強さを得るため
「リーゼ、そちらは王女という立場である以上、さすがに他の人と同じ扱い、というのは政治的な意味合いで難しいと思う。ただそちらの考えは聞きたいんだが……仮に組織が動き出した際、どういう立場で戦いに参加するつもりなんだ?」
「それはもちろん組織の一員として」
「さすがにジイルダイン王国側が黙っていないだろ?」
「許可はちゃんととってあるわよ」
「……許可?」
首を傾げるとリーゼは頷き、
「ええ、お父様に……つまり国王に許可はとってあるわよ。当面戻らなくてもいいような処置はきちんとしてあるわ」
……つまりそうまでして戦列に加わりたいという強い意志を持ってここに来たわけだ。ただ、
「なぜ国王は認めるのか……」
「まあ色々とあるのよ」
なんかリーゼが無理矢理押し通したのがひしひしと感じられるんだけど……と、推察しているとリーゼから捕捉が来た。
「私は王位継承権第一位というわけでもないし、制約も少ないのよ」
「王族という時点で制約、色々あると思うんだけど……」
「言っても無駄だと思うけどなあ」
そんな言葉を投げかけたのは、アルトだった。
「リーゼさん、ここで戦うためにわざわざ来たみたいだし」
「そうね」
「……ソフィア、どうする?」
「私にリーゼ姉さんを止める手立てはありませんよ」
「訓練次第だが、私は実力的に問題ないと思うぞ」
追い打ちを掛けるようにエーメルが言う。それによって俺も、あきらめた。
「わかったよ。ただ組織がどうなるかもわからないから、そこは注意してくれよ」
「ええ、わかったわ」
さて、なら次は……エーメルに顔を向ける彼女は笑い、
「他の面々はどうする?」
「――王女様にああまで頑張られたら、こちらも数人で、とはいかないだろうな」
そう声を発し、アルトは前に出た。
「というわけで次は俺だ」
「ああ、いいぞ。存分に来るといい」
笑みを浮かべ応じるエーメル。ちなみにエイナも戦いの気配をまとわせ、こちらも一騎打ちで挑もうという雰囲気が伝わってくる。
……アルトやエイナは堕天使との戦いで十二分に活躍してくれた。装備なんかもその当時の物みたいだし、連携して戦うなら勝利することはできるかもしれない。
ただ、彼らは単独で戦えるくらいの力を持たなければならないと思っているようで、完全に単独で挑もうとしている……まあいいか。やりたいようにやらせよう。
そう心の中で思った直後、アルトは声を張り上げながら突撃を開始する。そうして、第二戦が始まった――
で、結果なのだが……もしこれがアニメとかなら「チーン」とかいう効果音が流れることだろう。
全員、完膚なきまでに叩きのめされた。
「つ、強いな……やっぱり……」
堕天使との戦いの勢いはどこにもなく、アルトはあっさりと敗北。それはキャルンやエイナも同様で、結果として三人とも現在も倒れている。
「その装備、普通とは違うな。天使辺りからもらった物か?」
ふいにエーメルが問い掛ける。アルトは起き上がりながら「そうだ」と答え、
「強大な力を持った堕天使すらも押し留める武器だったんだが……」
「三者の武器は例外なく退魔の力が付与されている。それは私にもある程度効き目はあるようだが、少し調整が必要かもしれないな」
「というと?」
「アルト君の衝撃波を受けてみたが、私はほとんどダメージを受けなかった」
――アルトの大剣は攻撃に衝撃波が付随する武器なのだが、エーメルにはそれがあまり通用していない様子。
「魔物相手ならば十二分に効果を発揮するだろうが、魔王候補相手になると効果が薄い。たぶんだが堕天使相手に戦えるよう調整されているからだろう。ただこれ、天使側が意図してやったわけじゃないはずだ」
と、エーメルの視線は入口近くにいる天使リリトへ。
「退魔の効果があるため天使側も魔族などに有効だと判断したようだが、今回の戦いを考えると少し変える必要が出てくるだろうな」
「そのようですね……精進致します」
「ルオンさんが戦う相手の詳細は不明なわけだし、調整についてはこれからやればいいさ」
そう言った後、エーメルは大剣を軽く素振りする。
「とはいえそれがきちんと効果を発揮したとしても、私を倒せたかどうか怪しいな。その堕天使は強かったはずだが、その時の勢いがアルト君にはないようだし」
「……その戦いでは、全力以上のものを出せたってことか?」
「そう解釈しても構わない。あとは単独で戦う場合と連携して戦う場合とではやり方も違うからな。単独で戦い抜ける力、というのはかなり大変だぞ」
「――しかし、その力がなければ」
今度はエイナが立ち上がりながら口を開いた。
「おそらく私はルオン殿達の敵と戦う資格はない」
「そこまで言うか……ま、敵が強大であることは間違いない。そのくらいの心構えの方がいいかもしれないな」
エーメルはそう言いながら大剣の切っ先を地面へと向ける。
「この場にいる面々はまだまだだが、伸びしろは十分ある。私と鍛錬を積み重ねれば確実に強くなれるだろう……ただし」
ここでエーメルはニヤリとなった。
「戦いの前にも言ったが、鍛錬により私もまた強くなる。つまり私を超えるためにには、私以上に早いペースで成長し続ける必要があるというわけだ」
その言葉に、この場にいた誰もが反応する……それと共に、彼らの目には強い決意の色が見られた。
あー、エーメルめ。たきつけたな。それを証明するかのようにリーゼが笑みを浮かべ、
「そうね、ならばこの場にいる全員があなたに勝てるよう、努力しましょう」
「その意気だ。指導はいくらでもするぞ」
ああ、駄目だ。完全に戦いの世界に入り込んでいる……ソフィアを見たら彼女の方もなんだかあきらめた様子。
ま、まあリーゼはともかくとしてアルトやエイナがやる気を出してくれるのはありがたいし、これはこれでいいか――
「ずいぶんと面白そうな話をしているじゃないか。ボクも混ぜてくれないか」
突如、この場の面々ではない声がした。けれど聞き慣れた声。それは、
「――シルヴィ!」
「久しぶりだな、お二方」
入口で顔を出している人物――シルヴィの姿があった。
「要請を受けて、ここに来た。事情を多少なりとも知る者として、呼んでくれたのか?」
「そういうことだな。とはいえ一緒に旅をしていた時からずいぶんと状況も変わっている。その辺りは説明させてもらうよ」
「それはありがたい……で、先ほど面白い話をしていたが」
「ああ、そちらもやるか?」
大剣の切っ先をシルヴィへ向けるエーメル。それに彼女もまた応じ剣を抜く。
「ああ、どこの誰かは知らないが、受けようじゃないか」
……もしかして、このノリがずっと続くのだろうか?
そんな疑問を感じている間にもシルヴィとエーメルの距離が縮まっていく……それを見て俺はなんだかため息をつきたい気分に駆られるのだった。




