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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魔王の庭

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合流

 夜は何事もなく過ぎ去り、朝を迎える。出発する準備を済ませた後、クロワがやって来て俺達に報告を行った。


「エーメルだが、敵の布陣を突破してこちらに向かっているらしい」

「合流はできそうだな……けれどそこからが本番か」


 昨夜確認した村のこともある……もしクロワの推測した村民を魔力供給源に、というのが事実であったとしたら、着々とビゼルは戦争の準備を進めていることになる。そうでなくともビゼルの拠点へ向かう前に何かしら衝突があるだろう。ここまで敵が来ないとなれば戦力を集結させているだろうし、その衝突が大規模なものになる可能性は高い。


「今のところ周囲に敵の姿もない。このままゆっくりと進軍を開始し、エーメルの到着を待って本格的に進軍する」

「了解……俺達はどうすれば?」

「ひとまず共に動いてくれ。使い魔による索敵は?」

「まだ継続中。ただ怪しい点はないし、敵影もない……で、だ。クロワ」

「ああ」

「現在使い魔の一匹がビゼルの本拠近くにいる。外観を確認したけどひとまず兵器のような物は見当たらない」

「そうか……少なくとも兵器である以上、城内で行使するわけにもいかないだろうから外に出てくるだろう。もし完成していても発射準備という段階ではないな」

「そうだな……で、夜観察している間に気付いたんだが、俺の使い魔を単なる鳥と認識して気付いていない。確認だがクロワ。もし異常なものがあったら当然ながら敵は気付くよな?」

「少なくとも僕らの悪魔……さらに言えばルオンさんが使っているような鳥であっても間違いなくバレるな。けれど、敵はそれに気付いていないのか?」


 彼の問い掛けに、俺は頷いた。


「ああ。試しに少し目立つ場所に鳥を配置してみたんだが……敵がその姿に気付いて追い払うことはすれど攻撃してくることはなかった。つまり、俺の使い魔を敵と見なしていない」

「それはつまり――」

「敵の領地に入り込んだら魔法や使い魔などは発見されてしまう……これは領地内で魔法を行使しているから、というわけだが、もしかすると人間である俺の使い魔は探知されないんじゃないか?」


 敵がおかしい点を放置するとは考えにくいからな……あくまで仮説だが、状況的に真実と言ってもよさそうだ。


「だからもう少し派手に使い魔を展開しようと思う」

「わかった。ただくれぐれも深追いはするなよ」

「ああ」


 本当なら城内の中などを調べたいところだが、さすがにその辺りは対策しているだろう……さて、どうするか。

 俺はさらに使い魔を生み出して拡散。もし怪しいところがあったら即座にクロワに報告と。


「ビゼルの本拠に到着。もしくは罠と遭遇し交戦する場合、私達はどうしますか?」


 今度はソフィアからクロワへ質問。彼は少し思案し、


「要塞の制圧時のように分かれて行動、というのは難しいだろうな。今度ばかりはさすがに見えない部分で動いてもらう、ということはできないだろう」

「なら――」

「現在こちらでもルオンさん達がどう立ち回るべきか思案しているところだ……戦いまでにきちんと伝えるから、少し待っていてくれ」


 ……仮に戦争兵器を行使する、という見立てならばこちらに兵を向けるまでもなく仕掛けてくるだろう。その場合は俺の使い魔がわかるからいいとして……問題は敵が押し寄せてくる場合。


「ビゼルは策略家だ。エーメルと合流できたとして、合流した上でどう戦うかはある程度算段をつけているはず」

「敵としては各個撃破が望ましいわけですが、あえて合流させて戦力を集中させたところで仕掛けると?」


 ソフィアが尋ねるとクロワは「そうだろう」と答えた。


「昨夜からビゼルの策を考えていたが、エーメルとすんなり合流できるということはそういう可能性が高いんじゃないかと思う」

「相手にとってもリスクは高いですね」

「まったくだ。けれどあえてそういう作戦をとっている……ビゼルとしては勝算がない限りやらないだろうから、こちらの戦力を打破できる何かを有しているのは間違いないな」


 それが戦争兵器か、あるいは尋常じゃない戦力か……魔族は悪魔や魔物を自在に生み出せるわけだし、方法はいくらでもあるな。


「クロワ、例えば地中とかに魔物を生み出す魔法陣とかを仕込んでおく、とかは?」

「あり得るが、それだと斥候が気付くはず」


 そこまで言うと、クロワは肩をすくめた。


「現段階ではこれ以上相手の戦略を推測するには情報がないし、ひとまずやめよう……最悪の事態を回避すべくルオンさんが動いてくれているようだから、それに頼らせてもらう。何かあれば連絡を」

「ああ」


 こちらが返事をすると、クロワは配下の魔族のいる所へと向かう。


 さて、俺達は平原を北西へ進みビゼルの本拠に近づいているわけだが……エーメルと合流してようやくビゼルを打倒できる態勢が整ったことになる。ただこれでようやく道半ば。あくまでビゼルと戦う用意ができたに過ぎない。

 ハードルが高い戦いであり、確かに山脈の要塞を楽々突破できなければ厳しかっただろう……そうした中でビゼルの思惑がどこにあるのかが非常に不可解。可能性を上げればキリがないけれど、どうしたって考えてしまう。


 ふと、俺は右……方角的には北側だろうか。そこに山脈があるのを発見した。山は東西に連なっており、俺達の進路方向へいくに従って少しずつこちらに寄っているような感じだ。

 なおかつ南側でクロワの領地を隔てる山脈も使い魔によればどうやら枝分かれしてビゼル領の内側に入り込んでいるのもいる。もしかして……俺は指示を終えたクロワに向けて問い掛ける。


「クロワ、北側の山脈だが……もしかすると山脈同士がぶつかるようなことがあるのか?」

「接近はするがぶつかることはない……あの山脈はビゼルの領地を大きく分ける意味合いを持っている。進路からすると、あの山脈が途切れた場所が盆地のような場所になっていて、ビゼルの本拠手前に存在する平原だ」

「俺達はその盆地を通らなければならないのか?」

「そうだな。もしビゼルが本拠以外で最後に迎え撃てる場所といったら、そこだろう」


 まだ距離はあるみたいだが、もし大きな戦いがあればそこか……? 胸中で呟く間にクロワは小さく息をついた。


「……どうやらエーメルが近づいているな」

「え? もう?」

「兵の疲労を考えずに進軍している……素早く合流すべきだと判断しているのか、それともさっさと顔を合わせて一気に攻め立てるつもりなのか」

「俺としては両方である気がする……」

「かもしれませんね」


 俺とソフィアの言葉に、クロワは再度ため息。


「普段からこういう風に良い方向に頑張ってくれればいいんだが」

「まあまあ……ともあれ敵の気配もないし、合流はできそうだな」


 その時、ホラ貝のような音が周囲に響いた。一瞬敵襲かと身構えたが、これは、


「エーメル達だな。登場もずいぶんと派手だ」


 クロワが言う。俺は真上を飛んでいる使い魔に意識を集中させると……いた、こちらに近づいてくる軍が。

 その先頭は紛れもなくエーメル。たぶんこちらを発見して笛を鳴らしたのか。


「クロワ、いよいよってところか?」

「ビゼルとの戦いは近いだろうな。ルオンさん、ビゼルの観察は続けてくれ」

「もちろんだ」


 返事と共にクロワは動き出す。エーメルと合流するため、少しだけ進路を変更する。

 そして、俺達とエーメルは合流した――ここまでは順調。けれどこれで終わりとは到底思えず……やはり不気味さがどこか存在していた。


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