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賢者の剣  作者: 陽山純樹
英雄の下に集う者達

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電光石火

 ビゼルが寄越した悪魔の群れとクロワの軍勢が激突する――が、最初の打ち合いでこの戦いの結果は読めた。


「圧倒的だな……」


 俺はそう呟く。ビゼルの悪魔も決して質は低くない。しかしクロワが率いる魔族や悪魔は士気が相当高く、敵の攻撃をものともせず粉砕していく。

 それを眺めながら俺は使い魔でビゼルの領内を探る。残る兵器があるのなら、すぐにでも発動することだろう。ビゼルとしてはクロワが迫っている以上、自分を狙うのは彼自身だと予測はできるはずだが、天使や精霊達が迫って一気に勝負をつけてくる可能性もゼロではない。よって勝負を付けるのなら早期に、という考えに兵器をすぐさま用いてもおかしくない。


「ガルク、そっちはどうだ?」

『現在、怪しいところはないな』


 兵器は五つで打ち止めなのか……いや、こちらが警戒しているため、例えば夜間密かに攻撃を行うなんて可能性も否定はできないな。


「回避される可能性を考慮し、寝ている間に狙うとか」

『可能性は十分あるが……』


 ガルクが受け答えした直後、一際大きな叫び声が上がった。味方ではなく敵の悪魔から。大型のものでたぶん悪魔の群れを率いている個体だ。

 それに魔族達が集中砲火を加え、撃沈……ビゼルと決着をつけるという強い意志の下、クロワの部下も奮戦している。ここまで不甲斐ない結果であったため、それを挽回するべく戦っている……そんな風にも思えた。


「この調子ならそう時間は掛からず倒せるな……」


 ここで、使い魔から報告が。ビゼルの拠点からさらに悪魔が飛翔した。


「援軍が来るみたいだな。けどまだ距離はあるけど」

『断続的に仕掛けてこちらを疲弊させることが目的か、あるいはそうして時間を稼ぎ兵器を使うのか……後者かもしれんな』


 ガルクの言葉に俺は「そうかもしれない」と同意しながら、さらに観察を続ける。気付けば目の前の戦いは終盤に差し掛かっていた。

 クロワが前に出る必要もなく、彼の部下だけで敵が次々と倒れていく。ビゼルにとってこれは予定の内か、それとも予想外なのか。


「……その辺りは、進んでいけばわかることか」


 呟き、俺は空を見上げる。戦場に似つかわしくない、綺麗な青空だった。






 戦いは一時間ほどで終了。まさしく圧勝であり、こちらは犠牲もほぼ皆無だった。

 正直時間稼ぎにもなっていない……ビゼルの思惑が何であれ、悪魔を派遣した狙いについてはたぶん失敗していそうだ。


 そしてクロワはキビキビと移動準備を始める。


「速さが全てだ! 整い次第出発するぞ!」


 部下達は呼応するように声を上げる。ここが踏ん張りどころというわけだ。

 そんな様子の彼に対し、俺は近づき、


「クロワ、兵器を使ってくるのなら夜じゃないか――」

「そこは無論考慮している。結論から言えば、昼夜問わず行軍し続ける」


 ……まあ、さすがにクロワもそのくらいは想定しているよな。


「兵器を使うにも、ビゼルとしてはさらに襲撃されないか警戒しているはずだ。それに加え多少なりとも準備がいるだろう」

「準備? 兵器の準備ってことか?」

「そうだ。ゼムンの調査は兵器に存在する魔力などを基にしたものだ。五つの拠点は最初に発射した兵器の魔力を分析したことにより発見した……それらの拠点はすぐに発射できるよう魔力が常に存在していたんだ。もし六つ目以降があるとしても拠点のような魔力は存在しない……つまり、準備時間が必要になる」

「もしそれが観測できたなら、六つ目があるって話か」

「そういうことだ。しかし準備期間が必要というのなら、それをさせる暇もなく一気に僕らが突撃すればいいだけの話」


 急進的に動いているのはそのせいか。兵器発射にどれだけ時間が掛かるのか俺達はわかっていないが、あれだけの物を動かす以上、ある程度慎重にやらないと暴発する危険性すらありそうだし、すぐというわけにはいかないだろうし。


 それに加え、ビゼルはそうした準備をしている間に襲撃される可能性も懸念しているのだろう。現在五つの拠点を奇襲した面々はビゼルの領内で散らばっている。準備する間に彼らに攻撃をされれば、発射前に破壊されるのがオチだ。


「クロワ、段取りとしては拠点を攻撃した面々はビゼルの本拠へ向かうような形で進むことになっているけど……兵器がまだ存在することを考慮したら、待機させておくのも手じゃないか?」

「それも手段ではあるが、あくまでここはビゼルの領内だからな。兵器よりも悪魔や魔族が攻撃してくる可能性も考慮しなければならないだろ。彼らは平気なのかもしれないが、万が一にも犠牲は出したくないからな……」


 そうか……動きについては事前に打ち合わせで決めているし、クロワとしてはこれ以上俺達が攻撃されないために動く、という面もありそうだ。


「確認だがルオンさんの方は大丈夫か? 昼夜問わず動くため場合によっては魔法を使うが」

「それなら問題はないから心配しないでくれ。クロワは部下達の方に注力してくれればいい」

「わかった。ありがとう」


 礼を述べクロワはさらに指示していく……ここまでは順調だな。現時点で落ち度はない。

 ただ時間が経てばビゼルも態勢を立て直すだろうし、どうなるかは読めない。クロワとしてはビゼルが再起動する前に首下へ迫りたいはずだが、距離もあるしさすがにそう甘くはないか。


 正直ここからは軍を率いるクロワの采配にかかっている。もし兵器が発射されれば俺はレスベイルを用いて何としてもクロワを守る気ではいるが、最悪軍の崩壊は避けられないからな……この戦いに勝つことはできるかもしれないが、魔王になることは厳しくなる。

 だからこそクロワとしては兵器を使う暇さえ与えない電撃戦……それがベストな選択であることは間違いない。


「俺も、頑張らないと」


 そう呟きながら使い魔に神経を集中させる。ガルク達と協力をして、他に兵器がないかをひたすら調べていく。

 もしクロワの言うことが確かなら、兵器準備の兆候が出始めた時点でこちらは気付くことができるはず……よって、それを逃さないように観察し続ける。


 その間にクロワ達は進軍を再開した。相変わらず士気は高く、結束が崩れることはなさそうだ。


「クロワ側は問題がない……ビゼルは現在どうしているのか」


 対応に苦慮しているような状況になっているなら、こっちが一気に攻め込んで終わりだ。それなら話も早いし懸念していたことが何もなく万々歳となるわけだが……直感だが、もう一波乱あるような気がしてならない。

 正直、俺はともかく天使や精霊達の目をかいくぐって兵器を準備するのは難しいと思うのだが……そんな考えを抱きながら、俺はクロワと共に進軍を続けた。


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