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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魔王の庭

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魔界に轟く魔法

 俺とソフィアは相談した結果――最終的に敵軍へ撃ち込む魔法に選択したのは、雷属性上級魔法『ディバインロード』だった。


 言わば『ライトニング』の強化版とも言える魔法だが、雷撃が敵に直撃すると、周辺の敵を巻き込む……が、さすがに火や光属性魔法のように広範囲というわけではない。それにこの魔法ならば攻撃範囲をある程度設定することができる。よって俺達はこの魔法を選択した。


 腕を通して一気に魔力が外部に溢れる。同時、敵軍に反応があった。魔力を感じる……だからこそ悪魔達が警戒を始めた。

 とはいえ、俺達に対しそれはあまりに遅すぎる反応。クロワやゼムンが俺とソフィアの融合魔法に驚いている間に、こちらは魔法発動直前となる。後はタイミング良く魔法を解き放つだけ。


「クロワ、準備はいいか?」


 確認の問い掛けにクロワは表情を戻し、


「ああ……敵もこちらの領内に入り気付いた。やるなら動きを止めた今だ」

「よし……ソフィア」

「はい」


 カウントダウンを始める。その間に手に集まった魔力がさらに高まっていき、そこでようやく敵側も俺達の居所に気付いた様子だった。

 ここから悪魔を差し向け、様子を窺うか仕掛けるか……悪魔が捨て石であるとしたら、突撃させてこちらの能力を確認するとか、かな。


 その予想は……的中。数体の悪魔が魔力が高まるこちらへ向け飛翔する。


「悪魔が近づいてくるぞ」


 クロワは呟くが……俺は「構わない」と応じた。


「準備は整った――」


 全てが遅い。そう心の中で呟くと同時、俺とソフィアは一気に魔力を解き放ち、『ディバインロード』を撃つ――!!

 刹那、青白い雷光が平原の悪魔へ向かって行く。それは一瞬の出来事で、気付けば雷光が先頭の悪魔に触れ、雷が爆裂四散する光景が映った。


 同時に耳につんざくような雷の音。さらに視界は白で覆われ、悪魔どころか真正面に存在する草原すら見えなくなった。

 もしこれが光属性の上級魔法であれば、悪魔全てを吹き飛ばす勢いで草原を覆っていたかもしれない。しかしこの魔法は光魔法より拡散も少ない。これで上手くいっていれば……。


 雷はあっという間に途切れ、反響音だけを残し魔法が終わる。そして次に見えた光景は、


「……圧倒的だな」


 クロワが呟いた。目の前に広がるのは、前衛の大半が消失した魔族ウィデルスの部隊。


 その中には多数の魔族……つまりウィデルスの部下だっていたはずだが、前衛にいた面々は先ほどの魔法で漏れなく消滅してしまったらしい。指揮系統が完全に崩壊したか、悪魔が右往左往し後方にいた魔族達がそれをとりまとめようと動き始めている。


