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賢者の剣  作者: 陽山純樹
王女との旅路

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戦闘勘

 レドラスの槍が再度放たれる。その目標は、ステラ。しかも槍は風をまとわせたものであり……紛れもなく『ブラストランス』だ。

 ステラは既に回避行動に移っている。それを見ながら俺はすぐさま行動しようとする。


 詠唱していた魔法は『エアシールド』であり、これに加え俺の能力が露見しない出力で風の刃を放ち槍の軌道を僅かに鈍らせれば、攻撃を回避することが可能だろう。そう思い実行しようとした瞬間――


 突如、嫌な予感がした。


 何を……と思った矢先、俺は体が勝手に動くのを理解する。修行時代、数えきれないくらい魔物と戦い続けたことから、いわゆる『勘』のようなものが働くことがある。おそらくこれは戦い続けた経験によって得られた確固たる戦闘勘であり――その直感に従い、俺はステラではなくソフィアに首を向ける。


 レドラスの狙いはステラ……俺以外の誰もがそう思っていただろう。だが俺は直感に従い、ソフィアへと魔法を使用し、風の刃を放つ体勢を整える。

 その直後だった。レドラスの『ブラストランス』は、強引に軌道を変えソフィアへと迫る――!


「っ!?」


 ソフィアが呻くのを理解する。レドラスが技を使用した時点で回避行動をしていたが、奇襲同然の攻撃により対処が間に合わない。だが次の瞬間、俺が使用した『エアシールド』の効果によりレドラスの攻撃が鈍った。次いで俺はすくい上げるように剣を振り風の刃を放つ。


 それは槍に触れ、パアンと乾いた音を立てた。出力はかなり抑えられているため威力を殺すような真似はできないが……ソフィアは魔法と風により、虎口を脱することに成功した。


『ほう、これを避けるか……そちらも中々やるようだ』


 称賛の声がレドラスから発せられる。ソフィアに向けてではなく、俺に向けてのものだろう。

 会話の間にステラは体勢を立て直し、さらにアルトが攻撃を仕掛ける。今度は単独の攻撃だが――いや、イグノスが『ホーリーショット』を使用し、援護を行う。


 レドラスは魔法を防ぎ、さらにアルトの剣戟を槍で受ける……やはり鍵となるのは連携攻撃のようだ。単独で戦っては攻撃を当てることも難しい。

 だが、アルトは果敢にも再度攻撃を行う。ステラが駆け、さらにソフィアもまた攻勢に転じる。するとレドラスの視線が三人を一度見回し……そこで俺は理解する。


 レドラスとしては、アルトの攻撃を一番警戒しているようだ……考える間にアルトがさらに前に出る。レドラスは攻撃を平然と防ぎ……横から仕掛けたステラとソフィアの攻撃もまた槍で防ぐが、アルトを優先するためかソフィアの剣戟については二発目が体を多少だが薙いだ。


 ダメージは与えているはずだが――ここでアルト達は一度後退する。


『ふむ、やるようだな』


 距離を置いたアルト達に対し、レドラスは語る。見た目効いているようには見えないが――――


『久方ぶりだぞ。痛みのある攻撃とは』

「……通用しているようだな」


 アルトの声に、レドラスは首肯する。


『無論だ』

「俺達を動揺させるなら、ポーカーフェイスを貫いていた方が良かったんじゃないか?」


 アルトはさらに攻め込む構えを見せる。通用しているとわかり自信を持ったのだろう。

 一方のレドラスは、槍を構え直し俺達へ言う。


『私は心理戦など望まん。求めるのはただ、武の激突のみ』

「……わかりやすくていいが、どうにもやりにくい相手だな」


 アルトが苦笑。ステラなんかも同じことを思ったようで、兄と同様苦笑する。


「まあいいや……効いているんだったら、遠慮なく攻め続けさせてもらうぜ!」


 アルトが走る。ステラもまた動き出す。またも最初と同じような構図だったが――今度は先に、ステラが仕掛けた。

 それは連携だったのかそれとも彼女の独断だったのか――なおかつソフィアの動き出しもまたタイミングがズレており、先ほどの流れとは異なっているのは間違いない。


 レドラスはそれをどう見るか――攻撃を受けつつ誰かに狙いを定め攻撃するという手も存在する。それを阻むべくイグノスや俺のフォローもあるわけだが……俺はここでレドラスがこちらにも目を光らせているのを認識する。先ほど『ブラストランス』に対処したことから、俺にも警戒の目を向けている。


