仕事についてだが、ソフィアさんも参加するのか?」

「クローディウス王からはそれでいいと言質をもらってるよ。他ならぬ天使からの話だからな。重臣達も天使相手には魔王を打ち破った俺かソフィアくらいしか対等になれないとか思っている節もある」

「ほう、なるほど。それは誤解だが、そう思ってもらった方がルオンさん達としてもいいということか?」

「確かに。こうして仕事に追われず話ができる時間も生まれるし」

「本当に大変そうだな……まあいい、話を戻そう。この大陸でやっておきたかったことなのだが、過去この大陸にいた天使達……その遺跡に何かしら『神』に関する情報がないかと思ってさ」

「情報……確かにそういう可能性はあり得るし、俺も魔王との戦いの後、遺跡を見て回った経緯もある。つまり、遺跡探索について助力願いたいと?」

「そうだ。さすがに領土へ無断で押し入って調べるのはまずいだろ? まず、話を通しやすく許可が得やすいバールクス王国からと思ってだな」


 なるほど……で、俺達を契機に他の場所に点在する天使の遺跡を調べていく、か。


「他の大陸については?」

「それは別に交渉しているよ。ただこの大陸については国数も多いから話をするだけで大変だし、正直に言うと後回しにしていた。今になって話すのもその辺りが関係している」

「そうか……遺跡の場所について目星はついているのか?」

「ああ、もちろん。実はリリトに調べてもらっていた」


 彼女がここにいるのはその辺りも関係しているというわけか……。


「よってルオンさん達には遺跡探索を頼みたい。今となっては遺跡内にいる魔物なんて敵ではないだろうし、安全だろ?」

「別に構わないけど……バールクス王国内にある遺跡でもそれなりの数になるんじゃないか?」


 魔王との戦いで俺は色々動き回っていたけど、それが目撃情報などに基づいたもので、まだまだ俺の目に留まらなかった遺跡だって存在する。なおかつ地底にもあるだろう。それを一つ一つ回るとなれば――


「ああ、何もルオンさん達に全てを背負わせるわけじゃない。分担してやろうって話で、まずは他国へ話を通すべく実績作りとしてルオンさん達に依頼を持ちかけている」

「ふむ、そういうことか……俺は構わないよ」

「決まりだな」


 指をパチンと鳴らすデヴァルス。どうやらデスクワークはしばし中断し、フィールドワークをやることになりそうだった。


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