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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魔王の庭

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思わぬ来訪者

 最寄りの町で待機して翌日、クロワ達は帰ってきた。


「ひとまず問題は起こらない……魔族達も僕が主君になることに了承した」


 そう告げ、なおかつ俺やソフィアのことについてもある程度は納得したとのこと。

 どういう説明をしたのかわからないけど、ひとまず俺達が立ち回っても問題ない、という土壌ができはじめたのは確かみたいだ。


「それで、これからどうするんだ?」


 俺の疑問にクロワは少し思案し、


「ウィデルスに勝利した後は、多少の時間ヤツが所有していた領土の管理などをするために色々と時間が掛かると思っていたのだが、どうやら側近のサナクがそこについて引き受けてくれる」

「魔王候補との戦いに集中しろってことか?」

「違うな。再び主君が変わる可能性もあるため、領土の維持などについてはできるだけ態勢を変えないようにしたいらしい」


 なんか良い意味じゃないな……まあ仕方がないけど。


「わかった。当面の目標としては西部を支配下に収めること……でいいのか?」

「そうだな。とはいえすぐに戦闘という可能性は低い。ウィデルスの力を僕が取り込んだことは、魔王候補であればすぐに認識するはずだ」


 そう述べながらクロワは考察を行う。


「加えてウィデルスを破ったということは、力を得る前の段階で相応の力を所持していた、ということを意味している。つまりウィデルスを破った僕に対し、他の魔王候補は警戒するというわけだ」

「なるほど。となると小康状態に?」


 個人的には帰るまでの期間が長くなるのであんまりよろしくないが……するとクロワは難しい顔をした。


「おそらく、そうなる……もし混乱しているとして積極的に仕掛けてくるのなら話自体は早いが……僕としては民が犠牲になる可能性を考慮するとあまり良い展開ではないな」

「ひとまず、人々の動揺を鎮めることを優先すべきでしょう」


 そこで提言したのは、ソフィアだ。


「クロワさんのお城と町が崩壊して、犠牲者も出ており、人々が恐怖しているはず……まずはこの辺りを鎮めることを優先してもよろしいのでは?」

「ああ、確かにそうだな」


 ――城や町が襲われて以降、クロワはまず逃げ延びることを優先し、次にウィデルスが攻め寄せて来ていたことに応じるべく戦いを優先した。

 けれど今後、クロワの口ぶりからすると警戒する必要はあるが、性急に攻撃されるような危険性は低い雰囲気。ならソフィアの言うとおり、まずは領内の問題を解決してもいいだろう。


 俺達の帰還については……まあ仕方がないな。今は我慢の時。まずは地盤固めから。


「わかった。ソフィアさんの助言に従い、僕はゼムンと共に町を回ることにしよう」

「なら、俺達もそれに付き合うさ。魔界のことを知るのにもいい」

「いいだろう」


 そうして、俺達は行動を開始した。






 それから数日の間は、クロワと共に領内の町などを見て回ることになった。


 俺やソフィアはそれに同行しクロワの護衛と、魔界の町がどのようなものなのかを確認したのだが……結論を述べれば、人間の営みとほとんど変わらない。

 町並みなんかも質素な感じの建物が多いくらいで、結構発展している場所もある。ただ襲撃を受けている場所もあり、そこについては頑張って復興している様子。


「そういえば、一番規模が大きく栄えている町は?」


 そんな疑問を寄せると、クロワから明瞭な答えが返ってきた。


「魔王城の近くにある町だ。名はライデルト」

「ああ、それもそうか……魔王がいる所だもんな」

「その場所こそ、まさしく魔界の中心……現在は守人によって管理され、治安を維持している」

「問題は起きていない、と」

「そのようだ……二人は魔界の町並みにどういう感想を抱いた?」

「俺達が暮らす場所とそう変わらないな、と」

「私も同感です」


 ソフィアが続く。それにクロワは頷き、


「魔族という存在も、その多くは人間と同様の生活をしているということがわかったはずだ……もっとも、これだけで僕らのことを信用しろというわけではない。友好的になるための一つの情報だと認識してくれればいい」

「わかった……で、元々クロワの領地だった場所の町は一通り見て回ったわけだけど、特に問題はなさそうだったな」

「ああ」


 加え、町へ落ち延びていたクロワの家臣などとも合流した。もっとも戦力的にはあまり増えたとは言えないし、結果的にウィデルスが率いていた魔族の方が数も多い。


「さすがにウィデルスの部下が反乱を起こすなんて可能性は……」

「少なくともサナクは領土内の治安維持を優先としている傾向があった。他の魔族も大多数は同じような立ち位置みたいだから、混乱が起きるとしても局所的なもの……少数の魔族が反旗を翻すという形になるはずだ」

「それなら仮に起こっても対処はできるか」

「そうだ。ひとまず問題はないようだし、次の行動に移そう。まずは情報収集だ。他の魔王候補が現在どのように行動しているのか……それを探り、どうすべきか考えよう」


 ということでクロワはゼムンへと指示。さすがに俺やソフィアは協力できないので、どうすべきか――


「二人はウィデルスの城へと。僕も一度戻るから、同行してくれ」


 そこでクロワが語り始めた。


「あの場所ならゆっくりと休める場所も提供できる」

「……正直、魔族だらけの城って落ち着かないんだけど」

「二人に危害を加えないよう最大限の注意を払うよ。それに次に魔王候補と戦う場合、あの城が拠点となる。そこにいてもらった方がこちらとしてもいい」


 ……ま、それもそうか。よって俺とソフィアは同意を示し、悪魔を使って移動を開始。


 さて、ウィデルスの城とはどんなものなのか……内心色々と想像していた時、ふいに地面を見下ろしていたクロワが何かに気付いた。


「あれは……」

「どうした?」

「伝令らしい魔族がいる。こちらに気付き手を振っているな」


 俺は下を覗き見る。あ、確かに小さいけど人影がある……クロワ、よく気付いたな。


「僕の居場所をサナクから聞いて向かっていたのだろう。下りるか」


 悪魔に指示して下降を開始。少しして地上に降り立つと、伝令と思しき魔族はクロワにひざまずき、


「あやうく入れ違いとなるところでした……サナク様からの伝令です」

「内容は?」


 伝令はやや間を置いて、


「……城にエルアス様がお越しになられました」


 言葉に、クロワが身じろぎする。その反応に俺は、


「誰だ?」

「……東部一帯を支配下に収める魔族だ」


 つまり、最終決戦を行う可能性が高い魔族……内心驚愕する間に、クロワは言った。


「僕を訪ねてきたということだな……会おう」

「はい」


 頷き、伝令は立ち去る。そしてクロワは息をつき、


「どうやら、重要な局面に差し掛かったようだな」


 ――果たして魔族はどう出るのか。俺も内心予想しながら、再び悪魔に乗り――城へと向かった。


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