最後の戦い
戦いの後、精霊や天使など兵器破壊のために赴いた面々については、しばしビゼルの居城に滞在ということになった。無論襲われないような対策も施している……が、正直その辺りは取り越し苦労だとは思う。
そしてクロワに呼ばれ俺は砦の中……会議室のような場所に案内され、話し合いをすることに。俺とクロワ以外にこの場にいるのはゼムンのみ。
「エルアスと話し合いをする際、同行して欲しい」
「それはクロワが魔界をどういう風にするのか……それをわかってもらうために、か?」
「ああ、そう解釈して構わない。問題はいつになるかだが……ビゼルが滅んだことにより領内に大なり小なり混乱も起きるだろうが、どうにかしてみせる」
「わかった。俺としても結末はきちんと見たいからな……ただ相当忙しくなるだろ? 大丈夫か?」
「クロワ様については、ご心配なさらず」
答えたのは、ゼムンだった。
「それは私が保証致します……ルオン殿達は、自分達が成すべき事をやってもらえればいいかと」
「わかった……クロワ、魔界を訪れてしまった人間達についてだが」
「脱出準備を進めてもらえればいい。エルアスとの交渉の際、彼が魔王になっても問題にならないよう尽力する」
「いざとなれば強引に……か?」
「僕の素性を明かすつもりはないが、最悪素性を表明して彼らを帰還させるための手はずを整える」
クロワの返答に……俺は問い掛ける。
「あくまでクロワは魔王の息子ではなく、クロワとして魔王になると」
「そうだ。でなければ僕が魔王になる意味が無い」
そう断言する。迷いのない発言であったため、決意は固いのだと認識できた。
「では俺とソフィア……というか、今回魔界へ赴いた面々については、ここに迷い込んだ人間を脱出させるべく、動くことにするよ」
「ああ、それで構わない」
「ただ、今後も迷い込む人間が出てくる可能性はあるんだよな?」
「そうだな。これについても後々対策を立てなければならない」
「ま、そこはこれからの展開次第だな」
クロワもしばし領土内の仕事に追われるだろうし、話はこのくらいでいいだろう……そういうわけで、俺は行動を開始した。
まず、俺とソフィアが村へと帰還してフォンと話を付ける。戻ってこなかったためフォンは俺達のことを死んだと解釈していたようで、とにかく驚いていた。
で、問題はどう説明するかだったのだが……ソフィアと相談をした結果、正直に話すことにした。嘘を教えて脱出させるというのも手であったのだが、彼らには知る権利があると思ったのだ。
さすがにフォンも最初、その内容を信じられない様子だったのだが……やがて会話を重ねた結果、彼は「わかりました」と納得し――翌日、フォンは自ら決断し、村人に事実を伝えた。
中には信じられない者もいたようだが、ここで活躍したのが精霊。不思議なことに人間は精霊を信頼していることが多く、彼らがここが魔界であると説明したことで、一定の理解を得た様子。
で、そこからどうするか紛糾し始めた……のだが、さすがに魔界であることから全員脱出するということで落ち着いた。国の騎士を複数呼んで「元の世界に帰ったら生活面を含め色々と工面する」と言及したのも大きかった。実際どうするのかは俺の手から離れてしまうことなのでなんとも言えないが……まあソフィアもいることだし、きちんと履行はしてくれるだろう。
そうして彼らは脱出の準備を始める。その間にクロワから「会談の日取りが決まった」との連絡を受けた。ただそれは少し先のようで、ひとまず混乱する西部のとりまとめを行ってからのようだ。
よって俺達もフォン達を脱出させるための手はずを整える……さすがにエルアスが人間達を狙ってくるとは思えないのだが、それを想定してどう守るかガルク達と検討する。結果的にその辺りのことについては対策も立てたので、少なくとも村の人々に被害が出るような状況にはならないはずだ。
ひとまず彼らについては大丈夫……といったところで、クロワの方もエルアスと話し合いの準備をし始め、俺が呼び出された。
「全面戦争という形にはならない」
クロワは断言し、俺に説明を行う。
「エルアスとしても一番危険なビゼルが滅んだことで、大きな戦いは終わったと考えているらしい……よって、ここからは交渉で話を進めていくことになる」
「どちらが魔王になるのか……それを話し合いで決めるのか?」
「二大勢力になってしまったため、ここからは双方の勢力がある程度は納得しなければならない……無条件で片方が折れてしまったら支持者は大暴れを始めるだろう」
それもそうか……あと一歩で魔王なのだ。必死に抵抗するのがオチだろうな。
「よって、ここからは実力行使ではなくなるので、今までのようにルオンさん達が出張って戦うといったことはなくなる。人間達を脱出させる点については、そう心配する必要はないだろう」
「それならいいけどな……時間掛かりそうな雰囲気だな」
「エルアスとしては短期間で終わらせたいらしいが」
「何故だ?」
「下手に時間を掛ければ、それだけ抵抗も増える」
外野がさらに騒ぎ出すってことか。
「よって、僕とエルアスは顔を突き合わせてどうするかを協議する……僕とエルアスは冷静で、周囲が沸騰しているような感じだ。両者の間ですんなり決着はつくかもしれないが、そこから先はどうなるか未知数だな」
「わかった。俺達は村の人を守ることを最優先にするけど、何かあれば即座に動くから心配しないでくれ」
「ルオンさんがそう言ってくれればありがたい。近日中に話し合いの席を設けることになるから、それに帯同してもらうよ」
「ちなみに場所は?」
「ルードが指定した。魔王領だ」
「ルードが?」
「中立地帯である魔王領なら、少しばかり穏やかに話ができるだろうという推測だ。それに仲介役をルードが買って出た」
魔王が決まるということで、彼も動き出したってことか。
「もしかすると西部を支配した魔王候補と話をするべく、ルードは元々動く気だったのかもしれない……まあ、それはともかくとして僕はあくまで素性を隠して話をする以上、門を使って世界を抜け出たりはしたが、基本的にルードとはあまり関係がない風を装う。エルアスは魔界を脱する手段がどのようなものか把握していないし、ルードと口裏は合わせている。僕の正体が露見する可能性はないと思うし、ルオンさんもその辺りは念頭に置いてくれ」
「わかった」
頷く俺――いよいよ魔界における最後の戦いが始まろうとしていた。




