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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魔王の庭

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二つの可能性

 俺とクロワにその護衛はこちらが使い魔で発見した村へと悪魔を利用して向かう。周囲に敵の姿はなく、何のトラブルもなく目的地へ辿り着くことができた。

 使い魔で村人の姿がないことは確認しているが、念のために村から少し離れた場所に降り立ち、村の外からまずは状況を確認する。


「明かりの類いもないな……まだ深夜には至っていないことから考えても、一つの明かりもないというのはおかしい」

「やっぱり俺達のことを危惧して避難したのか?」

「かもしれないが……」


 クロワは呟きながらゆっくりと村へと進む。俺はそれに追随して中へ。


 荒涼とした風が吹き抜け、俺達の体を撫でる。足音だけが周囲に響き、もし村民がいたのならば十中八九気付くはずだが、家からは誰も出てこない。


「家屋を調べますか?」


 護衛の一人がクロワに問う。彼はしばし考えた後、


「そうだな……申し訳ないが」


 護衛は「では始めます」とひと言添え、動き出す。俺はその間も周囲の監視などを緩めないが……魔物一匹すら見られない。

 そこで俺も村の中を調べ回ることにする……ふいに風が村の中を吹き抜ける。風の音以外は俺達が歩む音だけが響き、寂寥感すら抱くほど。


 で、ちょっと申し訳なく思いつつ家の中を確認すると、例えば荒らされた形跡などもない。村民が襲われたといった状況でもないようで、やっぱり避難と考えるのが妥当――


「クロワ様!」


 ここで弾かれたような護衛の声。俺は外に出て確認すると、護衛の隣には少年がいた。


「村民か?」

「そのようです」

「お役人さん? 僕だけ置いてかれちゃった……」


 少年は嘆くように呟く。避難し損ねたってことか?


「すまないが、一緒に来てもらう前に少しだけ話を聞かせてほしい」

「うん」


 返事をした少年に対し、クロワはいくつか質問をする……とりあえず少年は俺達をビゼルの配下だと思っている様子。

 クロワの質問内容はこの村の名前から聞き、そこから突っ込んだ質問に入る。


「まず、この村の面々が避難を始めたのはいつ頃だ?」

「えっと、お昼過ぎだよ。その時僕は村の外で遊んでいて、寝ちゃったんだ」

「それで置いていかれたと……両親は?」

「今日は近くの町まで出かけてる」


 とすると、その両親については町の方に避難しているのか?


「わかった……それで一応確認だが、避難はどのように行われたのか見ていたか?」

「うん。悪魔にみんな乗っていったよ。あっちに飛んでいった」


 そう言って指差した方角は……西側。


「……最寄りの町は確か北東だったはずだが?」

「お城にいるようなでっかい悪魔だったから、お城に連れて行ってくれるんじゃないの?」


 城に……? 違和感があるな。どういうことだ?


「僕もお城に行くの?」

「いや、申し訳ないが両親が出かけている最寄りの町まで向かうことにするよ。話、ありがとう」


 それからクロワは護衛に指示し、少年を悪魔に乗せて飛翔する。たぶん町の近くに下ろして、少年の足で町まで向かわせるのだろう。さすがに町にいる魔族だとビゼルの手勢ではないと察する者だっているだろうし。


「……西、か」


 クロワは城がある方角へ目を向ける。


「避難により、村民が消えたのは間違いない……問題はそれが本当なのか村民を移動させる口実なのか」

「口実……ビゼルの城にわざわざ移動させるのは確かに奇妙だけど……」

「ルオンさん、野営地で見つけたもう一つの村についても、人影はないんだな?」

「ああ……ちなみにここに来る道中にもう一つ村を見つけたんだけど」

「誰もいない?」

「みたいだな……しかも俺達の進軍経路とは大外れの場所だ」


 その言葉にクロワが難しい顔をする。ただその顔は何か……心当たりがあるようにも見えるが――


「……どういう理由にせよ、ビゼルはこうした村々を回って村民を城へと集めているようだな」

「町ではなく、村というのは……」

「町ごと移動させるのは混乱があるため避けた、ということかもしれない。なおかつ町民が丸ごと消えれば大騒動になるが、点在する村の民が消えても僕達の存在により避難したのだ、という理由付けはできる」

「問題は、その理由だな」


 腕を組みながらこちらが言及すると、クロワは小さく頷き、


「……ひとまず情報は得た。これ以上長居しても意味はなさそうだし、少年を送り届けた護衛が戻ってきたら野営地へ帰還しよう」


 そう告げ、この場の会話は途切れることとなった。






 やがて野営地へと戻り、クロワは俺とソフィアのテントへやって来た。


「ひとまず村を訪れて情報を得た。村民が丸ごと消え、その行き先はどうやらビゼルの拠点……可能性としては、二つある」


 俺とソフィアは彼の話に耳を傾ける。


「一つは単純に避難目的……この村周辺が戦場になる危険性を考慮した……ルオンさんが語った無人の村は全て僕達の進軍経路とは大きく外れた位置に存在するわけだが、そうした場所の村民をあえて避難させたということは、そこまで戦線が拡大すると見越しているか――」

「あるいは罠でも仕掛けてあって、そのくらい戦線が広がるとビゼルが計算しているか」


 クロワに続いて発した俺の言葉に、彼は小さく頷いた。


「ああ、その可能性がある……のだが、僕らの進軍経路からずっと距離がある村に対してもその処置だ。もし罠であるのならば、想像以上に規模が大きい」

「伏兵、というわけではないんだよな。使い魔で探ってみても、クロワが調べても何も出てこないってことは、敵が突如どこからか出現するって話ではない」

「そうだな……こちらの進撃を止めるための敵となれば、相当な数だ。当然そうした仕込みは大規模であればあるほど露見しやすくなる……」

「さすがにそうなったらこちらも気付く……はず」

「そう思いたいが、絶対というわけではない」


 クロワは厳しい言葉で語る。あらゆる可能性を考慮し、備えておく……つまり、今話題に上げた可能性も考え、クロワは進軍しようと思っているのだろう。


「これについては防備を整えておくくらいしか対応策はないが、ここまで戦力もあまり消耗せず、なおかつルオンさん達もいる。さらに言えばエーメルもこちらに近づき合流できそうな雰囲気。伏兵を仕込んでいても食い破れる可能性は高い」

「警戒はするけど、そう悲観的でもないってことだな……可能性は二つと言ったが、もう一つは何だ?」

「……僕が推測しているもう一つの可能性は、それこそあり得ないとは思う。だが、エーメルとの話し合いで出た単語……それにより、もしかしたらという考えがある」


 エーメルとの話し合いで……となると、一つしかないな。


「戦争兵器、ですか?」


 ソフィアが問う。クロワは即座に頷き、


「そうだ……二つ目は村民を徴発している」

「徴発……? それってつまり、避難という名目で村民をどこかへ移動させていると?」

「そうだ。保護した少年からの情報で、村民がビゼルの拠点の方角へ移動しているのは確定……そしてあくまで避難というのも僕らが推測しているだけで、確定ではない」

「つまり、避難以外の目的がある……戦争兵器関連で?」


 クロワは頷く。それは一体……沈黙していると、彼は重々しく語り始めた。


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