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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魔王の庭

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魔族襲来

 戦いの日はひどく穏やかに訪れ、俺達はクロワが保有する領地の国境付近まで何の問題もなく進むことができた。


「本当に、何も無いな……」


 そして戦場を一瞥して感想を呟く――見渡す限り平原。とはいえ荒野というわけではなく、地面には雑草など生い茂り緑に溢れている。また平原には所々に丘のような起伏のある場所も存在はしているけど、戦闘で使えるようなものではない。


「現在敵は真っ直ぐな南下してきていますね」


 近くにいるゼムンが声を上げる――この場には彼やクロワを含めたこちら側の全戦力がいた。アンジェもいるくらいであり、まさしく総力戦といった形。

 とはいえ、たった三日では兵士となる悪魔もほとんど生成することができず……こちらの数は百にも満たない。さらに言えば悪魔だってしっかりと練り上げたわけでもないので、質の上でも相手より低い可能性が高いとのこと。


 まさしく絶望的なわけだが、それをひっくり返すべく俺達がいる。


「クロワ、打ち合わせたした通りにいくけど、いいか?」

「ああ」


 クロワは頷く――作戦としてはまず俺とソフィアの融合魔法で敵を蹴散らす。次いでクロワ達が急行し、敵の魔族ウィデルスとの決戦にもっていく。

 現在ゼムンが放った斥候でウィデルスが敵軍のどこにいるのかは把握している……位置としては真ん中くらい。これにより俺とソフィアはウィデルスがいる手前の悪魔を吹き飛ばし、仕掛けるという算段になった。


「前衛を吹っ飛ばしてもまだ半分いるわけだが、それについてはまずウィデルスを倒してから、でいいんだよな?」


 クロワがそう提案したのを改めて確認。彼は即座に首肯した。


「ああ、それでいい」


 何か手がありそうな感じなんだけど……彼は話さない。


「魔族を倒した後は、悪魔の殲滅を始めるわけだけど、その立ち回りはどうする?」

「ルオン殿達は平常通りに戦ってもらえればいい。こちらも策……というよりウィデルスを倒せば手法はある。もっとも、必ずしも上手くいくとは限らないからな」

「詳細を語らないのは、成功するかわからないから、ってことか?」

「そういうことだ」


 ま、それについては戦いが進むにつれて嫌でもわかるからいいか……とにかく、作戦としてはウィデルス撃破を優先、ってことらしい。

 と、ここで俺は上空にいる使い魔によって敵影を捉えた……といっても俺が作成した使い魔では相手の領地に入ると気付かれるらしいので、上空を旋回している。


 その使い魔から見えるのは、漆黒の軍団。その全てが悪魔であるのは疑いようもなく、威圧感は人間の俺からすれば相当なものだ。


「……ふむ、悪魔以外にも複数魔族がいるな」


 俺は使い魔を通してその姿を捉える。


「ウィデルスの部下ってところか?」

「そうだな。さすがにウィデルス以外にも難敵はいるか……」

「前衛に結構いるから、魔法で一気に滅すれば楽になるだろ?」

「悪魔だけでなく、魔族も倒せるのか?」


 確認の問い掛け。それに俺は、


「ま、見ていてくれ……ソフィア、始めよう」

「わかりました」


 手を繋ぐ。それと同時に魔力を発し、ソフィアと魔力の同調を始めた。

 高まっていく魔力……外に漏れ出ないよう制御しているので、ウィデルス側には気付かれていないはず。もし察知したら、退却するかこちらに向かってくるのか……魔法を収束するまで、急がないといけないか。


 とはいえ最上級魔法を使うわけでもないため、魔力収束自体はそう難しくない。堕天使との戦いでは最高難易度のものをひたすら訓練していたからな。それと比べれば難しくはないし時間もたっぷりある。

 融合魔法を準備する間にも、敵の軍勢が近づいてくる。やがて肉眼でもその姿を捉えることができた。


「……圧巻ですね」


 ソフィアがふいに呟く。確かに圧巻だ。あれがもし人間の国を襲うとしたら、絶望以外の何者でもないな。


「今後、ああした軍勢と嫌でも顔を合わせることになるんだろうな。こうやって戦い続ける以上は」

「それについては策次第だな」


 と、クロワが口を開いた。


「馬鹿正直に戦争を引き起こして全て倒す必要はない。魔王候補の中には戦争ではなく一騎打ちによりどちらがふさわしいかを決めようとする者もいる」

「被害が出ないだけいいかもしれないけど、面倒でもあるな」

「僕としてはその方がいい」


 民を犠牲にせずに済むから、かな。


「ただし、勝つには相当な力を用いなければ厳しいんじゃないか? 強化で対抗できそうなのか?」

「足りない部分を補うには、今回の戦いが非常に重要なものとなる」


 ……どういうことだ?


「今後どう立ち回るか……どう強くなるべきかを、この戦いの結果によって変わる」


 そう彼が呟く間にも、敵軍は徐々に領地の境へ近づいていく。

 時間的に、境に入る前に準備は整いそうだ……使い魔で観察していると、やがて中央にいるウィデルスの姿をはっきり捉えることができた。


 黒い悪魔の中で目立つ灰色の髪。格好も騎士のような出で立ちであり、その姿はどこか武人としての威圧感を漂わせている。


「……あの悪魔は、ウィデルスが作ったんだよな?」


 なんとなく疑問を寄せると、回答はゼムンからやって来た。


「全てを作成とはいかないでしょうが、その多くがウィデルスのしもべでしょう」

「外見からは想像もできないな……まあ、この場合外見とかあんまり関係ないんだろうけど」

「そうですね。ただ戦い方については――見た目そのままです」

「つまり、武に優れているってことか?」

「まさしく」

「だからこそ、僕は絶対に勝たなければならない」


 強い言葉が、クロワの口からこぼれた。


「アイツもまた、身体強化などを利用した接近戦を得意とする。魔王になるためには絶対に超えなければならない障害だ」

「……本当に勝てるのか?」

「ああ」


 強い言葉……絶対の自信は自分自身を鼓舞する意味合いもきっと入っているんだろうけど……ともあれ今は信じるしかないか。

 この間にウィデルスの軍勢はこちらへと近づいてくる。まだ俺達のことはバレていないようだけど、領地の境界を抜け少しすれば魔力に気付く可能性は高い。間に合うか――


 その時、魔力の収束が完了した。準備は整った。


「クロワ、こっちは用意ができた。いつでもいける」

「わかった。ではウィデルスが領地に入り、少ししてから撃ってもらおう……タイミングがこちらが指示する」

「了解した」

「いよいよですね」


 ソフィアが述べる。こちらが頷くと同時、とうとうウィデルスが自身の領地から、抜け出した。

 果たして……ひとまず動きに変化はない。まだ気付かれていないか。


「もう少し引き寄せる。そしてルオン殿が魔法を撃ち込んだ瞬間から、時間との勝負になる」


 彼の後方にいる魔族達が重々しい表情で頷く……緊張感が高まっている。とはいえその顔に恐怖はない。

 全員、覚悟はできているか……あとはクロワの合図を待つだけ。全員が口を閉ざし、今か今かと俺は心の中で呟き、そして――


「――ルオン殿」

「ああ」

「始めよう……頼む」

「任せてくれ。ソフィア!」

「はい!」


 返事を聞いた瞬間、一気に魔力を高め――クロワが魔王となるための戦いが始まった。


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