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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魔王の庭

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見解の差異と作戦

 時間がない中で俺の要求通りゼムン達は作業を始めた。そして最初の悪魔が生成されたのは、夜に入ってから。


「これが、雑兵の悪魔です」


 ゼムンが語る……場所は洞窟内にある広い演習場。そこには彼らが生成した悪魔が十体ほど。

 見た目は、下級悪魔である『レッサーデーモン』に近い。現在武装は右手にある長剣だけでだが、武器が変わったり下級魔法が使えるなど個体差も存在するらしい。


「私達ならば……ルオン殿やソフィア様であっても、雑兵の対処は単独であればそれほど難しくないでしょう」


 悪魔を見据えながら、ゼムンが解説を行う。


「しかしこの悪魔が百にも二百にもなれば、いかに私達と言えど苦戦は免れない」

「一つ訊きたいんだけど、この悪魔はゼムンさん達を倒せるだけの力を保有していると考えて良いのか?」

「そう調整されているはずです。単独では応戦もできますが、徒党を組んでの交戦であった場合は、形勢不利になるかと」

「見た目は下級悪魔でも、実際の実力は数段上ってことか」

「というより、これは魔族特有の性質と言えるかもしれません」


 ゼムンはそう述べると、さらに説明を続ける。


「人間と同様、我々も魔力障壁によって相手の攻撃を防御します。しかしご想像されているかと思いますが、魔族は人間よりも種族的に内に秘める魔力量が多い。必然的に防御能力も人と比べ高いわけです」

「その結果、雑兵である悪魔に高い攻撃能力を与える、というわけですか」


 ソフィアのコメント。ゼムンは「まさしく」と答えた。


「悪魔自身、身を守る力は簡易的な魔力障壁のみ。魔力量が多い魔族相手にお世辞にも強いと言えるものではありませんが、それで十分なのです。相手の攻撃を無理矢理突破し、反撃するだけの能力を得ていればいいのですから」

