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賢者の剣  作者: 陽山純樹
英雄の下に集う者達

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対面

 エルアスと話し合う舞台が魔王領であることが決まったため、そこからは比較的スムーズに段取りが進むこととなった。魔王城の守護者たるルードが介入した事実は非常に大きかったようで、クロワ側は納得したらしく話し合いではなく実力で――などと強硬な態度をとるような者は出なかった。


 一方、どうやらエルアス側には出たらしい……ビゼルをどうやって倒したかについて詳細を知り、エルアスの傍にいる重臣の一部は憤怒の一言だったらしい。話し合いというのは嘘で、実際は精霊や天使を用いてエルアスを打ち倒す。だから魔王領へ行ってはいけないと主張する者も現われた。

 しかし、結果としてエルアスは話し合いに応じる……彼が応じた理由についてはわからないが、たぶんクロワが上手くやったのだろう。ともあれ話し合いの席は設けられた。後はここでまとまることを祈るだけだ。


 そうして俺達は魔王領へ移動を開始する……といっても魔界を訪れた俺達の仲間は全員じゃない。村民の護衛などをしなければならないこともあって、一部――ただその一部にはデヴァルス他、今回参戦した代表者が集まっている。俺やソフィアはもちろんのこと、アナスタシアやガルクにフェウス、さらにリーゼの姿もあった。


 魔王領に足を踏み入れ、行き着いた先は……魔王城からずいぶんと遠い、屋敷だった。


「ここは……」

「魔王の重臣が暮らしていた屋敷だ。それなりにメンテナンスをしているようで、手入れも行き届いているな」


 クロワは俺の呟きに応じながら屋敷を見据える。俺もそれに続くと……気配があるのがわかる。


「既にエルアスは到着しているか」


 クロワが屋敷へ一歩踏み出した時、玄関扉が開いた。現われたのは――ルード。


「お待ちしておりました」


 彼は一礼すると俺達を屋敷へと招き入れる。内装もずいぶんと綺麗で、この日のために新調したのかとさえ感じられる。

 俺達は沈黙を守ったままルードへ案内され、屋敷奥の一室の前へと辿り着く。両開きの大きな扉で、どうやらここが目的地らしい。


「……このまま入るのか?」


 クロワが問い掛ける。彼の背後には俺を含め魔族以外の面々が勢揃い。全員で押しかけると警戒される危険性もあるが……ルードはこちらを振り向き、


「はい、エルアス様の方もそれを望んでおられます」


 ずいぶんと思い切ったな……場合によっては一気に攻め入られるとか考えないのだろうか。

 いや、もしかするとエルアスはクロワの考えを理解し……色々と想像しているとクロワは「わかった」と応じ、


「開けてくれ」

「はい」


 ゆっくりと扉が開く。その奥は大広間であり、長机などが複数用意されているような場所だった。

 そうした一角に、エルアスが座っている……が、こちらがゼムンなどクロワの部下さえ伴っているのに、当のエルアスはあろうことか一人だった。


「……これは……」

「ビゼルとの戦いで敗走して以来か」


 彼はそう声を発しながら立ち上がった。


「対面する形で座ろうか……先に行っておくけど部下は一人も帯同していない。そう指示をした」

「……警戒は、していないのか?」

「警戒する理由がない。少なくともクロワがどういう意図を持って君の背後にいる者達を呼んだのか……理解できるからね」


 そう言いながら彼は笑みを浮かべる。


「なるほど、確かに妙手だ。こんな形で援軍を呼ぶなどというのはビゼルの想像にも及ばなかっただろう。そして兵器を壊すということについては最高の戦力だ。私にとっても予想外だったが、人間の協力を得られた時点で予測することは可能だったかな」

「……てっきり納得していないと思ったが」

「無論、思うところはある。しかしそちらの意図を理解していると行ったはず。その理念については私も認めている」


 彼は手で席へ着くよう促す。そこで俺達は着席。長机に並ぶ俺達……それに対峙するのはエルアスただ一人。奇妙この上ない光景だ。


「……では、始めるとしましょう」


 ルードが語る。


「私が、この話し合いの議事を務めさせていただきますが……基本、口を挟むことはしません。お二方で存分に話し合ってください」

「ああ、そうしよう」


 エルアスは返答した後、一度姿勢を正した。


「まず、私の方から尋ねたい。ビゼルを討つための作戦そのものは理解できた……が、問題はその手段だ。どのようにして魔王領から扉を開いた?」


 ――まあここについては質問してくるだろうな。で、当然ながらクロワはその回答を用意している。


「その鍵を握っているのはゼムンだ。左遷された先代魔王の部下……さすがに詳しく話すことはできないが、魔界を脱することができる状況を手にしていた」

「ルードの目は誤魔化したのか?」

「ルオンさんの力を使って」


 俺へと視線を注ぐ。こちらは小さく肩をすくめ、


「やり方はご想像にお任せします」

「なるほど」


 にこやかに――理屈は通っているとでも言いたげな雰囲気。


 エルアスは――クロワの語った説明が嘘であり、実際は「彼が先代魔王の子息だから」という推測をしているかもしれない。

 ただ、そこへは踏み込まない……エルアスはクロワの心情を理解しているのか。


 なんとなく、全て読まれているような雰囲気だが……沈黙していると、エルアスはさらに続ける。


「わかった。その辺りのことについては納得できた。では肝心の魔王の座……どちらがつくか決めるとしようか」

「案は浮かんでいるのか?」

「どうする? コインやくじで決めるかい?」


 冗談めかしく――場を和ませるようにエルアスは述べる。クロワはそれに小さく苦笑し、


「それで決めることができたらいいんだが……僕としてはきちんと決着をつけた上でやりたいな。運に任せるのはあまり好きじゃない」

「そうか。無論単なる冗談だから気にしないでくれ……というよりクロワ、肩に力が入りすぎだ」


 エルアスはそう述べるとエーメルへ視線を送った。


「一応聞いておくけれど、魔王候補として資格は保有しているが――」

「魔王になる気は一切無い」


 はっきりとしたエーメルの返答。ならばとエルアスはクロワへ向き直り、


「なら、そうだね……まずはそれぞれ、主張しようか。魔王となったらどうするのかを」


 そう前置きをするクロワが頷くと、先んじてエルアスが語り始めた。


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