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賢者の剣  作者: 陽山純樹
英雄の下に集う者達

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最後の課題

「ルオン様、お気を付けて」

「ソフィアも、十分注意してくれよ」


 ソフィア達が出発する際、そう声を掛け合い彼女は作戦に移る……さて、そういうわけでクロワの指導だ。ちなみにロミルダなんかはソフィアとは別の人間部隊に組み込まれている。その圧倒的な力が原因だ。

 で、ゼムンは三日後の決戦ギリギリまで色々と準備をするらしく、手が離せない。よって俺とクロワは実質一対一で鍛錬をすることになった。


 とはいえ、こちらも三日後に備えて移動する必要があるため移動しながらの鍛錬となる。またアンジェについては帯同できないので、ルードに任せることとなった。


「アンジェ様のこと、こちらにお任せください」


 ルードはそう告げると一礼する。クロワの指示なのだが、これは魔王の息子であるが故に従っているということだろう。


「頼むぞルード……ルオンさん、行くとしよう」

「ああ」


 俺とクロワもまた移動を行う。魔王領に程近い場所でゼムン達の軍勢と合流することになっている。

 そして道中で俺は思いついた技法を伝える。結果、


「なるほど……それなら確かに習得できそうだし、上手く使えば相手を一気に打ち崩せるかもしれない」

「ただ技の性質そのものは単純だから、一回見たらビゼルだって特性に気付いてすぐに対応されると思う。けど、見たことがないならエルアスにも通用するはずだ」


 地味な技なのだが、ゲームでは上級技に区分されていたくらいで人間でも使用者が少ない。それ故に相手の意表を突けるもので、便利……なのだが、一つだけ欠点がある。


「この技法を使用中は、他の技や魔法が使えなくなるってことに注意してくれ。つまり勝負は、この技を使った後にある」

「瞬時に攻撃に転化しなければならない、ということか」

「ああ。技法そのものはクロワの能力なら半日くらいでものにできると思う。ただ技を使った後、すぐさま攻撃しようというのなら、魔力の操作に慣れる必要があるからさらに時間がいる」

「わかった。早速始めよう」


 ――そういうわけで、俺達は鍛錬を開始。


「……しかし、改めて思うが本当に面白い」


 剣を振っていると、ふいにクロワが口を開いた。


「英雄と呼ばれた存在と魔王候補が剣を振っている……こんな展開になろうとは」

「そもそも俺達と手を組もうなんて考えるクロワが異例なんだけどな」


 こちらの言及にクロワは「そうだな」と同意する。


「僕としては異端と言われるのは承知の上だ。その先に魔王という存在があるのなら、喜んで異端になるさ。人間とでも、精霊とでも手を組ませてもらう。ただまあ、こうして作戦を実行できたのはひとえにルオンさん達のおかげであり、僕が成した業績ではないな」

「――そういえば、クロワ」


 剣を合わせながら俺は彼に問う。


「神隠しによって来てしまった人間についてはどうする?」

「さすがに僕が赴くわけにもいかないし、そこはルオンさん達で説得してもらうしかないな。幸い今回の作戦で天使も精霊もいる。助けに来たと語って赴くのは難しくない」

「そうだな……魔界であることは話すべきかな?」

「難しいところだが……それについては僕が魔王になってから話し合うとしよう。なれなかった場合は、次の魔王に相談するしかない」

「その場合、手荒なことをしてくる可能性は否定できないよな?」

「僕が是が非でも止める。あるいは、最悪のケースになれば……ルオンさんが実力行使で連れ帰ってもらう、という形になるかもしれない」


 一番まずいのはビゼルが魔王になって……というのはこの戦いが負けるという前提なので論外だが、エルアスが友好的だと断定することもできない。状況がまずいと判断したら、ガルク達の力を借りて強引に魔界から出るという手法しかないだろうな。


「……クロワ、その辺りは正直、誰が魔王になるかによって変わるからどうとも言えないが、こっちに任せてもらっていいか?」

「ああ、僕らが関わると混乱する可能性があるからな」


 なら、もしもの場合に備えて色々と頭の中で状況を整理しておくか。彼らを速やかに避難させるには、俺とソフィアが戻ってきて、ここへ向かわせることか。


「……森に魔物はいないはずだから、それを突っ切れば問題ないよな?」

「現時点ではそうだな。ゼムンもその辺りを確認しているから間違いない」


 彼らを緊急避難させるにはどうしたって強引にならざるを得ないけど、ここは仕方がないか。


「わかった……で、クロワ。技法についてはどうだ?」

「少し難儀している。人間の技術だからか?」

「もしかすると魔力の流れとか、その辺りクロワが普段使う剣術なんかとは異なっているのかもしれない。ともあれこれは訓練あるのみだから、頑張るしかないな」


 そんな感じでクロワとの鍛錬は進んでいく。最終的に二日目の昼にはおおよそ習得したため、実戦で使えるだろうという結論に至った。これを用いてビゼルを倒してくれればいい――






 そうして三日経過した早朝、俺は使い魔で状況を確認し、


「五つの拠点に、それぞれ配置についたな。俺が観測する中ではビゼルに動きはない」

『我の方もない』


 ガルクの声。それをクロワに報告すると、


「見つからずに到達できたようだな……では、始めるとしようか」


 日が昇り始める。クロワはそこで俺を見据え、


「もしもの場合、ルオンさんの力に頼ることになってしまうが……場合によっては逃げてくれ」

「兵器の威力は甚大だが、たぶん俺一人だけなら生き残ることはできる」


 そう語った後、俺は肩をすくめ、


「だから最悪、クロワだけはかばってでも守るさ」

「僕だけなら守り切れると」

「そういうことになる……けど、そうならないよう祈ろうじゃないか」

「まったくだな。さて」


 クロワが小さく呟いた時、ゼムンが姿を現した。


「準備はできております」

「気配を感じることができるな……ずいぶんと大所帯だ」


 ――周囲は森なのだが、その至る所に気配が存在している。集結した戦力は、先に行ったビゼルとの戦争に負けず劣らずといった数みたいだ。


「用意するのは大変だっただろう」

「それが私の役目ですからね」


 ニコリとゼムンは笑う。こうしてクロワの下で働けて嬉しい、といった様子。

 魔王に対する忠義が彼に向けられている……そんなところかな。


「ではクロワ様、号令を」


 ゼムンが告げる。それと共にクロワは腰の剣を抜き、掲げた。


「今度こそ、決着を付ける! 全員、続け!」


 直後、森中から鬨の声が聞こえ始めた――


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