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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魔王の庭

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強化手法

 クロワと会話を終えた後、しばらくして訓練場が問題なく使えるようになったという連絡が入り、エーメルと赴く。城の地下に存在しているのだが、そこはずいぶんと広く、多少派手に立ち回ってもまったく問題なさそうなくらいだった。


「いい施設じゃないか」


 エーメルの口からそんな感想が漏れる。彼女に対しいち早く口を開いたのは、クロワ。


「見届け人という形で、僕もここにいるぞ」

「それは口実で、戦いを見たいだけじゃないのか?」

「どうだろうな」


 エーメルの指摘に肩をすくめるクロワ――ちなみにこの場にいるのは彼女に加え俺とソフィア、クロワにアンジェとゼムンのみ。


「さて、まずはどっちから戦うんだい?」


 エーメルは既に戦闘モードに入っている。彼女の右手には大剣が握られ、その切っ先を対峙する俺やソフィアへと向けた。


「……ソフィア」

「はい」


 俺が名を呼ぶとソフィアは一歩前に出る。そこでエーメルはニヤリと笑い、


「まずは王女様からか」

「はい……ですが、一つ言っておきます」


 ソフィアは剣を構えながらエーメルへ告げる。


「ルオン様と戦うのは、私に勝ってからにしてください」

「へえ? それは理由があるのか?」

「無駄だからです」


 切って捨てるようなソフィアの発言。ちなみにこれは打ち合わせ通り。


「無駄? どういうことだい?」

「ルオン様の実力は――私など足下にも及びません。魔王との戦いも賢者の血筋である私が魔王にトドメを刺せるから選ばれたのであって、もしそうした条件がなければルオン様がお一人で倒していたことでしょう」


 ――俺は「自分よりも強い」的な簡単な説明でいいと言ったんだけど、なんだかずいぶんと大きく出たぞ……ソフィアとしてはそんな感じで今も思っているってことか。


「足下にも、ってところに興味があるな。それほどまでに差が歴然としているというのかい?」

「はい」


 即答したソフィアに対し、エーメルは「なるほど」と呟き、


「そういうことなら……なおさら英雄と戦いたくなったね」

「ならば私を倒してください」

「わかったよ。それじゃあ、始めようか――!!」


 叫ぶエーメル――急遽ではあるが、ソフィアと魔王候補との戦いが始まった。






 ウィデルスとの戦いにおいて、魔王候補の実力がどのくらいなのか、一応認識はしている……が、エーメルは、ウィデルスと比べどのくらいの違いがあるのか。

 戦闘狂ということもあるし、相応の強さを所持しているのは間違いないだろうけど……魔王そのものを打ち破り、その時からさらに成長しているソフィアが相手ではいかに魔王候補とて分が悪いはずだが――


「油断はしない方がいいぞ」


 横からクロワがアドバイスをする。ん、どうやらエーメルの戦法を理解しているようだが……。


「エーメルを含め魔王候補は先代魔王よりも力は劣っている……が、戦闘狂のエーメルがここまで来れたのは、ひとえにその能力のおかげもある」

「私は基本的に一つのことしかできないからね」


 エーメルが言う。その顔は笑みで染まっている。


「魔王の力において特徴的なのは二つあった。一つは英雄さん達も知っての通り、賢者の力を利用した結界……そしてもう一つは、誰も寄せ付けないその能力の高さだ」


 それは身をもって知っている。ゲームにおいてもラスボスであったことを踏まえても、能力の高さはまさしく魔族最強だ。


「その圧倒的な力とカリスマ性により、同胞は魔王に従っていた……が、中にはその魔王に対抗できる力を生み出せないか、と考える者もいてね」

「つまり、反旗を翻そうと?」


 ソフィアが問う。けれどエーメルは否定する。


「あの絶対的な力に憧れ、それに少しでも届こうという考えだよ。ま、中には本気で天下を取ろうなんて馬鹿なことを考えていたヤツがいたかもしれないけど」


 肩をすくめるエーメル。彼女の場合は、どうなのだろうか。


「その視線からだと、私はどうなんだって聞きたいみたいだな……ま、私は剣を振れればどういう形でも良かったさ。魔王候補になった経緯も、単に強いやつと戦いたいって思惑も強く、まさかここまで私が領土を拡大すると予想した同胞なんて皆無だったろうな」

「……襲い掛かってくる魔王候補をなぎ倒して、ここまで来たと」


 ソフィアの指摘にエーメルは頷いた。


「そういうことだ。私としては単に戦えればそれで良かったから、命まで取るつもりはなかったよ。それだと強くはなれないんだけど、まあ半ば道楽のためにやってる身で志もあったものじゃないから、力を奪うのも気が引けたって気持ちもあった」

「けれど相手はそうではなかった」

「そういうことだ。私は降りかかる火の粉を払っているだけのつもりだったんだがな」


 再度肩をすくめるエーメル。なおかつその顔には苦笑が浮かんでいた。


「ま、これはこれで今まで知らなかった領域の戦いを経験することができるわけだから、良かったとは思うよ……さて、お喋りはここまでにしようか」


 呟くと同時、エーメルの腕に力が入った。直後、大気が軋むような音を上げたかと思うと、彼女が握る大剣に力が集まり始めた。

 それを見て、俺は察する――例えばクロワは身体強化能力が優秀みたいだが、それは全身を強化するようなもの。ただしエーメルは違う。彼女は身体に対する強化は最低限に行い、他の全てを大剣に全振りする……そういう強化方法だ。


「――魔族の戦法の中で、保有する魔力によって自らを強化するというのは常套手段だ」


 ここでクロワが口を開いた。


「魔王が引き連れた幹部の場合、そんな必要がないくらいに力を持っていた者も多く、だからこそルオンさん達がいた大陸で拠点を構え、色々と仕込みをしていたが……それほど強くなくとも魔力を活性化させて強化すれば、人間にとって脅威になるくらいに強くなることはできる」

「ただし、その強化方法で色々と違いがあるわけだ」


 次に口を開いたのはエーメル。目前にある光景。それがまさにクロワとは異なる強化方法の違いだろう。


「魔族によって得意な強化方法などが存在する。私の場合は自分の体ではなく、武具に対して大きく強化できる才覚があった。魔王候補になる前なら力もそう多くなかったため、どれだけ高めても城を持つ魔族に対して脅威にはならなかっただろうけど、ね」


 彼女が語る間にもさらに魔力が高まっていく……大剣はエーメルが自らの力で生み出した物だが、もしこれが作られた物であったなら、問答無用で壊れているだろう……そう確信させられるほどの、魔力集約。

 俺の目から見ても、相当な魔力量だと認識できる。


「その様子だと、どうやらお二人さんにとっても私の能力は厄介だと認識してくれたみたいだね」


 嬉しそうにエーメルは呟いた……ふむ、一点特化という形にして対抗してきたってことか。

 確かにあの魔力量を一度に受ければ、並の魔族は倒れるどころか消滅しそうな勢いである。ソフィアの場合はどうなるのか……、


 武器に魔力を注いだ以上、身体能力はそれほど高くない。ならばソフィアは動き回るなどして対応する……これも一つの手だ。

 ソフィアはどういう決断をするのか……思案している間にエーメルが動く。それに対しソフィアも――足を一歩踏み出した。


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