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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魔王の庭

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彼の力

 俺がクロワの次の一手として予想したのは、先ほど用いた高速移動による連撃か、奇襲のような剣戟。とはいえもし失敗すれば窮地に立たされ勝機がなくなるだろう。

 そして俺の予想通り、まず彼は高速移動を用いた。瞬間的にウィデルスの横手に回る……が、


「一度目は捉えきれなかった」


 クロワが放った剣を、ウィデルスはしかと受け、止めた。


「しかし来るとわかれば対応もできる。万事休すだな」

「……どうかな」


 再度移動。けれどウィデルスはそれを追い、背後に回ろうとしたクロワに対し今度は逆に剣を振った。

 ガギン、と金属音が生じる。それにより攻撃は無理と悟ったか、クロワはもう一度高速移動を用い――元の位置まで戻った。


「ここまでだな、クロワ」


 魔力を大いに消費し、全力で戦える時間はあまりないか……俺はクロワを見据える。もし危機的な状況に陥れば助けるしかないが……ここで彼に手助けをして、それで魔王となれるのか?

 さすがに俺とソフィアに担がれるような形になるのは、彼も望んでいないだろう。ならばどうすれば――


 と、その時俺はクロワの表情……なおも真っ直ぐウィデルスを見据える彼を見て、考えを改めた。絶望しているような雰囲気ではない。これは――


「まだ、終わっていない」


 魔力を高める。高速移動を用いるべく足先に魔力を集めているが……俺は直感する。次どう活用するかだが、おそらく突撃だ。


「玉砕覚悟か? クロワ」


 それはウィデルスも明確に悟ったらしい。剣を構え、真正面から受けきる態度を示す。


「ならば俺がこの手で打ち砕き、全てを終わらせてやろう」


 ――もしかして、クロワはこういう展開を待っていたのか? あえてウィデルスがどっしりと構え、回避ではなく応じるような機会を待っていた?

 もしそうだとするなら……クロワは無言で力を高める。一瞬――激突する瞬間に全てを賭けるような雰囲気ではあるが、かといって決して慌てているわけではない。


 むしろ、最後の一撃に対しどこまでも冷静に、できる限りのことをする……そんな風に見えた。


 そうして両者が沈黙し対峙する間に、俺とソフィアはクロワに襲い掛かる魔物達を撃破していく。このまま軍勢が消え果てれば不利になるのはウィデルスのはずだが……クロワさえ討てればいいという考えなのか。

 やがて、クロワが発する魔力が一時揺らぎ、駆けた。高速移動により、ウィデルスへ肉薄――この勝負で大勢が決まる。


 突撃は凄まじく、来るとわかって受けても吹き飛ばされそうな勢いだが、ウィデルスは動かなかった。対抗できると考えた……おそらくクロワの能力を読み取った結果だろう。

 とすれば、この戦いの結末は――刹那、クロワに変化が。足先だけでなく、刀身……剣から魔力が発せられた。


 それを見た瞬間、俺はこれだと認識し、またウィデルスも理解したか、その瞳に驚愕が映り込んだ。


 おそらく回避がベストな選択のはずだが、どっしりと構えたウィデルスはクロワの高速移動に対応できない状況となっている。こうなれば中途半端に腰を浮かせるよりも、真正面から受けるべき……そうウィデルスは判断したようで、魔力を急速に高めクロワが放とうとする剣に応じるように剣を振った。


 両者の剣が、激突する。直後、魔力が火花のように散り、轟音が鳴り響いた。

 クロワの策は……突撃ではなく剣に魔力を集め、仕掛ける。ただ突撃を押し留められた段階で、果たして成功するのか――


 同時、俺の目に変化が映った。ウィデルスが握っていた剣に、クロワの刃が食い込む。


「な、に……!?」


 これにはウィデルスも驚愕した。剣の強度は十分なはずだろう。それをクロワが突破した……そうか、これこそ彼の狙いだったか!

 刹那、ウィデルスの剣が半ばから綺麗に両断され、その勢いのままクロワの斬撃が相手の体へと――入った。


「が――」


 うめき声を上げながらウィデルスは剣戟の余波により数歩後退。そこへすかさず畳み掛けるべく攻めるクロワ。同時に最早隠し立てする必要はないとばかりに魔力を剣に集め、さらなる斬撃を叩き込むべく振りかぶる。


 ――間違いなく、クロワは最初からこの形が狙いだった。高速移動はウィデルスを油断させるための囮のような役割。意表を突いてダメージを与えたことにより、ウィデルスはこの能力こそがクロワの切り札と考えた。


 実際は違う。彼の本当の切り札は刀身に魔力を集めた重い斬撃……というよりこれは足に魔力を集め高速移動をするのと同じ理屈か。彼の能力は身体強化だが、その強化には全身だけでなく自らが生み出した魔法の剣にまで作用する――足を強化し高速移動をしたように、剣に力を注ぐことによって切れ味を上げ、ウィデルスの剣を両断した。力で上回るウィデルスの剣を両断するくらい強化されるくらいだ。その強化度合いは間違いなく、俺が使用する強化魔法などと比べても大きいだろう。


 単純な武器強化とは間違いなく異なり、言わば体に使うべき能力を魔法や、武具などにも活用できる……そうした特性なのだろう。たぶん武器自体の強化も単純に切れ味増加以外に、何か能力を付与することについては、ある程度自由にできるはず。

 つまり彼の能力は能力強化というより、生物や物質問わず、魔力を付与し対象となるものを任意に強化する能力というわけだ。


 そしてクロワの追撃が――直撃する。横一閃はウィデルスの体をしっかりと捉え、相手の体を大きく傾けさせる。


「……舐め、るな!」


 だが相手も倒れない。途中で踏ん張ると後ずさりし、半ばから消失した剣を、再生した。

 能力についてはおそらくバレた。となれば後は単純な力比べとなる……倒せるのか?


 クロワはなおもウィデルスへ向かう。たぶん考える時間を与えないようにだろう。結果、ウィデルスはクロワの剣をどうにか弾くだけで応戦もできない様子。

 そしてクロワが明らかに優勢……このまま押し切れるか。それとも魔力が尽きるのが先か。


「まだ、だ……!」


 ウィデルスが叫ぶ。おそらくクロワの力が長くはないと判断し、防戦に入った。

 しかし、


「――失点は、二つある」


 クロワはどこか冷静に語り始めた。


「一つは油断しきっていたこと。僕の能力をわかっていなくとも、十二分に警戒はできただろうしあんたならば対策を瞬時に構築することができたはず」


 クロワはなおも執拗に剣を振り続ける。


「そして、もう一つ……確かに僕の能力には時間制限がある。だが」


 その言葉の直後、一気に魔力が膨れあがった……まだ力を、隠していた!?


「限界は、まだ先だ……見誤ったな、ウィデルス」

「――ぐ、おおおおお!」


 吠える。ウィデルスは抵抗しようと力を発し、押し切ろうとする。

 しかしクロワは冷静に対処――おそらく相手は無傷ならばまだ手遅れにならなかっただろう。だが二筋の剣戟が、もう逆転できないくらいの状況に陥らせた。


 クロワが剣を薙ぐ。それを弾こうとしたウィデルスだったが、またも刀身が斬り飛ばされ――三度目の剣戟が、彼の体を駆け抜けた。


「が、あ……!」


 そして彼は呟きを発し、倒れ伏す……同時にクロワは能力を解いた。まだ限界から先とはいえ、相当な魔力を消耗したに違いない。

 同時、ウィデルスの体が消えていく……そうして、クロワの最初の戦いは終わりを告げた。


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