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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魔王の庭

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魔王になる条件

 翌日、俺達は朝食をとった後に廊下で話し合いをすることになった。最初に口を開いたのはクロワ。


「まずは家臣と合流する。そこで二人がこの戦いに参戦しても僕が魔王になれるように処置をする」

「家臣に頼んで何かをやってもらうってことか?」

「家臣に認めてもらうところから始める」


 ……正直茨の道であるような気がする。


「そう簡単にいくのか?」

「あなた方のことを魔族は絶対に認めないと思っているようだが、実際そういうわけではない」


 と、クロワは語り出す。


「それに、仮にあなた方の懸念が当てはまるとしても動き方はある」

「自信があるってことか……わかった、それならこの件についての言及は控えるよ」

「ああ……それとこの魔界がどういう構造になっているかを説明しなければならないな。ついてきてくれ」


 移動開始。アンジェもついてきて広い会議室のような場所へ辿り着く。もっともそこも破壊されていてまともに話し合いができそうにはないけど。


「これが魔界だ」


 クロワはそう告げながら壁面を手で示す。そこには、布のような素材に描かれた地図が一面に貼られていた。

 奇跡的に無事だったようで、魔界の全貌を理解することができる……といってもあちこちボロボロかつ埃かぶっているのは仕方がないか。


「僕達がいるのは南西だ。村から海が見えることからもわかると思うが、本当に端の部分にあたる」


 ……この地図では俺達が魔法で通過した広大な森が小さく描かれている。大多数の魔族が暮らす空間である以上当然だが、やはり魔界は相当広い。下手するとシェルジア大陸よりも広大かもしれない。


「この地図が魔界の全てなのか?」

「他にもいくつか大陸がある……けれど、魔王の居城がこの大陸に存在するため、魔界で力を所持する者達はこの地図内に集中している」

「そうか……で、この大陸内全てが戦場になっている、と」

「そうだ。魔王になるには各地の魔族を黙らせる必要があるのだが、大陸各地を回って全てを倒す必要はない。現在は戦いも進み、候補となる魔族が絞られてきたからな」

「つまり絞られた魔族を叩きつぶせばいいわけだ」

「そうだ」

「……一つ、よろしいですか?」


 ソフィアが手を上げ質問を行う。


「私達が立ち回ることは理解できましたが……クロワさん自身はどうされるのですか?」

「無論戦いに参加するさ。というより、主となる魔族の討伐については、僕自身やらなければ意味がないだろう?」

「勝機は、あるんですか?」

「僕の能力に関係している部分だが……僕自身現在魔王候補に挙げられている魔族達とも十分やりあえると自負している。ただし制約があって、今の僕が保有する魔力量では能力維持時間が少ない」

「あー、なるほど。つまり俺達には露払いをしてほしいと」

「その通り」


 ……もしかするとこの城が襲撃された際も、能力によって逃げ切ったのかもしれないな。その能力があったから、彼もアンジェも無事だった。


「能力というのは、身体強化か何か?」

「ああ、そうだ。能力を使えば勝てる自信はある……けど、挑むにはどうしたって戦力がいる」


 そこで俺達の出番というわけだ。


「うん、戦法はわかった。俺達の役割としては、クロワの護衛……敵の総大将のところまで力を温存させるってことだな」

「ああ。戦闘の流れはそういう形になる……また、家臣と再会しあなた方以外にも戦力を集めておく」

「再度確認だけど、俺達がいても問題ないのか? 人間ということでいきなり攻撃されたらたまったものじゃないぞ」

「穏健な面々だから大丈夫」


 魔王を討った存在だと聞かされたら一悶着ありそうだけど……ま、ここはクロワに頑張ってもらうか。


「そういうわけで、今日から早速行動を開始する……目的地はここから北に位置するジェルフ山脈だ」

「山脈の中に拠点でもあるのか?」

「ああ、いざという時に用意しておいた隠れ家だ」


 現在はそこに潜伏して、再起の機会を窺っているって感じかな……? と、俺はここで疑問が一つ。


「そういえばクロワ、アンジェの予言があるとはいえ、家臣が誰もいないというのは……」

「僕とアンジェは家臣とは異なる場所で襲撃をやり過ごしたからね。実を言うと家臣も僕らが無事なのかどうか確認できていないため、これから顔を見せに行くということになる」

「……待ってたらそのうち様子を見に来そうだけど」

「来るにしてももう少々間を置くと思う。僕が家臣に告げた隠れる期間は、もうしばらくあるから」


 本来ならまだ隠れているはずのか……けれどアンジェの予言があったからここにいると。


「よって僕らの方から会いに行く」

「それはわかったけど、山に入るって大丈夫か? 特にアンジェとか」

「魔法で体調を維持できるから問題はないさ」


 そういうことなら……ということで俺達は城を離れることに。

 外に出ると荒涼とした風が体を撫でる……周囲には魔物の気配すらなく、クロワは本当に全てを失ったのだと理解できる。


「もうここが復興することはないのか?」

「……僕が魔王になったら魔王の居城に身を移すことになる。それは魔界の中央分に位置するし、ここに来ることはなくなるだろう。もっとも、この土地に愛着のある同胞は多いだろうし、再建のために色々と動く同胞はいると思う」


 そういうところは人間と変わらない……か。


「クロワ、そっちの魔界の立ち位置っていうのは……城を構える場所的に、あまり良くないのか?」

「領地の位置や規模が判断材料になるわけではないよ。魔王が魔界の中央に城を構えた際、その当時力の強かった魔族達が中央を取り囲むように領地を構え城を建てた……それを継承し続けたってだけだから、その当時僕のご先祖様は弱かったということになるけれど」

「現在の城主であるクロワは違うと」

「少なくとも、現在戦っている魔族相手には負けないさ」


 自信……それに足下をすくわれないよう注意してもらわないといけないかな。


「さて、山脈へ赴くわけだが、このまま普通に歩き続けていては相当時間が掛かる。よって魔法を使って移動するが……二人は森を徒歩で抜けてきたわけではないだろう? 移動手段は持っているのか?」

「はい、大丈夫ですよ」


 ソフィアが答える。ならばと、クロワは指示を出す。


「なら魔法を使って山脈の麓まで移動する。アンジェは魔力的に長時間使えないため休み休みとなるが……昼までにはたどり着けるだろう」

「そこから山登りとなると、さらに時間が掛かりそうだな」

「麓まで行けば連絡手段が存在するため大丈夫だ」


 なら問題はないのか……よって俺達は移動魔法を行使し、城を離れた。

 一度だけ振り返る。崩れ落ちることはなさそうだが、誰もいなくなった城は、ひどく寂しく見えた。


「――復興するにしても、あの城をそのままにしておくわけにはいかないな」


 そんな俺の視線を察したか、クロワが声を上げる。


「もっともそれができるのは、戦いが終わってからだ……それに町の再建には色々と物入りになるだろう。全ては魔王になってから、だな」

「魔王になればどんなことでもできるのか?」

「決して万能というわけではないが、城や町をどうにかできるくらいの権限はあるぞ」


 それもそうか……城についてはあのまま放置というのは無理だろうし、いずれ解体することになるのかな?


 そんな風に考えながら俺達はひたすら山脈の麓へ向け疾駆する……道中で魔物や魔族に遭遇することもなく、麓の森に到着することができた。


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