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賢者の剣  作者: 陽山純樹
王女との旅路

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魔城の主

 俺はレドラスとの戦いを前に、改めて思考する。魔物と遭遇しているがダメージもなく、魔力的にも十分余裕がある。ただ中級技や魔法をまだソフィア達は使えないようなので、火力不足に陥る可能性がゼロではないが……不安もあるが、やるしかない。


「いよいよって、感じだな」


 扉を前にしてアルトが呟く。どうやらここから先に目標であるレドラスがいるのが察せられたらしい。

 ステラやソフィアもまた、雰囲気から察している様子……キャルンもまた硬い表情。イグノスも張りつめた空気からか緊張した面持ちであり……やがて、アルトが一歩前に出た。


 その瞬間、扉が勝手に開き始めた。即座に全員武器を構える――アルトとステラが先頭に立ち、その後方にソフィアとキャルン。その後方に俺とイグノスが後衛として控えるような状況……こちらは万全の態勢と言ってもいいだろう。


 攻撃力的な観点から見れば、主力はアルトで間違いない。ただレベル的にはソフィアの方が若干上だろうか……考える間に扉の向こうが見える。大きな広間で俺達が立ち回っても問題ない十分な広さを持っている。窓などはないが至るところに魔法の明かりがあり、室内はずいぶんと明るい。


 その広間の中央……まるで曼荼羅のような複雑な紋様をした床面の中央に、レドラスが立っていた。


『待っていたぞ』


 こちらを迎え撃つためか、その手には槍――刃が十文字の形状をした槍が握られていた。


『ここまで来た実力は認めよう。だが、進撃もここまでだ』


 重く広間を響かせる声――顔は仮面でもつけているように滑らかかつ、青い光沢を放つような金属めいた肌をまとっている。加え般若のような顔立ちは俺達が視線を向けるためか、好戦的なものに染まっている。


 体格は人間の倍、とまではいかないが相当な巨体。青い肌に対し全身を深い紫の鎧で身を包んでいる。槍を持つその姿はまさしく武人と言っても差し支えない威風堂々としたもので、その見た目から小細工などせず真正面から戦うことを心の底から望んでいる……そんな気配がありありと感じられる。


 地底調査の時、ドールキングが俺との戦いで邪魔立てしないよう周囲のダークドールに指示を送っていたわけだが……目の前のレドラスを見れば、そんな性格になってもおかしくないと思えた。(から)め手など一切必要ない、ここまで来た以上全力で戦う……そういう意思がみなぎっている。


 こっちとしてはやりやすい相手ではあるのだが……その武力は魔力を大地に流しているとはいえ本物には違いない。本来の力に程遠いのは間違いないが、それでも槍を使った攻撃は脅威……注意しなければ。


「……行くぞ!」


 アルトが言う。ステラはそれに頷き――二人は同時に走り出した。


 戦闘開始だ。ゲームならここでレドラス戦専用の音楽が流れる。五大魔族にはそれぞれ専用の曲が用意されているが……レドラスの場合はBPMの速いサウンドで、弾けるようなドラムとザクザクと音を立てるギターが印象に残っている。

 目の前のレドラスを見てそれが頭の中で湧き上がったりしつつ……ソフィアやキャルンが動き出すのを目に留める。


『我が力に耐えられるか』


 槍を振るう。体格に準じたその武器は人間の間合いよりも遥かに広い攻撃範囲を持ち、一振りで兵士を十人は一気に両断しそうな雰囲気を持っている。

 そこへ臆せず踏み込むアルト。その剣戟に力が宿り、槍に合わせるように剣を振るう。正面からの激突。その間に俺は援護するべく詠唱を始める。


 次の瞬間、ステラも仕掛ける。二人の剣の動きがシンクロして槍へと向かっていく。二人で抑える気だ……確信した瞬間、激突した。


「ぐっ……!」


 呻くアルト。だが彼は即座にその槍を受け流し、反撃に出た。突撃と共に真っ直ぐ剣を放つ。

 その動きを見て、俺は大剣下級技の『シールドクラッシュ』であると断ずる。攻撃力はそこそこだが、相手の鎧などを破壊し防御力を下げるという意味合いを持った技だったはずだが……しかし、


