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賢者の剣  作者: 陽山純樹
英雄の下に集う者達

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残る仕事

 最後の、俺にとって大仕事と呼べる魔王城へ入るまでに、それなりの時を要した。


 まず、クロワが正式に魔王となるための準備が始まった。魔界西部は問題ないが、東部についてはエルアスの説得が必要であり、大変なのでは……と思っていたのだが、存外すんなりと受け入れられたらしい。

 もしかすると予め説得をしておいたのでは……エルアスは話し合いの席上で必ず問題が生じると語っていたわけだが、事前に何かしら手を打っておいたということなのかもしれない。


 彼自身、クロワの話を聞いて……いや、ビゼルをどう倒したかを聞いて、認めていたのかも――そんなことを考えながら俺は仕事をする。それは『神隠し』に遭遇し魔界へと来てしまった者達を元の世界へ返すこと。

 その役目は、出自もバラバラであったため魔界を出た後は各大陸の代表者が責任を持って送り届けることとなった。今回参戦した面々でもフォローしきれない場所の出身者もいたが、そこは人間が大きな信頼を抱く天使達が受け持つことに。


 そして俺は村の人々を見送り……ひとまず懸念の一つは払拭できた。次に魔王城へ入ることだが……仕事をしている間に実現はできなかった。


 魔王の城に魔族以外の者が入るなんて前例がないので、まずクロワが魔王になってきちんと権限を持ち、許可をしなければならない――よってクロワが魔王になるまで待つことに。ただ時間制限などもない。『神』の動きは気になるが、現在『神』が動くきっかけとなる『エルダーズ・ソード』の最新作の物語が始まっていないので、とりあえず大丈夫なはず。


 というわけで俺と仲間……ソフィア達は話し合いが行われた屋敷でゆっくり過ごすことに。仲間達も魔王城について気になっているのか待つことに。ちなみに魔王領に魔族は足を踏み入れることがほぼないため非常に穏やかに過ごすことができた。


「とはいえ、どのくらい掛かるかなあ……相当時間が必要なら、一度帰ってもよさそうだけど」

『クロワ殿は待つよう言っていた以上、時間もあるため構わないのではないか?』


 そうガルクの声が頭の中に響く。まあ確かに今まで色々と大変だったし、別に休んでもバチは当たらないだろう。

 だから俺は屋敷内でのんびりしているのだが……他の仲間達は違うようで、屋敷の外で鍛錬に明け暮れている。そのメンバーは組織に参加したリーゼやエイナ、アルトといった面々に加え、エーメルまでいた。


 彼女については一度領地に戻るべきではないかと進言したのだが、彼女いわく「クロワが治める領地に戻っても混乱するだけだ」として一向に帰らなかった。結果としてこの屋敷に居着くことになり、リーゼ達と鍛錬している。


「そら! どうした!」


 叫びながら彼女はリーゼのハルバードを受け、さらにアルトの大剣を弾き飛ばす。相変わらず豪快な剣さばきであり、彼女もまた成長していることがよくわかる。

 一方でリーゼ達も確実に成長はしているようだが、現段階ではまだまだ差がある様子……それを少しでも埋めるべく、こうして休息できる間も武器を振っている、というわけだ。


「やる気があるのは別に良いけどさ……」


 まあ俺が止めてもリーゼ達はどこまでもやるだろうし、思うようにさせてあげればいいだろう……ただこの中にソフィアはいない。彼女もまた俺と同様に休んでいるというわけではなく、今後魔界とどう向き合っていくべきかなどを、天使や精霊などと議論している。


 俺も参加するべきなのかと考えたこともあったのだが、他ならぬソフィアが「大丈夫です」と応じたので、俺は引き下がった。政治的な話になると俺にはさっぱりわからないし、こればかりは仕方がない。

 結果、俺だけは暇を持て余している……のだが、たぶん仲間達からは「活躍したわけだしそれでいいだろう」とか言われそうだけど。


「……ま、たまにはのんびりすればいいか」


 と、屋敷の中庭から発せられる騒々しい訓練の声を聞きながら思う。


「ところでガルクは魔界を離れたのか?」

『うむ、我の本体は既に村人と共に脱した。ただ魔界と世界とでは空間上繋がっているわけではないからな。現在記憶を共有することができない』

「それは仕方がないよな……こっちは戦いもないだろうし平気だろ」

『うむ、そうだな……とはいえ村人を送り届けるには少し時間が掛かるため、本体にはしっかりとやってもらいたいな』


 そこは神霊だし信用しているから大丈夫……口に出すことはなかったがそう胸中で思いつつ、俺は窓の外から視線を外した。


「さて、暇だし少し読書でもするかな」

『読書?』

「魔界に関する書物がこの屋敷にいくらかあるらしいからな……幸い俺達の言葉で執筆された物も存在するそうだし、読んでみる価値はある」


 なぜそういう書物があるのかは……魔界においても長い歴史がある。どこかで世界と魔界とで繋がった歴史があるのだろう。

 そういうわけで書斎へ向かおうとした……のだが、その途中で呼び止められた。


「ルオンさん」

「クロワか……あれ、魔王城へ行っているのではなかったのか?」


 色々と準備があるということで、確か部下を引き連れ向かったはずだが。


「一段落してこちらに戻ってきただけだ。ひとまず魔王になる体裁だけは整った」

「お、そうなのか……ということは――」

「ああ、ルオンさんがアンジェから受け取った予言を果たすときが来た」


 頼もしい言葉。ただし俺はここで一つ疑問を呈する。


「本当に俺が入って問題ないのか? クロワが魔王の権限を得ていても軋轢が生じればそれこそ厄介だぞ」

「公にすれば一騒動になる可能性は高い。しかし今なら、見られる者も少ないし問題はないだろう」

「正式に即位してから招待されると思っていたけど、見つからないように動くつもりだったのか……」

「相談した結果、それが手っ取り早いと判断したまでだ」


 うんまあ、それでいいのなら俺は追及しないけど。


「とりあえずわかった。今からか?」

「明日の早朝、出発しよう。ただし魔王城へ入ることができる者は、二人だ」

「それは制約……さすがに大人数は止めてくれというわけか」

「これも協議の結果だが我慢してくれ」


 ま、この辺りは仕方がないよな……そう胸中で呟き、俺は返答した。


「了解した。なら城へ入るのは俺とソフィアだ……それで本当に魔王にまつわる武具が得られるのか、試してみようじゃないか」


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