 その中でのステラの攻撃。レドラスは槍によってすぐさま弾き返すが、今度はソフィアが正面から斬りかかった。

 まともに戦えば槍で弾き飛ばされるのは目に見えている。だがそれでも突撃を行い――同時にアルトも迫る。レドラスはどちらを防御するか。それとも後退し回避するか。


 直後、ソフィアが『ファイアランス』を放った。炎の槍が真っ直ぐ突き込まれ、レドラスは反射的に回避する。その結果、回避に集中した故か僅かに隙が生じた。

 そしてアルトが吠えた。一瞬の隙だが、アルトにとっては絶好の好機。


「――おおおおおおっ!」

 声と共に大剣を振る。それは俺の目から見ても、これまでとは明らかに異なる動きであり、俺は何を放ったか明確に理解できた。

 アルトは突撃を行いながら剣をすくい上げるように放つ。それがレドラスに直撃したが――まだ終わらない。


 今度は振り上げた剣をすぐさま振り下ろした。下段と上段からの剣戟。そして振り下ろしと共に魔力による衝撃波が生じ、レドラスの体を多少ながら吹き飛ばした。


『ぐおっ――!』


 これにはレドラスも呻いた……間違いない。これは大剣中級技の『ギルティブレイク』だ。五大魔族という脅威の相手との戦いにより、とうとう中級クラスの技を習得した。

 俺が驚く間に、ソフィアがさらに仕掛ける。刀身に魔力を注ぎ、それをレドラスへ向け放つ。


「やあああっ!」


 裂帛(れっぱく)の声と共に放たれたのは横薙ぎ。勢いをつけ放たれた剣戟はさらにレドラスの体を吹き飛ばした。


 発せられる魔力でわかった。これは下級魔導技の『アースクラッシュ』だ。地属性魔法の『ストーンブラスト』のように石つぶてや岩などの明確な物質を当てるわけではないが、ノームの力を借り地の力によってレドラスを攻撃した。


 さらに、追撃をかけるようにイグノスが三度『ホーリーショット』を放つ。それもまた怯んだレドラスに直撃し――間違いなく、痛手になったはず。


『やるな、貴様ら!』


 だがレドラスは苦悶の声を上げるようなことはせず、逆に魔力を噴出させアルト達に力を見せつけるようにする。

 今の連携は、確実に効いたはずだ。とはいえレドラスはまだまだ健在……ここで俺は修行時代を思い出す。


 魔物との戦いにおいて、色々と検証した。その結果、同じ魔物でもHPに差があったり、さらにゲーム上よりもずいぶんと簡単に倒せるようなケースもあった。


 これはおそらく当たり所とか、魔力により出力を上げているため威力がゲームよりも上がっているとか、そういうものが関係しているはずだ。どれだけ強力な魔物でも同じように変化はあったので、レドラスも違いはないはず。


 よって、ゲームと比べても手数は少なくていい……中級技を習得したアルトを主軸に攻めれば、一気に決着がつく可能性もある。


「まだまだ余裕って感じだが、スカした顔をしているのも今のうちだぞ」


 アルトが言う。大剣を構え直し、攻撃の体勢を整える。


 レドラスの見た目に変化はない。ゲームではどれだけHPが減っても見た目上の変化はなかったし動きが鈍るなんてこともなかったが……現実ならば、そういうことも十分あり得る。

 すると今度は、レドラスが先に仕掛けた。槍を振り、牽制でもするかのように攻撃を仕掛け――俺は再度魔法詠唱を開始した。


 全員、息を合わせたかのように一度後退する。そこですかさずアルトは反撃に転じた。リスクがあることは間違いないが、それでも前に出るべきだと体が反応したのだろう。


 対するレドラスはそれを迎え撃つ。どうやら果敢に向かう人間に対しては優先的に攻撃する癖でもあるらしい……アルトは攻撃を弾かれる。

 今度はさすがにソフィアも援護に入ることはできなかったが……戦う気はあるのか踏み込もうとする。その時、


『――これで、どうだ』


 レドラスが槍を放つ。それは紛れもなく『疾風槍』であり、真っ直ぐソフィアへと突き込まれる。

 援護に入るか――そう思った瞬間、先に動いたのはソフィアの近くにいたキャルンだった。


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