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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魔王の庭

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圧倒的

 エーメルが振りかぶったその剣戟には、一瞬のうちにまばゆいほどの魔力が収束した。


「さあ、どっちが倒れるのか……!」


 そういった言葉がエーメルの口から発せられる。俺はその光景を見ながら、この戦いの結末をじっくり見守ることにする。


 ソフィアとエーメルの剣が激突。刹那、相殺された魔力が拡散し、突風を伴って観戦する俺やクロワの体を吹き抜けた。

 それと同時にゼムンが呻くほどの魔力が生じ、訓練場内を満たす。もし事前に魔力が漏れ出る処置をしていなかったら、今頃大騒ぎになっていたことだろう。


 そして、両者の剣は……衝突し、双方とも足が止まった。


「互角、ってわけかい」

「いえ、残念ながら違います」


 エーメルの呟きにソフィアは反応。直後、彼女が握る剣からさらなる魔力が漏れ出す。

 すると相手は目を見開いた。まだ魔力を隠し持っていたか――そんな風に言いたいのだと俺は悟る。


 次いでソフィアはエーメルの剣を弾く。まだ大剣には魔力が乗ったままだが、激突したことによりだいぶ相殺されている。この状況下ならばソフィアも易々と剣を弾ける。

 しかしエーメルも黙っていない。即座に魔力を高めてその刃をソフィアへと振り下ろす。瞬間的に収束させた魔力だが、鍛錬の結晶か魔力量は相当なものだ。


 けれど――ソフィアはそれも平然と受け流す。


「くうっ!?」


 さすがに予想外だったのか、エーメルは一歩後退。対するソフィアは動かない。じっとエーメルの姿を見据え、じっくり攻めようという構え。

 ソフィアとしても、無理に押し入ってエーメルの刃を受けるのは良くないってことだろう……彼女の魔力障壁ならば十分防御可能だと思うが、エーメルがどのような手法を所持しているのかによっては、攻撃を受け流せず食らってしまう可能性がある。


 ソフィアとしてはそれは避けたい……なんとなく意図が読めた。彼女なら剣を受けても問題はない。しかしそれよりも、剣を当てることすらできない状態にした方が望ましいと考えている

 万が一にもやられないように動いている面もあるだろうけど……圧倒的な力を示すことで、自分達がどれほど大きな存在であるかを見せつけるような意図もありそうだ。


 正直これについてはデメリットもありそうだけど……変に挫折してビゼルと戦う意欲を失うのもよろしくないが……と、考えるソフィアが仕掛けた。


「はああっ!」


 声と共に一閃。一瞬で間合いを詰めたことによるその剣戟をエーメルは回避できず大剣で受けた。

 それにより、彼女の顔に苦悶が走る。衝撃が腕に抜けてきたか、それとも想定以上の力があったためか……いや、この場合はその両方か。


 次の瞬間起こったのは、大剣を構えたままソフィアの剣圧によって後方へ飛ばされるエーメルの姿。

 さすがにエーメルも地上から足が離れてはどうにもならない。転ぶような事態には至らなかったが、それでもバランスを大いに崩した。この辺りでソフィアは追撃しても良かったが、一度立ち止まる。


 何か考えがあるのか……あるいは……。


「いやはや、さすがだね……まあ、魔王を倒した王女様だ。生半可な相手でないのはわかっていたが、感服する他ないね」


 エーメルが呟く。そうは言うものの瞳の色はあきらめたわけではなく、むしろ多大な力を有しているという事実を深く認識し、俺達のことを心の底から称賛しているように感じられる。この調子なら戦意喪失ってことにはならないだろう。

 そしてソフィアもまた応じる構え……追撃しなかったのはとことんエーメルと戦い、真正面から打ち破ることで最大限納得してもらい、その上でビゼルとの戦いに臨んでもらうって感じだろうか。


 ま、ここからは戦いの結果を考慮して、決闘終了後俺が何をするべきか決めよう。そんな風に思った時、戦局が動く。


「いくぞ!」


 エーメルが宣言し、さらに大剣を振る。刀身に注がれた魔力はかなりの量だが、戦法は相変わらず猪突猛進の一言。

 それに対しソフィアはどこまでも冷静に応じる。完全に魔力量を見極めた彼女は適切な魔力を体の奥底から引き出し、エーメルの剣を受け流す。


 ……ソフィアの戦いぶりから、微細な魔力を感じ取るといった技術については完成したと考えていい。なおかつエーメルが発する魔力を完全に捕捉して、応じることができるようにしている。

 状況的にソフィアが完全に戦局を掌握した、と思っていいだろう。エーメルとしては不利な戦況をどうにか打破したいわけだが、根本的に能力が違いすぎるため、さすがにどれだけあがいても難しいか。


 エーメルはそんな戦況を理解しているのかどうか……戦いを見守っている間に彼女はさらに押し込む。だがソフィアはそれを平然と受け、弾いた。

 そうした中、エーメルはどこまでも笑みを見せる。何か一計あるのかと少しばかり注視したが――彼女はさらに魔力を大剣に込め、力押しで突っ走ろうという雰囲気。なんとなく、目の前の戦いを楽しもうという気概さえ感じられる。


 そこで俺は一つ気付いた。エーメルは戦闘狂であり、戦いが全てであるのは間違いない。ただこの場合死にものぐるいで勝ちにくると思っていたが、実際は違う。むしろこの勝負で負けてもいいとさえ思っているのではないか。

 戦闘行為そのものが目的であり、彼女にとっては勝敗すらも興味の対象外、といったところか……ここまで徹底した感じだと魔王候補としてここまで残ったのも奇跡のような気がする。


 ソフィアがエーメルの剣を防ぎ続け、時折反撃に転じる。そうなるとエーメルが一気に不利になる。ソフィアの剣はあっさりとエーメルの体に触れるし、逆の場合ソフィアは一撃たりとも受けていない……この時点で圧倒的な差が存在する。

 ならば、エーメルはどうするのか……しかし彼女は攻めの一辺倒。むしろ今この瞬間を楽しんでおけと言わんばかりの笑顔。


 大剣がソフィアへ差し向けられる。だがそれをソフィアは防ぎ――そこで魔力が一気に剣へと注がれた。

 決めに掛かるつもりだと俺は察し、いよいよだということでソフィアを注視。するとエーメルも気付いたか対抗するように魔力を高める。とはいえ勝負については――あっさりとついた。


 再び激突する両者の剣。けれど以前とは違う状況。ソフィアはあくまで余裕であり、対するエーメルが苦しそうな顔をした。


「っ……!」


 エーメルはどうにか大剣を引き戻し退却しようとした。けれどソフィアが間合いを詰め、さらに魔力を高めたかと思うとそれを大剣目掛けて振り下ろした。

 魔力を溜めていなかったエーメルの剣へ、ソフィアの一撃が炸裂する――直後、ギインと金属音がこだまし、エーメルの手から大剣が離れ、床へと落ちた。


「……お見事」


 ゼムンが称賛。ソフィアはそれに対し律儀にもゼムンへ会釈をして……エーメルが再び笑った。


「いやいや、戦ってみたがこれはキツイねえ。付け入る隙がまったくなかったよ」

「ご理解頂けましたか?」

「ああ、そうだね。まだまだ英雄と戦うには経験不足ってわけだ」


 そこで俺へと視線を注ぐ……まだちょっと未練があるっぽい。やっぱりここはフォローしておくべきだな。

 そう思い、俺は……エーメルへ向け口を開いた。


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