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賢者の剣  作者: 陽山純樹
王女との旅路

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迫る終局

 ソフィアを庇うように横へ押し退け、槍が到達しそうになる。


 俺は即座に『エアーシールド』を使用――同時、キャルンに槍が襲い掛かった。

 突き込まれた槍は俺の魔法により勢いが減り、キャルンはどうにか短剣で防いだ。とはいえ、吹き飛ばされる。


「くっ!」


 俺は即座に風の魔法を使用し、後方に弾かれた彼女の勢いを止める。そして倒れ込みそうになる彼女を支え……呼び掛けた。


「大丈夫か?」

「う、うん。どうにか」


 キャルンは小さく頷き、どうにか体勢を整える。


『ほう……』


 そこでレドラスが声を発した。見れば俺へと視線を注ぎ、槍を構え直している。

 何も言葉を発しないが……仲間に怪我がないよう援護していることを、ずいぶんと警戒している様子。


 なおかつ、アルトも俺へと視線を投げた。けどそれは一瞬で、すぐに剣を構え臨戦態勢に入る。

 レドラスはそちらへ首を動かす。だが俺への注意を払っているのは事実……この状況で、俺はどう動くべきか。考えながら、詠唱を開始する。


 その時、アルトは走った。勝算があるのかと思いつつ――大剣を放つのを視界に捉える。

 ただ、先ほどよりもその動きは鋭い――どうやら戦えば戦うほど調子が上がっていくタイプらしい。対するレドラスもそれに応じる構えだが……ソフィアも動き出す。


 さすがにこのまま攻撃を受け続けるのはまずいと思ったか、レドラスは後退を選択する。ステラはまだ踏み込んでいないし、ソフィアが魔法を放とうにもアルトが前を遮っているため撃てない。完全な一騎打ち状態となったわけだが――


『貴様一人で勝てると――』


 レドラスにとっても、アルトの行動は無謀に映ったらしい。だが彼は止まらない。真正面から特攻を仕掛ける。

 何か策があるのか……考える間に大剣を薙ぐ。レドラスは槍で易々とそれを弾いたが、アルトはすぐさま切り返す。


 鋭さは最初に打ち合った時と比べ別物……それがレドラスを僅かに怯ませた。

 そこへアルトは『ギルティブレイク』を叩き込む――! 防御を捨てた故に届いた攻撃。いくらなんでも無謀ではと思い……ここで俺は一つ理解する。


 先ほどアルトは俺へ視線を投げた。そして詠唱を開始すると同時に動き出した。それはつまり、俺の援護を考えての行動か。ソフィアやキャルンを助けたことから、援護が来ると考え特攻した。


『貴様……!』


 レドラスが叫び槍を放つ。ただ風はまとっていない。アルトは深く斬り込んでいるため避けられず防御の構えを見せ……ここで俺は詠唱していた魔法を発動。防御力を上昇させる『プロテクション』だ。風を使うのは『エアシールド』で二度も阻んだので風を使わないと考え――読み通りだった。


 槍が衝突する。俺が使用した『プロテクション』の効果により槍の威力が減じ、アルトもまた無傷で虎口を脱した。

 そこにソフィアが仕掛ける。さらに横手に回っていたステラも動き……これにはレドラスもさすがにさらなる呻き声を漏らす。


 戦況は俺達が優位だが、油断はまったくできない。まともに槍を食らえば戦況は一気にひっくり返る。


「ふっ!」


 そんなリスクにも構わず、アルトはなおも突撃する。レドラスが怯んでいる以上、好機と感じたのかもしれない。


 だから俺は最大限の援護をすべくさらに詠唱を行う――その動きをレドラスは感じ取ったのか一瞬目を俺へと向けたが……苛烈なアルトの攻撃により、すぐさま視線を戻した。


 アルトの大剣とレドラスの槍がぶつかる。レドラスはすぐさま剣を押し返し、一度後退する。ソフィア達の攻撃を警戒してのことだろう。

 そこへ、アルトがさらに押し込む。次いでイグノスが『ホーリーショット』を放ち、彼を援護しようと動く――その時、俺はソフィアを視線に捉え、違和感を覚えた。


 彼女の動きが、それまでとは違う。しかしそれはネガティブなものではない。もしや――


 レドラスが槍による横薙ぎを放つ。それによってソフィア達の進撃が一時押し留められるが、アルトはすぐさま押し込もうとする。そのためレドラスは意識を彼へと向けた。

 ソフィアは、その瞬間を見逃さなかった。さらに勢いよく踏み込み、レドラスへ間合いを詰める――!


