英雄の役割
協力を得ることには成功……ただ、クローディウス王の口から続きがあった。
「ソフィア。今後だが……城に戻ってきた事実を踏まえ、廷臣達がもう外に出るなとお達しが来る可能性はある」
「重々承知していますが、まだ落ち着くわけにはいきません」
「それはこちらもわかっているため、どうにか説得はするが……この戦いが終われば当面は城にいてもらうことになる。そこは問題ないか?」
「……ルオン様はどうなりますか?」
「立場上ルオン殿もこの城にいてもらうことになる」
……ソフィアの婚約者だからな。
「俺も構いません……が、こちらにもまだ目的があるんです」
「何をするのだ?」
――アンジェのことを告げることはできないため、ここは「魔界で手に入れた情報」ということにしておき、
「……リズファナ大陸に、どうやら俺達が欲する情報を持つ人物がいるらしいんです」
「再び大陸を渡ることになるか……」
クローディウス王は口元に手を当て考え込む。当然の反応だろうな。
こうなると欲する情報を手に入れるには紆余曲折がありそうだ……と、ここでデヴァルスが思いも寄らぬ提案をした。
「そこまでわかっているのなら、もっともらしい解決法があるじゃないか」
「……解決法?」
聞き返すとデヴァルスは「ああ」と返事をして、
「ここには三大陸をまたいだ面々が揃っている。なおかつルオンさんはその中の一つにとって大英雄であり、もう一つは皇帝とも知り合い。そしてもう一つは人間の国々とは大きく関係がないにしても、その国々と強い関係のある種族の長と話ができる存在だ。ならば他の大陸と友好関係を深めるために、使者として話をしに行くというのは、もっともらしい理由にならないか?」
「……つまり、公的な理由でリズファナ大陸へ向かうってことか」
「正解」
「確かにその方法ならば不可能ではないな」
クローディウスはデヴァルスの提案に頷く。
「こうして集ったことについて、現在のところ公にはしていない。ルオン殿達を捜索するという名目で集まった故に、そうせざるを得なかった面もあるわけだが……また他大陸での評判なんかも多くの人が耳にするだろう。その功績により正式に使者が訪れ話をしたということにすれば問題もなく、ここからさらに発展し他の大陸とも交流を……そういう流れに持っていくことは難しくないだろう」
「公的な形となると、動きにくい面もあるでしょうけれど」
ソフィアが言う。それにクローディウス王は、
「だがメリットもあるぞ……ルオン殿、得られた情報はリズファナ大陸にルオン殿が欲するものを持っている人物がいる、だけなのか?」
「そうですね」
「ならば公的な機関などを利用し、それらしい場所などを探すということも可能ではないか? リズファナ大陸はナーザレイド大陸と同様一つの国が治めている。情報を探すのに国に頼る選択肢もあるだろう」
……確かに色々と国から情報を得て探した方が効率が良いかもしれない。
大陸を訪れる理由についてもどうにかなるだろうし、確かにそういう手法も一つではあるな。
「ただし、ルオン殿とソフィアについて今後少しばかり窮屈になってしまうだろう」
そうクローディウス王は続ける。
「だが、それと共に国という大きな支援を受けられるようになるのもまた事実だ。どちらが良いのかという判断は難しいが、ルオン殿が旅を通して得られるものはこの城にいても得られる可能性は十分ある」
……しがらみも増えそうだけど、王が語るようにメリットもある、か。
それに、こうして三大陸の面々が顔を突き合わせて話をするような立場になってしまったのも事実であって、今後英雄である俺という存在は旅をしていても窮屈なものになるかもしれない。
そう考えると、この辺りで公的な立ち位置についても良い……かもしれないけど、正直大変そうだよなあ。
「……一つ、確認したいことがあるんですが」
俺はクローディウス王へ問い掛ける。
「もし、俺がこの城に居着く場合、何をすれば?」
「立場的な問題もあるため単なる食客というわけにもいかないだろうな。どうするかについては考えもあるが、何かしらの役職についてもらう可能性はある」
だよなあ。ソフィアの婚約者ってわけだし、相応かどうかはわからないけど身分が与えられるのは確かか。
正直強くなるためだけに生きてきた俺が城にどこまで貢献できるのか……粗相しないかという不安もつきまとうのだが、こちらが何を言っても情勢的に聞き入れてくれそうにない。
「……俺にできることはたかがしれていますよ」
そんな風に告げると、クローディウス王は笑い始めた。
「ルオン殿がそう言ってしまうと、こちらの立つ瀬がなくなるな」
「俺はただ戦うだけしか能がないと思っているので……」
「そういうわけではないと思うぞ、ルオン殿が気付いていないだけだ」
本当だろうか……反論したくなったが、王が笑みを浮かべながら語るのでそれ以上は何も言えなかった。
「――それと、一つ質問があるんだが」
と、今度はデヴァルスが口を開く。
「王様としてはルオンさんをどうしたいか頭の中で決めているわけだが……ルオンさんやソフィアさんが再び城から離れるにはどのくらいの期間が必要なんだ?」
「わからないが、何年という単位の話ではないと思うぞ」
「そうか……俺はルオンさんから色々と話を聞いているわけだが、いずれ大きな戦いがあるかもしれない。その兆候があったらすぐに動き出す態勢くらいは整えておいた方がいいと思うんだが」
「ふむ、確かにな。ルオン殿、そこは後々協議ということで構わないか?」
「はい」
「それとなんだが、個人的に手を貸して欲しいことがある」
と、デヴァルスがクローディウス王へ告げる。それに王は眉をひそめ、
「手を貸すというのは、私が?」
「いや、ルオンさん達の手を」
「つまり、城にいてもらう間に依頼をしたいと」
「ああ。実は色々事情があってしばらくの間、この大陸に天使を派遣しようと思っている。これは神霊達と話し合って決めたことなんだが、それについて少しルオンさん達の協力を願いたい」
……魔界の話から逸れて、天使自身の内容になっているな。
「これはルオンさんが追っている存在に関することだから、ルオンさんとしては加わりたいはずだ」
「内容にもよるけど、協力できることがあるならやりたいな」
「そう言ってくれると思っていたよ……ただ詳細は戦いが終わってからだな。まだこちらも派遣について色々とやらなきゃいけないからな」
つまり、天使の派遣が決まった際に俺やソフィアに仕事を頼みたいってことかな。それにクローディウス王は頷き、
「天界の長からの依頼とあっては、廷臣達も納得するだろう……こちらもルオン殿が動けるような態勢は作っておこう」
「交渉成立だな……さて、話がだいぶ逸れて申し訳ない。戦力について具体的な話だが」
デヴァルスはそう言いながらクロワへ告げる。
「期限はどのくらいだ?」
「二ヶ月ほど」
「それなら十分そうだな……ルオンさん達も見つかったことだし、こちらは帰還する準備を始めよう」
「連絡はこちらがやろう」
ガルクが手を上げる。デヴァルスは「頼む」と告げ、
「問題はどこを集合場所にするか、だ。さすがにこの国で大軍勢とはいかずとも、天使や精霊、竜が集まるなんて事態になったら大騒ぎだぞ」
「魔界への扉が存在する場所がある。そこにしよう」
クロワが提案し、場所を提示し誰もが了承――交渉も上手くいき、いよいよ戦いの準備が始まろうとしていた。