「……悪魔は自らが生成した存在」


 クロワが俺達を見据え、語る。


「いくらやられても代わりはいる……つまり、捨て石というわけだ」

「魔族を食い破れる攻撃能力と、多少の防御能力……これが魔界の基本的な戦法か」

「そうだ。防御能力については高くしても多少やられにくくなるだけで効率も悪いからな。攻撃能力を重視する方に舵を切る方が生成する場合効率もいい」


 なるほどね……さっきクロワは捨て石と表現したが、むしろ鉄砲玉と表現した方がいいかもしれない。


「無論、この悪魔については弱点……というより、有効な策が存在する」

「遠距離攻撃だな」

「そうだ。これは人間同士の戦でも同じことが言えるだろうけど」

「悪魔に魔法を所持する者はいないのですか?」


 ソフィアの質問。ここでクロワ口元に手を当て、


「ゼロとは言わないが、魔法能力を有する悪魔を生成するには通常よりも魔力を多く消費する。兵数を揃える場合は、いたとしても少数になるだろうな」

「今回の場合はそれだと?」

「相手もこっちが少数なのはわかりきっているはず。魔法でどうにかするより数で押し潰した方が効率もいいし、何より村や町などを襲うのにも有効だ」


 そこで彼は俺を一瞥。


「悪魔に関する説明は以上だが……策は通用しそうなのか?」


 ……うん、これならば――


「クロワ、仮にこの悪魔と戦う場合も、能力を用いるのか?」

「僕にはそれしかできないからな。力を用いて百体を一気に吹き飛ばすことは可能だ。ただし、それでは魔族に到達する前に力尽きてしまうだろう」

「ゼムンさんは?」

「我らとしても悪魔に対抗できるほどの力を有してはいます。しかしクロワ様ほどの力を発揮することは難しい」


 ……ふむ、なるほど。

 俺はソフィアに視線を送った。それに彼女は小さく頷き、


「想像よりも差異があるかもしれませんね」

「差異?」


 ソフィアの意見にクロワは聞き返した。


「どういうことだ?」

「……俺達人間にとって魔族というのは、脅威だ。もし悪魔が攻め立ててきたらそれこそ入念な準備を重ねて臨まなければならない」


 俺はそんな風に返答する。


「そしてそれは、クロワやゼムンも同じ……ただ、ここで俺とそっちだと少し見解が異なっている」

「それは?」

「魔族や悪魔の実力が例外なく、俺達の大陸を襲ったものと同等、と思っていたんだ」


 こちらの言葉でクロワは「なるほど」と呟いた。


「仮にその考えで話を進めると、食い違うだろうな」

「確認だが、俺達の大陸を襲撃した魔王に伴っていた魔族達は、それこそ魔界の精鋭だったという解釈でいいのか?」

「そうだな。能力も一級品な者達ばかりだった」

「で、俺達は魔族と聞けば誰もが多大な魔力を有しているという解釈だったが、それは違うんだな?」

「体のつくりが違うため人間より上であることは間違いないと思う。だがあなた方の大陸を襲撃した魔族と比べるべくもない」


 ――うん、ソフィアもたぶんそうだったんだろうけど、俺は悪魔の襲撃ということで凄まじい力を持つ存在が多量に押しかけるといった想像をしていた。けれど目の前の悪魔を見る限り……人間が編成する軍団よりは強いのは間違いないが、俺達はたぶん過大評価をしている。

 とはいえ、人間よりも頑強さと高い攻撃能力を持っている悪魔は、一体辺り兵士十人以上の戦力にはなるか。今回千単位で襲い掛かってくるとなると、やはり脅威ではあるけれど――


「……あなた方が悪魔を受け持つというのか?」


 ふいにクロワが問い掛ける。


「こうして悪魔の姿を確認したのは、それができるかどうかを検証するため?」

「そういった方法もなくはない……が、俺が提案するのはもっと別の方法だ」


 そう述べた俺は、クロワに笑みを向ける。


「俺とソフィア二人で斬り込む……というのも方法としてはありだし、たぶんこの悪魔の能力ならばできるとは思う」

「できる、と言うのがあなた方の力の高さを物語っていますね」


 ゼムンの言及。こちらはそれに肩をすくめ、


「魔王を討った存在である以上、そのくらいの力は持っていると認識してくれればいいさ……で、俺が言いたいのはそうやって斬り込めば問題が発生する」

「問題?」

「敵が退くかもしれないだろ? 俺達の正体そのものがバレることはないと思うけど、クロワの下に脅威となる存在が現れた……よって攻撃を中断し、一度距離を置くという選択をしてくる可能性は高い。次はさらに入念な準備をしてくるだろ。クロワとしてもそれは避けたいだろ?」

「確かに……しかしそうなると魔法などを使用して敵を打ち砕くという形か?」

「その通り。そこで使えるのが俺とソフィアの融合魔法だ」


 ――堕天使との戦いで習得した技術。強力な魔法を使用することにより、敵を一掃することができるはず。俺とソフィアが個別で、という方法もありだが、一掃するのなら融合魔法の方が効率がいい。


「俺とソフィアで魔法を構築し、まずは敵の前衛を吹っ飛ばす。そこで浮き足だった相手に対し突撃を仕掛け、一気に決着まで持っていく。悪魔の防御能力がそう高くないのなら通用するし、何より有効な対策として挙げられた遠距離魔法だ」

「ずいぶんとやり方が強引だが、策に成功したならば窮地に追い込まれていた僕達の大きな勝機となるのは間違いない」

「どんな魔法を使うかなど、決めなければならないことは多数あるけど……奇襲にもなるしやり方としてはいいんじゃないか」


 うん、方針としては良い……が、ここでソフィアが提言。


「問題は、どのような魔法を使うかですね」

「そうだな……あとゼムンさん、俺達の魔法で悪魔を大半吹き飛ばすって戦法は、クロワが魔王になるための障害にはならないか? 俺達が活躍することになるけど」

「そこについては大丈夫です」


 頷くゼムン。クロワも同じ事を言っていたし、この辺りについていいというのなら、


「よし、なら俺達はその策を実行するための準備に移るよ……最大の問題は、どういった魔法を使うか」

「最強魔法では駄目なのか?」


 クロワの問い掛けに――俺は苦笑した。


「全力でやったら、間違いなく魔族を含め一切合切滅ぶからな。それはクロワの名声的にもおいしくないだろ? だから、どのくらいの魔法で留めておくのか……そこが一番重要になりそうだ――」


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