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賢者の剣  作者: 陽山純樹
英雄の下に集う者達

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それぞれの主張

「魔界をどうしていくか……これについては少なくとも、ビゼルのように力で支配するつもりはないと、予め語っておこう……まあ、わかりきったことだけど」


 告げながらエルアスは微笑を浮かべる。


「ただ、おそらくクロワと相容れない部分は……魔界の中に多種族を入れる、というのは反発も招くしやりたくはないな」

「僕も入れるつもりはない……が、魔王領に大使館くらいは置こうかと考えているからな。エルアスはそれもできればやりたくない、ということだろう?」

「そうだね」


 頷くエルアス。まあこれは当然と言えば当然――クロワの方が逆に異常だと言うべきか。


「正直、私は時期尚早だと思っている……いや、正直に言おう。そういう未来は、来ないと思っている」


 語った内容をクロワは黙って受け止める。


「隔たりを無くしたい、という思いがあるのはわかった。実際、ルオンさんの手引きによってこうして関係を結べたことは非常に大きく、場合によっては……そういう可能性の片鱗を見た気はする。だが、私は無理だと思う」

「絶対に反目し合うということか?」

「そうだ。魔族……私達は本来、どの種族とも相容れない関係にある」


 断言するエルアス。だがクロワはそれを否定する。


「僕もすぐさま関係を結ぼうとは思っていない。少なくともこうして互いに手を組むことができた……その事実は大きい。だからすぐに平和な関係が築けるとは思っていないが、そのきっかけになったのは事実だし、今後進展する可能性はあると見るべきだ」

「ルオンさん達のように考えることなく、復讐心に囚われる者だっているだろう」


 エルアスの言葉は重く、クロワは言葉を止める。


「むしろ憎悪の方が多い……この場にいる方々は、魔力を探るに高い地位にいる存在が多いようだね。つまり彼らが指示を下せば、表面上は折り合いがつくかもしれない。だが次の指導者が否定的な声を発したら? この関係はすぐに終わってしまうだろう。砂上の楼閣……私はそう考える」


 ――クロワの方も、一朝一夕で関係が築けるとは考えていない。けれど確執は大きく、エルアスは未来永劫それが解決することはないと語っている。


「仮に手を結び、良い友人としての関係を奇跡的に築けたとしよう。だが本来魔族という存在が嫌われ者で、私達の先祖は世界に多大な被害をもたらした。それが消えることはない……その罪によって、いつかその関係をどちらかが壊すかもしれない」


 エルアスはそう告げると、一度大きく息をついた。


「もしその時点で魔界に魔族以外の種族が入っていたら……彼らが呼び水となり、魔界を蹂躙するかもしれない。そうなったら、魔界は終わりだ」

「その可能性を考慮し、僕のやろうとしていることを否定するというわけか」

「そうだ」

「……確かに、エルアスの言う懸念はもっともだ」


 クロワは同意。けれど、


「僕にできることは、その可能性を極限まで取り払うことだろう……ルオンさんやこの場にいる面々と協議し、どうすべきかは考える。未来に向け、どう接していくかを協議し、場合によっては条約などを結んでもいい」

「条約……か」

「エルアスの語ることは、人情的なものだ。確かにそういう不安感があるのはわかる。しかし魔界と世界とで協議し、ルールを策定すれば、悲劇は防げるのではないかと思う」


 ――俺はここで、前世の歴史を思い出す。世界という枠組みで様々な条約が生まれた。しかしそれに反対し、戦争を起こすような国だって存在していた。

 エルアスが懸念するのはそうした約束を反故し、憎悪を向けられることだ。確かに魔界と世界という枠組みで条約を締結すれば、抑止力にはなる。けれど時の支配者が「この条約は無意味だ」と一言告げれば、それで終わりという話になってしまうかもしれない。


「正直、僕もエルアスの疑問に明確な回答を持つには至っていない……あらゆる点で始めての試みだ。そもそも僕が頑張って協定を結べるのか、というレベルなのかもしれない」


 そう告げたクロワは、否定的な言葉を投げかけていても、表情は明るかった。


「何も性急に話を動かそうというわけじゃない。同胞だって不安だろうし、魔界が人であふれかえるなどということにはしない」

「どういう経緯であれ、やるというのは間違いないか?」

「ああ、そこは相違ない……私的なことを言えば、僕はルオンさんに色々と協力したいのもある」

「俺に?」


 聞き返すとクロワは頷き、


「もし魔王になれたのなら、多大な貢献をしてもらったルオンさん達に礼を示さなければならない……それがきっと、魔界と世界とを繋ぐ最初の一歩になるはずだ」


 なるほどな……俺達は『神』との戦いも待ち受けている。それを考慮に入れればクロワ達の協力も欲しいのは事実。


「協力、とは具体的に何だ?」


 エルアスが問う。そうか、ここについては説明していなかったよな。


「……ルオンさん、どうする?」

「そうだな……エルアスさん、一つ聞いて欲しい」


 俺は『神』に関する説明を行う――さすがに俺の生い立ちなどを話すようなことはなく、説明としては「神が動き出す兆候があり、放っておけば世界が崩壊する可能性がある」という説明だ。


「現在俺は、その対策の最中にある……クロワがもし協力してもらえるのなら、非常にありがたいし助かるのは事実だ」

「魔族側が共通の敵に対し協力することで、平和的な関係を築くきっかけとする……か」


 エルアスはどこか納得したように声を上げ、


「うん、クロワの主張というより、手法についてはある程度理解できた。ただしクロワとルオンさんの関係は極めて私的なものだ。そうではなく、人間と魔族……そういう関係としてでなければ、納得しない者も出てくるだろう」

「ああ、そこは僕もわかっている……そして途方もない時間が掛かることも理解できている。けれど僕は、それをやる……魔王になったら」


 明言と共にエルアスは一度目を伏せた。何事か考えている様子。

 果たして……様子を見守っていると、エルアスは再び口を開いた。



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