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賢者の剣  作者: 陽山純樹
王女との旅路

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人形の王

 強い瘴気……間近に迫ると、『ダークドール』の王とでも言うべきほどに力強い魔力を放っている存在だと理解した。


「相当レドラスの魔力を吸ったんだな」


 気配による感触としては、後半くらいに出てくる敵くらいには強いのではないかと思った。


『どうなさいますか?』


 レーフィンが問う。彼女は俺の能力を理解しているわけだが……本気を出せない状態では対応に苦慮するのでは――そんな風に思っているのだろう。


 だが、


「当然、戦うさ」


 槍を振り敵を蹴散らしながら突き進む。やがて相手――ドールキングとでも呼ぶべき相手は俺へ向かってきた。

 先に仕掛けたのは相手。人間の腕を持っていた相手は、右腕を大きく変化させ、騎馬兵が用いるようなランスへとその形状を変化させる。


「これは厄介だな……!」


 声を発しつつ、俺は放たれたランスを回避した。


 俺にとっては直撃しても後退させられる程度だと思うが、周辺にはまだまだ魔物の群れが存在する。倒れ込んだところを魔物によってたかって押し潰されれば輪をかけて面倒なことになる。


 となれば食らいたくないところ……俺はすかさず槍を突き込んだ。単なる通常攻撃だが、他の『ダークドール』は全て一撃だった。今回は――


 胸部に槍は見事に当たる。結果消滅せず、さらに槍を受けその気配が変化。警戒の色が強まる。

 それは言ってみれば、俺の攻撃を受けたことによりこちらの能力をある程度推察した、といった感じだろうか。


「魔力は漏れていないけど、ある程度気合を入れた一撃なら、攻撃を受けることで能力がわかるってことか」


 これまで戦ってきた悪魔などにはなかった傾向だ。おそらくレドラスの魔力を取り込んだことによる結果だろう。


 そして槍を受けても消滅しないということは、やはり相当な能力を所持していると考えていい……気配的にはゲーム後半に出てくる魔物くらいのものだが、レドラスの魔力を吸収しているため、下手すると現在弱体化したレドラスよりも耐久性などは上かもしれない。


 ドールキングの反撃。俺はすかさず姿勢を低くして回避する。ランスが俺の頭の上を通り過ぎ、すぐさま槍を放った。

 使用したのは下級汎用技『足払い』。名前通り相手の足を狙う技で、そこそこの確率で相手を怯ませる。


  果たして――目論見は成功し、ドールキングは体勢を崩した。次いで俺は下級汎用技『二段突き』をその胴体に打ち込む。効いてはいるのだが、まだ倒れない。

 しぶといが、見るからに魔力が減っているのはわかるので、撃破は時間の問題だろう……考えた時、周囲にいる『ダークドール』達が襲い掛かって来た。


 王の危機を察して……といったところだろうか。俺は素早く槍を振り襲い掛かって来た奴を片っ端から倒していく。その間にドールキングは体勢を立て直し、ランスを構えた。


 直後、周囲にいる『ダークドール』の動きが止まった。ドールキングが構えたと同時に瘴気を発したので、攻撃するなと指示を送ったのだろう。その意図は――


「……レドラスの魔力を受け、性格も多少ながら受け継いだというわけか」


 例えば漫画などで武士道や騎士道などを重んじ正々堂々と戦うことを好むキャラがいるが……レドラスはまさにそれだった。ゲームでも居城に乗り込んだ主人公達と真正面からぶつかる。むしろ好敵手が現れたことにより歓喜するような節もあった。


 そうした五大魔族の魔力を受けたドールキングもまた、同じような考えを持つに至ったというわけだろう……俺の能力を多少なりとも把握しているなら警戒し退く可能性だってあるわけだが、ドールキングは俺と戦うことを選んだ。これはレドラスの好戦的な性格が反映されていると考えていいだろう。


 俺にとっては好都合……そして相手の意志に応じ、槍を構える。

 一時、静寂が周囲を包んだ。魔物との一騎打ちという奇妙な形――思った直後、ドールキングが動いた。


 瘴気が噴出し、ランスが、今までとは比べものにならない速度で俺へと迫る。これまで力を温存していたか、それとも俺を倒すには最高の一撃を出すしかないと思ったか。


 それに対し俺もまた動く。ランスの軌道を読み、体を僅かに逸らしかわす。次いで、手に握る槍を消した。素早く腰の剣を抜き、刀身に露出しない魔力を込め、ドールキングを間合いに入れる。

