対面する魔族達
その後、俺達は速度を変えることなくビゼルの拠点へと突き進んでいく。もっとも散発的に悪魔が来るのだが、その全てをクロワ達は瞬殺する。
「問題はなさそうだけど……」
逆に何もないことが……いや、これは作戦が上手くはまってビゼルがどう動いていいかわからないパターンだろうか? そうであったなら、何よりなのだが――
「ルオンさん、どうだ?」
ふいにクロワが近づいてきて俺に問い掛けてくる。六つ目の兵器があるかどうかだが、
「いや、俺もガルクも色々探し回っているけど……無いな」
「そうか。やはり兵器は五つで打ち止めか?」
「その可能性も高そうだが」
「なら不安要素もないが……」
「ま、そう悲観的になる必要はないんじゃないか?」
ふいに口を開いたのはエーメル。
「ビゼルだって兵器があった拠点を同時襲撃されるなんて予想もしていなかっただろ。悪魔をこちらに送って攻撃を仕掛けてはいるが、できることは所詮そのくらいで、あとは防備を固める他ないんじゃないか?」
……確かに、現状拠点を奇襲した面々は移動を開始し、ビゼルの本拠へ徐々に近づいている。彼らに攻撃する者はおらず、このまま順調にいけば俺達が本拠に辿り着くのと同じくらいに彼らも辿り着くだろう。
ビゼルとしては敵の正体が判明した時点で手出しするかどうか迷ったはずだが……竜や天使はともかくとして、人間については手がでないこともなかったはずだけど、現状悪魔を差し向けるなどには至っていない。
「作戦が順調に進んでいることは確かだ」
クロワはそう述べた後、エーメルへ視線を送った。
「ビゼルは僕やエーメルが所有していた領土に魔族などを派遣し、多少なりとも戦力が分散していた。加えて領土の管理などを行うための準備をしていただろう……そうした中で襲撃された以上、こちらを押し留める戦力を引き戻すのに時間が掛かる。もし戻ってもこちらの勢いを止めることは難しく、やれることはエーメルの言う通り守りを固めることくらい、と解釈することは可能だ」
「けど、油断はできないと」
エーメルの指摘にクロワは「まさしく」と返事をして、
「ここまでお膳立てをしてもらったこともある……だが最後の決着はあくまでこちら。それには残っている兵器で攻撃されるわけにはいかないし、なおかつこの戦いで確実にビゼルを討たなければならない。それが終わるまでは、絶対に気を緩めてはならない」
クロワはどこまでも厳しい目――俺は内心同意しつつ、
「現状で敵は出現していないけど……このまま進むってことでいいんだよな?」
「それは間違いない。このまま何事もなく突っ走ってしまえば、不安要素もなくなるからな」
「不安要素?」
聞き返すと、クロワは口元に手をやり、
「こちらが真っ直ぐ進み続ければ、エーメルの言う通りビゼルは本拠を守らざるを得なくなる。そこまでに何か障害となるものが出現したら厄介なのだが、幸いなことにそうはなっていない」
「近づけさえすればいかにビゼルでも守る以外の選択肢はない……か」
「正解だ。守勢の形に持って行くことができれば……それに、拠点にまで接近してしまえば、もう兵器が使われることもなくなる」
確かに肉薄してしまえば兵器は自分達をも巻き込むものになるからな……俺は「わかった」と声を上げると、意識を使い魔に集中させる。
まだ新たな兵器が存在しているという報告はない。ビゼルの領内に目を光らせさらに魔力を観測しているような状況である以上、さすがにビゼルとしても露見せずに兵器を使うのは難しい……はずだ。
「ルオンさんは大丈夫だと思うが、エーメルも気を抜くなよ」
「ああ、わかってるさ」
彼女は返事をして――俺達はひたすら進軍を続けた。
そこからは障害もなく、俺達はとうとう前回大規模な戦いがあった平原すら抜ける。敵はまったくいないのだが、居城周辺は違っていた。
「守りを固めてこちらの動向を窺うみたいだな」
使い魔から居城の周辺に魔族や悪魔がいることは確認済み。クロワも「そうか」と短く答え、最終決戦に向け烈気をみなぎらせている。
――もしビゼルとの戦いに勝利すれば、次はエルアスとの一騎打ちなわけだが、さすがに東部と西部の全面戦争になることはないだろう。クロワとエルアスとの間で色々と交渉をして……場合によって二人が戦うかもしれないが、総力戦なんてことは両者も望まない以上、大規模な戦いはこれで最後なはず。
なので、実質拠点襲撃のために準備した天使や精霊達の出番はこれで終わり……そんなことを思っていると、いよいよビゼルの居城が見えてきた。
「……クロワ、他の部隊とも合流できる」
俺は彼に報告。兵器のある砦を奇襲した面々も、俺達の後方から続々と集まってきている。
兵器については一切気配がない。一ヶ所に集まっている以上、ここが狙われる可能性はあるのだが……そこについては一応対策はしている。
天使他、今回戦いに参加してくれた他種族達はこの最終決戦に参加することはせず、あくまでビゼルを逃がさないための補助として動く。兵器の効果範囲についてはわかっているので、もし撃たれても逃げられる形に布陣する……天使や竜、精霊についてはどんな状況でも退避はできるので問題はない。人間達は……クウザを始めその辺りはすぐに退避できるような手はずを整えていると確か語っていたはずなので、おそらく大丈夫だろう。
ただそうした懸念はもう必要ないかもしれない……居城の前に近づく。結局六つ目の兵器は、現われなかった。
「いるぞ、ビゼルが」
エーメルは眼光鋭く居城を見据えながら告げる。ビゼル――彼は城門から魔族を率いて現われた。
「まさか交渉、というわけじゃないよな」
「部下を多数率いている以上、戦うつもりだろう……ん?」
目を細めるクロワ。何事かと思ったのだが――すぐに原因はわかった。
ビゼルについて――彼は部下を率いているのだが、こちらを見据え立ち尽くしている。それだけなら別段違和感もないのだが……まとう魔力が、以前遭遇した時と異なり、明らかに異常だった。
「既に準備は整っているみたいだな」
「直接やり合おうって気なのか?」
俺の呟きにクロワは首を左右に振る。
「違うだろう。間違いなく何か作戦がある……ルオンさん、使い魔による監視を継続してくれ」
「わかった」
返事と共に俺達はビゼルへ近づく。そうして対峙し――やがて、ビゼルは口を開いた。