 そして真ん中にいたウィデルスは……ふむ、どうやら後方に退いたようだな。


「ウィデルス自身を狙ったわけではないし、わざと避けたんだけど……魔力を探知してから直撃するまでに退いたみたいだな」

「前衛が壊滅した以上、このまま放っておけば退却するでしょう」


 と、これはゼムンの意見。うん、ウィデルスとしてもクロワの領内に自軍を壊滅させるほどの存在がいる……この事実を踏まえれば、態勢を整え即座に引き返すはずだ。


「この好機を見逃すわけにはいかない」

「とはいえあれでも多勢に無勢だぞ」

「無論です。ウィデルスまでにまだ障害はありますが……クロワ様」

「ああ、進もう――ここでウィデルスを討つぞ!」


 声と共にクロワ達が動き出す。魔族に加え、生成した悪魔達が飛翔し――ウィデルスのいる場所へと突き進んでいく。

 そうした中で俺とソフィアもまた動く。そしてクロワ達に追随しながら、彼女に呼び掛けた。


「俺達はクロワの援護……まずは残っている悪魔の掃討、かな」

「そうですね……ルオン様、ご注意を」

「わかってる」


 頷くと同時、こちらの部隊の先鋒が悪魔へと突撃した。途端、吹き飛んでいく悪魔達。洞窟内に逃げ延びていた魔族達の実力は、なかなかのものだ。

 次いでゼムンも交戦を開始する。その手には魔力を大いに収束させた大剣。それを振りかぶると反撃しようとする悪魔へ、一閃――


 それにより、悪魔の体が吹き飛び、地面へ落ちる途上で体がバラバラになっていく……その見た目通り、彼もまた相当な力を有している……魔族である以上は当然か。

 そうした中でクロワだけは交戦していない……これは力を温存している。ウィデルスに対し全力で応じるべく、魔力を高めている段階。


 俺とソフィアはそんな彼へ狙いを定める悪魔を打ち払う役目を担った。どうやら魔族達はクロワの顔を知っているようで、彼を見つけた瞬間悪魔へ指示を飛ばし襲い掛かってくる。それを俺とソフィアが迎撃する……さらに、


「――天空の聖槍!」


 俺は『ホーリーランス』を放つ。中級魔法ではあるが魔力を大いに込めたもので、それはどうやら敵の魔族を驚愕させるくらいの力を秘めているらしかった。

 相手は避けることができず直撃――それにより体に大穴が空く。結果体がグラリと傾き、倒れ伏し滅んだ。


 今いる敵の魔族達は後方にいた面々が前に出てきたわけだが……中級魔法で対処できるとなると、『ディバインロード』の融合魔法はかなりのオーバーキルだったのかもしれない。

 また、クロワがいることはすぐにウィデルスは把握するだろう。その時どう動くか――と、ここで前方から魔力が湧き上がった。


「動いたか」


 クロワが呟く。とうとうウィデルスも彼の存在に気付き反応したか。


 おそらくこういう状況になったことに対し、激怒していることだろう……もし怒りにまかせ攻勢を仕掛けてきたのなら、こちらとしてはやりやすいけど――


「二人とも、ここからが重要だ」


 クロワが俺とソフィアへ口を開く。


「彼の周囲にはまだ悪魔や魔族がいる……それをゼムン達が食い止めるわけだが――」

「そこに俺達も加わるってことだろ?」

「そうだ」

「むしろ、殲滅する勢いで叩きつぶした方がいいかもしれないな」


 そんな言葉を口にした時、クロワは苦笑し始めた。


「さすが、だな。さっきの魔法といい、魔王を打ち破った力……僕らはそれを過小評価していたようだ」

「ひとまず、ウィデルスとは一騎打ち……ってことでいいんだな?」

「ああ、それでいい」


 頷く彼に対し俺は少し不安も感じたけれど……強い眼差しを見て、引き下がることにした。

 もし魔王となるのならば、ここは彼だけで勝利してもらわなければその資格もないだろう……クロワの実力、拝見させてもらうとするか。


 俺達は周囲の悪魔を殲滅しながら魔力が高まる方角へと突き進む。やがて魔法で吹き飛ばした場所を抜け、いよいよ悪魔が残る後衛部分に到達する。

 とはいえ最初の魔法により混乱してしまったためか、前に出たりウロウロしたりと動きがバラバラであったため、さして苦労もなく前へ進むことはできた。


 いよいよ決戦間近……俺は自分の役割を頭の中で再整理し、ソフィアへ視線を送る。彼女は役目を全うしようという意思の表れか、こちらに対し静かに頷く。

 その時――前方から、声が聞こえた。


「私を倒すためだけにずいぶんと無茶をする。そして無謀極まりないな――クロワ」


 とうとう辿り着いた……いよいよ魔族ウィデルスとの決戦だった。


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