 刹那、ドールキングは回避しようと身じろぎする。だが、俺の方が速い――


「――悪いな」


 連撃。技ではなく単に魔力を込めた斬撃を浴びせるだけだったが、身体強化により剣速が上がった俺の斬撃は、幾重にもドールキングへと叩き込まれる。


 結果、とうとうドールキングは倒れ……消滅した。


「……撃破、と」


 俺は呟いた後口の中で手早く詠唱し、再び槍を生み出す。そして剣をしまい槍を握り直すと、周囲に目を向ける。

 王が倒されてしまったためか、命令を失い固まる『ダークドール』達。その間に呼吸を整え、俺は槍を構えた。


「それじゃあ、改めて掃除といこうか」


 発した直後、指示を失った魔物達が一斉に襲い掛かってくる。それに対し俺は……殲滅を開始した。






 相当な数がいた『ダークドール』を全て倒したのは、ドールキングを撃破してから一時間と少し経ったくらいだった。


「これで完了だな」


 槍を消し、俺は呟く。周囲には先ほど場を埋め尽くしていた『ダークドール』は影も形もない。

 レーフィンはこの結果にさして驚いている様子はなかったが、ロクトは俺の能力にびっくりしているのか目を見開いていた。


「さて、ロクト。この奥だな?」

「え? あ、はい。そうです」


 頷いたロクトは改めて先頭を歩き出す。地底は広大で、巨人でも隠れ住んでいるんじゃないかというくらいの規模。

 その中で、真正面から非常に濃い瘴気……到着だと思い明かりを向けると、道が左右二手に分かれた場所だった。


「左へ進めば、集落跡へと辿り着きますが……そこへ行くのは必要無さそうですね」


 真正面に存在する壁面……岩で構成されているはずの場所に、黒い線が数えきれないほどに走っていた。

 人間の血管のようにも見えるそれらから魔力が感じられる。先ほどドールキングから感じられた気配と同質であり、レドラスのもので間違いない。


「この魔力が、将来魔王の魔法によって使われると」


 レーフィンが言う。俺はそれに頷き、


「ああ……しかし、見事なまでに大地に侵食しているな。ロクト、どうだ?」

「……これは、厳しいですね」


 間近で見たロクトの感想は、悪いものだった。


「どうやら大地の力と密接に結びついている様子。自然に力が収まるのにも、相当な時間が必要でしょう」

「……そういえば、魔王が魔法を発動させなくてもこうした魔力は残るんだよな。物語上では言及されなかったが」

「全ての戦いが終わった後……何かしら問題となるかもしれません」


 ロクトは語る。ふむ、そういうことなら何か考えた方がいいのだろうか。


「もし、処置を施すとしたらどう対応する?」


 ロクトに問い掛けると、彼はしばし唸った後、答えた。


「この魔力を大地から引きはがすのは難儀な上、作業中に魔力が暴走して事故に発展する可能性もありますね……他の手段としては、魔力を中和させることでしょうか。ただこれは非常に難しい」

「中和、か……」

「はい。中和なら事故になるようなこともなく対処できますが……精霊と魔族とでは魔力の質は違うため、困難……しかし、神霊の方々であればあるいは」


 ここでガルク達の登場か……ふむ、森に立ち寄る機会があれば、訊いてみてもいいか。


「わかった……ひとまず現状はレドラスも存命である以上、処置はやめておこう」

「はい」

「いよいよ五大魔族との決戦だ……レーフィンとロクトも、気合を入れ直してくれよ」


 言いつつ俺は引き返す――新たな問題が生じたわけだが、こういう問題があると知れてよかった。対策は戦いが終わった後考えるとして……とうとう、レドラスとの決戦だ。

 俺達は元来た道を引き返す。地底を出た時、周囲は白くなりかけていた。徹夜だが、体力は十分余裕がある。このまま戦いに向かうとしよう……そう思いながら、俺は町へと戻った。


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