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賢者の剣  作者: 陽山純樹
英雄の下に集う者達

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魔王の武具

 階段を下りた先、鉄扉が存在していたのだが鍵は掛かっておらずクロワが開けて中へと入る。奥にあったのは手狭な小部屋。そこには台座が一つだけ存在していた。


「ずいぶんとまあ、殺風景な場所だな」


 そんな感想を呟きながら部屋に入り台座を確認。そこに、黒い腕輪が一つあった。


「……これは……」

「どうやら目当ての物のようだな」


 クロワが語る。俺は彼へと視線を注ぎ、


「わかるのか?」

「魔王の権限を得たからこそ、理解できる……しかし……これは……」


 口元に手を当て何やら呟き始めるクロワ。どうしたのかと問い掛けようとした矢先、


「この腕輪はおそらく……文字通り、侵攻を開始する前の先代魔王が用意した、切り札だ」


 断言した。どういうことなのか。


「……ルオンさん、この腕輪について少し検証してもいいか?」

「構わないけど……というか、ここまで来てあれだけど、先代の魔王が作成した物なら、クロワが使うのもありじゃないか?」

「いや、僕には必要がない」


 首を左右に振る。こちらが訝しげな視線を送ると、


「とにかく、これが人間……つまりルオンさんが扱える物なのかを含め、いくらか確認したい。少し待ってもらえるか?」

「それはいいよ。なら俺達はどうすれば?」

「客室を既に準備してあるから、そこで休んでいてもらえばいい。検証が終わったら呼ぶよ」


 そう告げる彼に対し、俺もソフィアも頷く他なかった。






 用意されていた客室は人間の城にあるような物とほぼ同じで、黒いソファに座り俺は待つことに。一方でソフィアは部屋の中をウロウロとしている。

 人間の城と決定的な違いは、窓の類いがまったくないことだろうか。そういえば廊下にもそういう物が一切無かった。下手すると城内で外をのぞける場所がないのかもしれない。


「……あの道具」


 ふと、ソフィアが口を開く。


「仮に魔族の力を結集した物だとしましょう。それにしてはずいぶんと魔力が穏やかだった気がします」

「……俺と同じ見解だな」


 ソフィアの言葉に俺は頷く。

 隠し部屋にあった道具――黒い腕輪だったわけだが、俺はアレを見ても何か感じるようなことはなかった。傍からは人間に害のない……つまり、人間でも容易に使用できる物に見えた。


 アンジェの予言により俺はここを訪れたわけだが、魔王が使っていた武具……そういう可能性も考慮はしていた。ただそれを俺や他の人間が使えるのかと言われると……ゲームでは魔族の力により生み出された武器を主人公は使っていたけれど、それと同じことができるのか、内心首を傾げる部分もあったのだが――


「魔王が作った物ですが、使用者を選ばないとかでしょうか?」

「俺達は一目見て恐怖など負の感情を抱かなかったわけだけど、実際に使ってみたらそれこそ体を乗っ取られるような効果だってあり得るぞ」

『そういう可能性は低そうだが』


 と、ここで俺の右肩にガルクが出現。


『我が捕捉した魔力でも、他者を脅かすような特性を持っているとは思えん。もっとも、魔王が作り上げた物である以上、我でも観測できない何かが存在している可能性は否定できないが』

「そうだな……ともあれここはクロワの結果を待つしかないか――」


 そう応じた矢先、ノックの音。クロワしかいないので返事をすると、扉が開き彼が姿を現した。


「待たせた」

「いや、そんなに時間は経過していないけど……わかったのか?」

「ああ」


 そう言いながら彼は何かを俺へ向け放り投げた。反射的に受け取ると、それは先ほどの黒い腕輪だった。


「……思わず手にしたけど、危なかったんじゃないか?」

「人間を脅かすような効果は存在していない。先代魔王が作った物とはいえ、今は僕が魔王だ。その権限により、どういう特性なのかは理解できる」

「なるほど……で、これは一体?」

「一言に表すと、武器だ」


 これが武器……魔法などを使う補助器具のような物かとも一瞬考えたのだが、


「見た目は腕輪だが、それはどうやら弓矢らしい」

「……弓矢?」

「腕輪の中に存在している力を、魔力を注ぎ込む事によって射出する」


 ずいぶんとシンプルだな……そう内心思っていると、クロワの話には続きがあった。


「機能としてはそれだけの単純なものだ。しかしそこに込められた力は……間違いなく、この魔界に存在するどんな武具よりも強力だ」

「魔王の力が注がれているためか?」


 クロワは首を左右に振る。


「……検証した結果を語ろう。ただし、それを聞いて腕輪をどうするかは、ルオンさんの判断に任せる」

「何やら、面倒なことみたいだな」

「ああ、確かに」


 同意するクロワ。それに対し俺もソフィアも言葉を待つことにして……やがて彼は、語り始めた。


「魔王の力を注いだ武具。それだけなら良かったのだが、それどころではない……おそらく先代魔王は、侵攻を開始する前に帯同する部下達に力を注げと命令したのだろう」

「……え?」


 帯同する部下達に? 胸中でクロワの言葉を反芻していると、彼はさらに続けた。


「魔族がそれぞれどれほどの出力で魔力を注いだのかはわからないが……これには間違いなく、大陸へ侵攻した魔族達の力が注がれている。さすがにルオンさん達も使用は躊躇うのではないか?」


 その問い掛けに俺とソフィアは互いに顔を見合わせる。

 つまり、例えば五大魔族の魔力や、バールクス王国を襲撃した魔族シェルダットの魔力が存在しているというわけだ。改めて言われると、確かに引っ掛かるものがあるような気もしてくる。


「まず言っておくが魔力に意思は存在していないため、これを使用しても大陸侵攻に荷担した魔族達が出現するといったことにはならない。しかし、そういう考えが頭の中でよぎるだけでも、この道具を有効活用するにはあまり良くないな」

「……なるほど、な」


 俺は理解した後、少しばかり考える――が、すぐに答えは出た。


「クロワ」

「ああ」

「クロワは当事者ではない……が、人間である俺やソフィアと手を組むことを決断した。アンジェの予言や目的のために……そういう理由もあるが、心のどこかで抵抗は少なからずあったはずだ。前代未聞のことだからな」

「……否定は、できないな」

「けど、俺達に対し様々な禍根があったとしても……それを越え、なおかつクロワは俺達と手を結ぶ選択をした。そして『神』との戦い……俺はクロワのように、あらゆるものを取り込み、それでなお力を得なければならないと思う」


 そう語りながら俺は腕輪を眺める。


「クロワの言いたいことはわかる……が、その腕輪こそ俺達が求めていたものだ。それを得て、俺達はクロワのように前に進む」

「……そうか」


 クロワは納得したような声を上げ、


「ならこれ以上の問答は不要だ。魔族の力を結集した武具……受け取ってくれ」

「ああ」


 応じながら腕輪を握り締める――こうして俺は、目的を果たすことができた。


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