表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者の剣  作者: 陽山純樹
王女との旅路

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/1082

魔族の居城

 町へ戻り、俺は眠ることなく準備を行う。やがて陽も出て仲間達も起床し……ここで俺はソフィアに声を掛けた。

 帰り道にやっておくべきことがあると、思い出したのだ。


「ソフィア、おはよう」

「おはようございます。どうされましたか?」

「剣を貸してもらえないか」

「剣、ですか? 構いませんが……何を?」

「町で武器強化の魔石を見つけ、購入したんだ。それを使おうと思って」

「強化……わかりました」


 ソフィアは俺に剣を渡す。精銀の剣だが……このままでは少しばかり威力が足りないかもしれない。よって、補強しようと思った。

 本当ならば、強力な剣を渡すのも手なのだが……これには二つの問題が存在する。一つは魔物を全部一撃もしくは楽々倒すような武器を渡すと、明らかに目立つという点。


 ソフィアは現在アーティファクトを駆使して王女であることを誤魔化しているわけだが、さすがに目立てば魔族達も調査するだろう。現状まだまだ人間側が劣勢であることを踏まえると、ソフィアのことを調べられる可能性はできるだけ少ない方がいい。


 そしてもう一つの問題……というかこちらの方が要因としては大きい。修行時代、ギルド登録して時には誰かと共に仕事をしたことがあり、その時色々と検証した。それにより得られた結論を根拠としている。これもまた、ゲームと現実の違いというべきものだ。


 例えば強力な武具などを用い強い魔物を倒すことで一気にレベルが上がるのではないかと思い、仲間キャラほどではないがそれなりに成長能力のあった人物で試してみたことがある。その人物は大剣使いで長剣技を習得していなかったので、長剣を持たせ、技能習得などが早くなるのかなど検証した。


 彼にとって強い魔物に加え、それらをほぼ一撃で倒せる強力な剣や攻撃に耐えうる防具を渡して実験した結果……レベルはまったくと言っていいほど上がらなかったし、技もロクに覚えなかった。攻撃を受けても平気という状態も戦略を練るという行為を妨げる結果となり、成果がないことに拍車をかけていた……逆に彼の技量に合わせた魔物と武器防具の方が、技も習得したし能力も上がった。


 他にも色々と検証した結果……俺が出した結論としては、強い敵を楽に倒しても経験値を多くもらえないばかりか、得られないことすらあるということ。さらに技の習得もできない……これは経験値を得られる要因が『敵を倒す』ことではなく、『どれだけ苦労して剣や魔法を使い戦ったり鍛錬を続けた』かにかかっていることを意味している。


 ソフィアが今後強くなるためには、それ相応の苦労と努力が必要だということ……万が一彼女が魔王を討つ資格を得るのだとしたら、今回の戦いは非常に重要な経験となる。これはおそらくアルトを始め仲間になるキャラも同じだろう。だからこそ、強力な武具を渡すのは目立つ意味と合わせやめた方がいいと思った。


 無論、もしもの場合は対処するが……ちなみにソフィアには、危険な状態になったときに結界などが発動する腕輪を今も身に着けさせている。五大魔族との戦いである以上、他の仲間達にも渡しておくべきだろうな。


 結論を出しつつ部屋に戻り、剣の強化を行う。レドラスに対抗できるだけの威力があればいいはずなので、俺はこれまで遭遇した魔物の能力からレドラスの能力を推定し、強化する。


 ゲーム上では武器や防具の能力を上昇させるアイテムが魔石として登場する。一度ゲームをクリアするとそのアイテムは道具屋などに値は張るが売り出されるようになるので、お遊びとして単なるロングソードに最強武器級の威力を持たせることだってできる。まあ現実世界となった今では注げる魔力にも限界があるはずなので、そんなことできるとは思えないのだが。


 というわけでソフィアが使う剣を強化する。もし力不足と感じたら攻撃力上昇の魔法を使って対処すればいいだろう。

 俺は処置を施し、ソフィアへと返す。すると柄を握った時点で魔力を感じたか「ありがとうございます」と礼を言われた。


 さらに全員で朝食をとった時、五大魔族との戦いに向けて緊急回避用の腕輪を全員分に渡す。もっとも渡す時はソフィアに説明した時と同じで防御力が上がる、といった説明を行った。


 そして食事の後――外に出て、アルトが宣言する。


「行くとするか」


 全員静かに頷き……俺達は、レドラスの居城へと進み出した。






 出発した町から居城まではおよそ二日……道中魔物も出現するが、その全てが現段階のアルトやソフィアでどうにかなるレベル。とはいえ居城へ向かうまでに中級以上の技をできれば覚えて欲しいが――


「ふっ!」


 魔物を一刀両断するアルト。その威力は十分であり、連携もあって周辺の魔物に対しては敵なしと言ってもいい。

 レベルも順調に上がっているはずなのだが、まだ中級の技などは習得していない……ただ焦っても仕方がない。それに中級技や魔法の習得は必須というわけでもない。もし習得しなければ、相応の戦法に切り替えることにしよう。


 そうなれば、俺がきっちりとサポートする必要があるだろう……心の中で断じた時、とうとう居城近くの森へ踏み込んだ。


「瘴気が濃くなったな」


 アルトが言う。それと共に前方を見据える視線が鋭くなる。

 いよいよ、というわけだ。五大魔族との戦いなんてゲーム内でいくらでも経験してきたし、居城も見慣れているのだが……現実となって、俺も少しばかり緊張する。


 この緊張は、これから物語がどう転ぶか不安だからだろうか? それとも、見知った場所とはいえ、五大魔族という存在と瘴気に少なからずプレッシャーを感じているからだろうか……考える間に、森を抜けた。

 森の反対側はなだらかな下り坂となっており、前方に開けた空間――盆地があった。地形的には森が海抜の低い盆地を囲うような感じになっている。


 その盆地の中央に、目的の場所……レドラスの居城である『戦王殿』があった。外観は深い青の城。窓のようなものは見受けられず、さらに鋭く尖った頂きを持つ、魔の城である。

 戦王、というのはレドラスの異名。五大魔族の中でも攻撃特化である能力を示すわかりやすい異名である。


 五大魔族を倒す順番は基本自由だが、このレドラスは後半になればなるほど全体攻撃技を多用するようになるので、楽をしたいなら中盤くらいまでには仕留めたい相手。イベントも起こしやすいため、最初の標的になりやすいのだが……おそらく今のレベルなら、全体攻撃はよくて一種類くらいしか持っていないはず。それも威力が低いため、対処するのはそれほど困らないだろう。


 もっとも、これはあくまでゲーム上の話。現実となった今ではおそらく戦い方も違うだろう。今後五大魔族と戦っていく上で、その辺りもどの程度違いがあるのかを注視する必要がある。


 ここで俺は仲間達の様子を見回す。ソフィアやアルトは城を見て緊張した面持ち……けれど決して気後れしている様子はない。イグノスは冷静になるようしているのか沈黙を守り、キャルンは目を見開き城の有り様に驚いているようだ。


「……行くぞ」


 やがてアルトが言う。その言葉と共に、俺達はゆっくりと目の前の城へ向かう。

 城の周辺に、魔物の姿は見受けられない。森の周辺にはいたんだが……どうやら手薄になっているのは間違いなさそうだった。


 正門前に到達。俺はアルトと視線を合わせ、目で会話。するとアルトは頷き、前に出て扉に手を掛けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