精霊の主張
俺とレーフィンの話し合いはきっちりと終わったが……アルト自身にどうするかを尋ねておく必要があると思った。よってその日の昼食時、彼と向かい合った時会話を行うことにした。
ちなみに今回も女性は女性だけで固まっており、テーブルにいるのは俺とアルトとイグノスの三人。
「アルトさん、今後のことについてだけど」
「ああ」
「討伐軍……近日中には戦いが始まると思う」
「だろうな」
「魔族の居城があるとしたら、相当大きな戦いだろう……俺達も動き方を考えないといけない」
そこで俺は談笑するソフィアに視線を移す。
「ソフィア辺りは……討伐軍に参加したいなんて思っているかもしれない」
「彼女は正義感が強いみたいだからな」
と、彼は頭をかきつつ語る。
「俺自身、色々と魔物なんかと関わって危機感は感じているさ……どこまでやれるのかはわからないが、もし戦えるのであれば向かいたいところだな」
語りながら、ステラへ視線を向けるアルト。
「それに、放っておいたらあいつ一人で突っ走るような気もするし」
「そっか……今は情報を集めつつ、魔族の居城に近づいてみるという方針でいいか? 俺達はそうしようと思っているんだが」
「ああ、俺達もそれに付き従うことにするよ」
アルトは言う。方針は決まり……そこで、今度はキャルンが近づいてきた。
「ルオンさん」
「ん、どうした?」
「ルオンさんとソフィアさんは、このまま魔族の本拠地に向かうつもり?」
「今のところはその予定だけど」
「そっか」
むー、と唸るキャルン。彼女もどう動くか考えている様子。
同行者という形だったわけだが、俺達と共に五大魔族とのイベントに巻き込まれることになってしまった。ふむ、彼女についてはどうするか……しばし考えた後、俺は言った。
「……キャルン自身が決めていいさ」
「私が?」
「ああ」
「そっか、なら――」
キャルンは同行する旨を俺達に伝える。彼女なりに思うところがあったということだろう。
これで人数は六人……パーティーの人数は控えを入れて最大八人なので、ゲーム的にも問題はない。ただゲームでは戦闘に参加する人数は四人だったが、さすがに現実世界ではそういうわけでもないはずで、レドラスと戦う場合は多少有利になるかもしれない。
あと、魔物の強さを確認した方がいいだろう……配下の魔物のレベルも五大魔族の強さに合わせている。つまり出現する敵のレベルを見れば、アルト達がレドラスを倒せるのかどうか確認することができる。
現状の見立てとしては微妙なところなので、ここからのレベルアップが鍵となるだろう。レドラスの居城へ向かう途中に戦闘をこなし、今以上にレベルを上げていく必要がある。
その中で、できれば中級技や魔法などを習得した方がいいな。ソフィアは上級技を使えたりもするが、レドラスは風を使うため、風属性に多少ながら耐性がある。できれば他の技を習得したいところ。
キーポイントとなるのは、新たに契約したノームの存在だろうか……地属性は風と比べて基礎攻撃力が高めなので、レドラスに挑むとなるとその辺りの攻撃手段が欲しいところだ。
他にも、アルト自身が重要な役割を担うことになるだろう。俺を除けば大剣を持つ彼こそ、直接攻撃では一番の火力を誇っている。魔法はイグノスとソフィアが補うとして、最前線で戦うことを余儀なくされるのは間違いなくアルト。レドラスとの戦いでは彼の踏ん張りが何より重要となってくるだろう。
それにゲームにおける主人公であった以上、彼こそ魔王を討つ存在となる可能性も……ゲームでは五大魔族を倒すと賢者の力だけは消滅せず、ゲームの主人公の体の中に入るという演出があった。レドラスを倒し、その力を得た人物が、魔王を討つ存在となったと考えて間違いない。
それがアルトになるのか、あるいは……色々と考えつつ、俺達は話し合いを続けた。
翌日から、俺達はレドラスの居城がある方角へと歩む。近づくにつれ討伐軍の情報も手に入り易くなり……数日後、いよいよ事態が変化した情報がやってくる。
「退却したらしい」
時刻は夜。商人などの情報から討伐軍は退却。逆に魔族側が居城の外に出て攻勢を仕掛けているという話が出てきた。
その情報をもとにして、話し合いを行うことにする……場所は酒場。同じテーブルを囲み作戦会議。さすがに討伐軍が追い返されたとあっては、アルト達の表情も硬い。
「ひとまず、情報が欲しいですね」
いち早く口を開いたのは、ソフィアだった。硬い顔つきではあったが、戦う意思はしかとある様子。
「どういう魔物が居城から出現しているのかなどを含め……最寄りの町まで行ってみるのがいいかもしれません」
「確かに、近い町なら退却してきた兵士や騎士がいる可能性も高い。話を聞くこともできるだろうな」
俺が言う……実はレドラス居城の近くにある町で、主人公はとある情報を手に入れることになる。一応それがイベントフラグとなって居城へ入り込むことになるのだが……少なくともその情報はソフィア達にとっては有益で、レドラスの所へ向かうために背中を押すような内容となっている。よって、情報を得た方が決心もつくだろう。
「そうね、私も同感」
ステラがソフィアに続く。彼女はどこまでもやる気を見せており、アルトの顔つきを弱腰と捉え、咎めるような表情まで投げかけている。
それから多少沈黙した後……アルトも賛同し、話し合いは終わった。明日に備え休もうということになる。
女性陣は固まって食事をすることになり、俺は一度部屋に戻る。アルトやイグノスは酒場に残ったままなので、部屋には俺一人ということなのだが――
扉を開けると、そこにはレーフィンに加え、ノームであるロクトの姿が。
「会議中、俺が気付くように気配を発していたな?」
「はい。少々問題がありまして」
「……確認だけど、ロクトがここにいるのは――」
「多少ながら事情は聞いています」
ロクトは言う。多少というのがどの程度なのか気になったが……まあいいかと思い直し、口を開く。
「それで、俺を呼んだのは?」
「多少ながら問題がありまして」
「問題?」
「魔族の居城に近づくにつれ、ロクトが大地の様子が変だと言い出しまして」
「ああ、それは魔族の仕業だよ」
「ルオン様が把握されているということは、これは物語上定められた問題のようですね」
「その口上からすると、俺がどういう存在なのかは話したのか?」
「はい。必要に迫られた時話そうかと思っていて、今回ロクトが相談を持ちかけてきたので、事情を説明しルオン様にお尋ねしました」
「……で、ロクトは相当懸念したと」
「はい」
頷いたロクトは、俺と目を合わせ話し始める。
「ご存知かもしれませんが、ノームには大地の魔力と干渉する能力を所持しています。私のその能力は同族と比べてもとりわけ高く……だからこそ、大地の異常を克明に理解できました」
――例えばキャルンと契約したノームでも、近づくにつれ感じることはできるだろう。ゲームではノームと契約していた場合、五大魔族の居城近くにいくと「大地の様子がおかしい」と主張するイベントが発生する。ゲーム上で五大魔族の目的は後半まで明かされないのだが、その伏線としてノームの言葉がある。
「それで、ロクトはどうしたいんだ?」
尋ねると、彼はしばし考えた後俺に言った。
「ルオン様の仰る通り、この異変は定められたものだったとしても……調べておきたいと思ったのです。調査の結果、もしかすると私達の力で魔族の目論見を打破することはできるのでは……そういう考えも浮かんだのです」
調べる……なるほど。俺はどう返答しようか少しばかり思考し……やがて、口を開いた。