『無駄だ』


 レドラスは素早く槍を引き戻し受け切る。技は不発。巨体に似合わず俊敏な動き。


『中々の動きだが――』


 レドラスが呟く間にさらにアルトとステラは攻め立てる。息の合った動きで左右に展開。それに相手も一時槍の動きを迷わせた。

 単純な力勝負は通用しないと最初からわかっていたのだろう。だからアルト達は兄妹としての息の合った攻撃で対抗する。


 ここで俺はまずアルトへ攻撃力上昇の魔法を使用。魔力が彼へ宿り――さらに剣を放つ。それは『斬空剣』であり、レドラスは槍をそちらへ向けようと動く。

 するとステラが動いた。彼女は下級汎用技『エッジスマッシュ』という、魔力をまとわせた上段からの振り下ろしを放つ。


 同時攻撃――さらにソフィアとキャルンもレドラスへ向かっている。ここでレドラスはどう動くか。


『――成程』


 呟いた瞬間、レドラスの槍はアルトへ向けられた。大剣を弾いたが――ステラの攻撃が直撃した。

 しかし、レドラスは受けても身じろぎしない。効いてはいるはずだが――ここで、ソフィアとキャルンが同時に攻めかかる。


 まずキャルンが短剣で一薙ぎ。次いでソフィアが声を上げた。


「やああっ!」


 放ったのは『火炎斬り』――真正面からの剣戟は、レドラスの防御が到達する前に直撃した。体に斜めに一閃され……それは間違いなく確実にダメージを与えるものだったはずだが、当のレドラスは超然としている。


『見事な攻撃。ここまで到達するのも頷ける。だが――』


 槍を振るおうと動く。するとアルトやソフィア達は一斉に間合いを脱するべく後退。レドラスはその動きを見て行動を中断。様子見なのか槍を構えただけで、追撃する気配はなかった。


『中々の人間だな。以前の騎士団ではどうにもならなかったというのに』

「結界が張ってあったため、と討伐の人間から聞いたぜ」


 アルトが言う。するとレドラスはくぐもった笑い声を上げた。


『成程……そしてこの私に刃が届くと理解し、お前達はここまで来たか』

「そういうことだ。どうやら俺達の攻撃が通用する様子……なら、ここで倒させてもらう!」


 アルトの宣言。それと共にレドラスはまたも笑う。


『面白い……やってみろ!』


 自信に満ちた声――ここで俺は一つ推測する。さっきの攻防、ステラやソフィアの剣戟をわざと受けたのかもしれない。真正面から受け、その技量を確認し……そういう意図があるのだとしたら――


 アルトが駆ける。息を合わせるようにステラもまた動き出し、先ほどと同じような構図になる。

 レドラスはどうするのか……というより、槍で強引に戦況を変えることだってできるはずだが、それをしないのはなぜなのか。


 俺は心の内でレドラスがどのような目論見なのかを推測しながら詠唱開始――同時、アルトが右から斬り込む。それを槍で弾いたレドラスは、即座に左から迫るステラの攻撃も受け流す。

 ソフィアが再度踏み込もうとしたが、レドラスの反応速度の方が上回り、彼女は攻撃できず足を止めた。


『どうした?』


 問うレドラス。するとアルトがまたも仕掛けようと動き――その時、気付いた。

 ステラがまだ動いていない。アルトだけが攻め込み、連携攻撃が機能していない。


 そこを、レドラスは見逃さなかった。これを狙っていたかどうかはわからないが、おそらく戦いの中で隙を見出し――カウンターを狙っていたのは間違いないだろう。

 力押しではなく、技術によって対抗する……もしかするとレドラスは、それをしたかったのかもしれない。


 槍が放たれる。狙いはアルト――彼は即応し体を捻りどうにか槍を避けた。

 そこへステラとソフィアの攻撃。共に一撃加えることに成功したが、浅い……彼女達が攻撃する間にアルトは間合いを脱し、レドラスは槍を引き戻す。


 ソフィア達も攻撃後すぐさま後退しようと動くが、レドラスがさらなる攻撃を加える方が一歩、早かった――


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