『何っ!?』


 これにはレドラスも虚を衝かれたか隙が生じ――ソフィアは流麗な動きで横薙ぎを決め、相手の背後に回り込んだ。


 これは……汎用中級技の『清流一閃』だ。足に魔力を加え、瞬間的に速度を上昇させすれ違いざまに斬り、なおかつ立ち位置を反転させる攻撃技。単発技ながら威力も中々であり、間違いなくソフィアが使える汎用技の中で最もダメージの大きい技だろう。


 ソフィアはすれ違い槍の間合いギリギリで足を反転。レドラスは忌々しげに背後の状況を理解した様子で――そこへ、アルトがさらに向かった。


 レドラスは咆哮に近い声を上げる。きっとそれは怒りを含んだものであり……刹那、背後のソフィアが『ファイアランス』を放った。相手が避ければアルトにも直撃しかねない魔法だったが、アルトが押し込むことでレドラスの動きを封じた。

 結果、背に魔法が直撃。即座に動こうとしたレドラスに対し、アルトが『ギルティブレイク』を叩き込む!


 一連の連携攻撃に、さすがにレドラスも堪えたらしい。体を大きく身じろがせ、槍を構えるのが一歩遅れる。

 今しかない――直感したと同時、イグノスが追撃の『ホーリーショット』を放ち、さらにステラも好機と悟ったかレドラスの横から斬り込んだ。


 その攻撃もまた成功し……俺はこの戦いがそれほど長く続かないだろうと悟る。


『おおおおっ!』


 レドラスがまた吠える。危険だと認知したためか、それとも稀に見る好敵手と出会ったことによる叫びなのか。


 槍が放たれる。奴の槍術は間違いなくこの場にいる誰よりも優れた技術であるはずだ。けれど連携を駆使したアルト達の方が一枚上手……だがまだだ。アルトかソフィアが戦闘不能とまでいかなくとも負傷すれば一気に不利になる。だから俺も詠唱を始め、仲間を守るべくレドラスの一挙手一投足を注視する。


 アルトとソフィアが前後から仕掛ける。レドラスとしては横に逃れるしか術はないだろう。だが俺から見て左からステラが迫る。逃れるなら右しかない。


 レドラス自身、右に動けば魔法が来ると直感しているだろう。だが彼はそちらへ動いた。ダメージを受けながらアルト達へカウンターを繰り出す手法もあったはず。だが奴は動いた。同時、その視線が一時俺へ向けていると察する。

 俺が援護を行うため、カウンターによる攻撃を避けた……そういうことなのかもしれない。あるいは、単純にこちらの手の内がわかってあえて踏み込んだか。


 するとイグノスが魔法を放つ。今度は黄金色の光の矢……これは光属性下級魔法の『セイントアロー』だ。『フレイムニードル』などと同じように多段ヒットする魔法。真っ直ぐレドラスへ向かったが……相手は槍で光を叩き落とした。


 アルト達がレドラスへ追従する。槍を振ったことでアルト達が攻撃できる機会が生まれる。アルトは『ギルティブレイク』の構えを見せ、ソフィアも――いや、違う。

 『清流一閃』かと思ったが、彼女の体を魔力が包んでいる。汎用技ではない。これは間違いなく魔導技。しかも、中級以上の。


 その魔力は大きく、レドラスを警戒させるものだろう――同時に俺は直感する。間違いなく、この攻防で決まる。

 だがソフィア達の勝利を確信したわけではない。ここまで追い込んだが、レドラスも攻防に応じるべくさらに魔力を生じさせる。もしこちらが力負けすれば、槍がアルトかソフィアに届くだろう。


 だから――俺は、この戦局を決定的なものとするため、魔法を使用した。


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