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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魔王の庭

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魔王と封印

 遠方から見える魔王の城は漆黒で、青空の下ではずいぶんと浮いている。高さもかなりあり、実用面よりは外観を重視した建物のように見える。

 魔王の直轄領に入って以降、硬質な気配を感じ取っていたわけだが、遠方に見える城からはさらに強い気配を感じ取ることができる。


「そういえば、クロワもあの場所で暮らしていたのか?」


 俺が問い掛けると、クロワは城を見据え、


「封印される前に、だが」

「……封印された経緯とかは詳しく知らないけど、それをするだけの騒動があったという解釈でいいのか?」

「僕自身、状況がよくわかっていなかった。魔王……父は僕らをそのままにしておくとまずいということで、封印したようだが」

「封印、というのがどうにも疑問ですね」


 ここでソフィアが口を開く。


「例えばどこかに匿うとか、そういうやり方が良いような気もしますが」

「……それについては僕も色々と考えた。結局仮説しか導き出せなかったが」

「仮説というのは?」


 聞き返したソフィアに対し、クロワは多少沈黙を置いて、


「……父は自身の身が危うくなるということを把握していた。そして父がいなくなれば子供である僕やアンジェにまで危害を加えられる可能性があった」

「だから封印を?」

「僕らを封印、というのは確かに引っ掛かるが……とにかく、長い年月を経て僕らは魔王である父が目覚めるのと同じタイミングで目覚めた」

「……それだけ聞くと、なんだか奇妙な話だ」


 と、今度はエーメルが口を開いた。


「まるで封印された魔王とクロワ達の封印が連動しているようじゃないか」

「その可能性が高いと僕は考えている……仮説というのはそれだ。封印が連動していた」


 ……自分が目覚めれば少なくともクロワやアンジェに危害を加えるような事態にはならない。そんな風に思ったということか?

 ただそうなると、最大の疑問が生まれる。


「……魔王は、賢者に封印された」

「そうだな」

「魔王はそれに対し、クロワ達のことを始めとして準備をしていた……というのは理解できる。けれど封印が連動していたなんて、賢者に封印されることを知っていたように感じられるな」

「僕の考えが仮説の域を出ないのはそこだ。父は封じられていることを予見していたかのような行動に出ている……そして賢者との戦いにおいて滅されるのではなく、封印された。なぜなのか――」

「仮説を前提とするならば、考えられる可能性は二つありますね」


 次にソフィアが、話し始める。


「一つは魔王は賢者により自身を滅ぼされる可能性を危惧していた。よって滅される前に、自分自身を封印した。つまり伝承とは異なり、賢者の手によって封印されたわけではない、ということ」

「そうであったなら賢者は魔王討伐に失敗したってことになるな」


 俺の指摘にソフィアは頷き、


「そうだとしたら、賢者はどういう心境だったのか……」

「その辺りはさすがにどれだけ調べても事実が出てきそうにはないな。まあ話の本筋とはややズレているから置いておこう。ソフィア、二つ目は?」

「――魔王と賢者が結託して、封印をした」

「以前なら、そんなわけはないと即座に否定するところなんだが」


 俺は頭をかきながらソフィアの言及に応じる。


「俺達が関わった『神』という存在……魔王や賢者もそれに関わっているだろう。あの存在に触れたことにより、何かあった……なんて可能性もゼロではなさそうだ」

「たださすがに結託して封印したとしても、何をしたかったのかはわからないですね。正直二つ目の可能性はほぼゼロだと思いますが」

「順当に考えたら一つ目の方だろうな……賢者に滅ぼされる前に自らの意思で封印されたとしたら……何が目的だったのか」

「賢者の時代から相当年月が経っていることも疑問ですね。例えば賢者が目障りならば、賢者が亡くなった直後くらいに封印を解除して行動すればいいはずですし」


 ……うーん、どうにも矛盾があるな。どういう仮説を立てても納得いかない部分が出てくる。

 真相解明はもっと調査を続けないといけないだろう。もしかしたら魔王の城にそういう情報があったら……などと思ったが、今すぐに調べられるわけじゃないし、置いておくしかないな。


 そうして会話をしながら少しずつ城に近づいていく。その道中で何やら屋敷っぽい建物などが見えるのだが……。


「クロワ、城以外の建物は?」

「本来なら魔王に付き従う魔族達が暮らす邸宅……とはいえ現在は無人だが」


 クロワが返した直後、真正面から気配を感じた。何事かと身構えた矢先、俺達に歩み寄ってくる魔族が。

 黒い髪を持った男性で、見た目的には俺やソフィアとさして変わらないくらいの年齢に見える。ただ格好を含め印象は地味の一言。そんな男性魔族は俺達へ近づいてくると、まずはクロワへ視線を移した。


「……お久しぶりです、クロワ様」

「ああ、久しぶりだな。ルード」

「クロワ、彼が――」

「そうだ。説明した守人だ」


 クロワはそこでルードへ問い掛ける。


「僕についての情報は得ているはずだ。この応対は魔王候補としてのものか? それとも魔王の息子としてのものか?」

「魔王の息子として、こちらに来たのですね?」

「そうだ。僕が所持する権限を用い、やってもらいたいことがある」


 そこでルードは俺とソフィアへ視線を移す。


「人間……それも多大な力を有する者達ですか。彼らを元の世界へ戻すと」

「彼らだけではない。僕やアンジェ……この場にいる全員を元の世界へ移動させてくれ」

「あなたも? ですがそれは――」

「魔王になるために、必要なことなんだ」


 ……クロワが何をやろうとしているのか、目を細め考え込む仕草を見せるルード。もし察したらどういう反応をするのか。


「ふむ、彼らと共に魔界を脱する……」


 呟きながらルードは目線をクロワへ。


「おぼろげながらどうするのか想像できますが、おおよそ理に適った手法だとは思えませんね」

「僕もまったく同じことを思うよ。けれどここから巻き返すには、この方法しかないと思っている」

「奇策中の奇策であることは間違いなさそうですが……ふむ、しかし先代魔王から無茶をさせるなとご伝言を聞いております。私としては相当な無茶……自殺でもしようという風に思えるのですが」

「少なくとも、彼に対する安全は保証するよ」


 俺がルードへ口を開く。


「人間である以上、どこまで信頼してもらえるかわからないけど……クロワの考えている策が成功しようと失敗しようとも、俺達が彼を保護し、この魔界へと戻す」

「彼らについては信用できる。だから頼む」


 クロワが言う。そこでルードは小さく息をつき、


「まったく……心配しようとも私としては指示に従うだけしかできませんからね。わかりました。あなた方を『扉』へとご案内しましょう」


 ルードは手で城とは違う方角を示す。その先には屋敷ほどの大きさがある建物が。


「魔界を出入りできる『扉』については、許可なく使われないよう厳重に封鎖されています。先代魔王が世界へ侵攻した際はその封鎖を解除し大々的に同胞が世界へ飛び立ったわけです」

「外に出られる権限は魔王が全て掌握しているというわけか」


 俺はそう呟きながら魔王候補について考察する。エルアスが魔王になっても外に出ようとするかどうかわからない。だがビゼルは間違いなく悲劇を呼ぶことになるだろう。

 それをさせないために、彼との戦いには勝たなければならない……俺はクロワの横顔を眺める。ルードの話をただ聞き続ける彼は、これから外に出ようとしているためか幾分緊張しているように見えた。


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