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賢者の剣  作者: 陽山純樹
王女の帰還

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予言能力

 話が終わって俺達はアンジェがいる部屋に舞い戻る。そこでクロワが彼女へ俺達のことを簡単に説明した後、


「二人にアンジェの能力を使ってやってほしい」

「うん、わかった」


 返事をすると彼女は目を閉じた。そして生じたのは淡い魔力……彼女を取り巻くように、光の粒子が現れる。


「協力する見返りに一つだ……何でも訊くといい」


 ……クロワはアンジェの力に絶対的な信頼を寄せているみたいだが、果たしてその効果のほどはどうなのか。

 まあ、駄目元ってことで質問してみるか。けれどどういうことを尋ねるべきなのか――


「では、私から」


 そう告げてソフィアが前に出た。


「教えてください――私達が魔族の力を結集した武具を手に入れるには、どうすればいいですか?」


 本来の目的について、か。これで「クロワが王になれば達成できる」とか言われたらズッ転けるぞ。


「――目的には、魔王の城に足を踏み入れればいい」


 これまでとは異なる硬質な声。まるで違う存在が乗り移って喋っているようだ。

 で、返答内容としては……んー、これは――


「僕が魔王になる、というのならそういう主旨の解答が出るはずだ」


 クロワが捕捉する。


「しかしそうではなく、魔王の城に入る……つまり、城にこそ目的の物があるということだろう」

「つまり、城には既に俺達が欲する武器があると?」

「あるいは、城へ行くことで何かが起こる……そういうことなのかもしれない」


 うーん、まあクロワを魔王にするって話であるため、必然的に魔王の城へは行くことになる……よな?


「その魔王の城というのは?」

「魔界中央に存在する、名の通り魔王が住んでいた城だ。封印されていた場所もそこになる」

「……魔王って、魔界で封じられたのか?」

「より正確に言えば、魔王が賢者を誘い込んだ形だが、結果的に封じられたと。ただ詳細は魔王しか知らない。その時の部下や眷属は、全て消え失せているからな」


 魔王としても伝わって欲しくない情報だろうし、これは当然か。


「――そういえば、気になっていたのですが」


 ふいにソフィアが口を開いた。


「あなたも魔王と呼んでいますが、名前などは?」

「たぶんあったと思う。けれど魔王が直接名乗らなかったし、名を知っている存在は賢者のとの戦いで消え失せている」


 ……何か理由があるんだろうか?


「魔王に心酔している者は陛下と呼んでいる。僕はやや遠い存在であったし、直接会ったこともないから魔王と呼んでいるが」

「そうですか、わかりました……ルオン様、アンジェにご質問はありますか?」

「そうだな……」


 じゃあ駄目元で――


「……『神』の正体など、地底に深く眠る力について調べるにはどうしたらいい?」


 さすがにこれは答えなんて出ないだろう――そう思っていたが、


「――『神』の情報を得るには、ある人物に会う必要がある」


 ……え?


「その人物がいる場所は、リズファナ大陸」

「おい、ずいぶんと具体的な地名が出たぞ」

「実際そこへ赴けば、答えにたどり着けるんだろう」

「……本当か?」

「疑っているのか?」


 正直、こっちとしてはアンジェの能力に半信半疑な面もあるし……ただ、リズファナ大陸というのは気になる。


 その大陸名は、俺が転生する前の世界における『エルダーズ・ソード』最新作の舞台。あいにく俺は死んでしまい最新作をプレイすることはできなかったが……その物語は四作目『エデン・オブ・ドラゴンズ』から続く三部作の完結編であり、また世界崩壊後の世界……一作目につながる話だとインタビュー記事か何かで書かれていた。


 『神』という存在から、ゲームのこととこの世界の因果関係などが色々と複雑なものになっているけれど……ゲームの筋書き通りなら、この最新作で起きる出来事によって世界崩壊の道筋ができる。

 もしかすると最新作は『神』に関する何かを知ることができる物語だったのでは……そういう推測からすると、アンジェの予言は正しいのかもしれない。


 そしてアンジェは沈黙する……ふむ、どういう人物なのかまでは語ってもらえないか。


「……わかった。ひとまず参考にさせてもらうよ」


 クロワの言葉にそう返答した俺は、話を変えることにする。


「これからの方針だけど……とにもかくにも俺達は帰還を優先したい。けれど現状、それが一番難しい……ってことでいいんだよな?」

「そういう認識で間違いない」

「ならクロワが魔王になるために頑張るわけだが……まずは、どうする?」

「家臣と合流したい。現在僕達は魔界の最新状況すらまともにわかっていないのが実状だ。まずは戦える態勢を整えなければならない」

「根本的な話だな……だから家臣か」

「そうだ。頼りにしている者は城から逃げて別所で色々と動き回っているはず。まずはその家臣に合流する」

「出発は明日でいいのか?」

「ああ」


 話はひとまず終わり、俺とソフィアは適当な部屋で休むことに。ただし、その前に作戦会議だ。


「まさか魔界に到達するとは……」


 ソフィアが改めて述べる。うん、俺もびっくりだ。


「早く帰りたいけど、そういうわけにもいかないみたいだな」

「とにかくクロワさんと手を組んで、ですね……しかし、大丈夫でしょうか?」

「クロワを疑っているのか?」

「魔族であることが多少なりとも引っ掛かっているようです……すみません」


 いや、彼女の反応は当然だ。自分の国を蹂躙されたことだってある魔族に対し、すぐに仲良くしろと言われても戸惑うに決まっている。


「今回、帰還するにはどうしたって魔族と手を組むことは必要不可欠です。それは理解しているのですが……」

「心情はわかるよ。俺も内心複雑だし……それにクロワとは出会って一日も経っていない。すぐに信用するというのも無理な話だろ」


 ここは魔族関係ない部分だと思うし……もっとも状況を打破するには魔族と協力関係を結ばなければならないのもまた事実。


「俺達はクロワから事情を聞いたけど、魔界のことはほとんど知らないも同然だ。よってしばらくは彼と共に行動し、まずいことが起きたら都度対応することにしよう」

「そうですね……」


 ひとまず決めておくことはこんなところか。


「あとはどれだけ早く帰ることができるか、だな……」

「そうですよね。ただ状況がわからないのでなんとも言えませんが……時間、掛かりそうですよね」


 うん、何せクロワを魔王にするって話なのだから……それはつまり、群雄割拠する魔界を統一するってことが必要なわけで。


「そもそも可能なのか、これ……?」

「どうでしょうね……私達が存分に立ち回れるのであれば、片っ端から魔族を倒すってやり方でもよさそうですけど」


 無茶苦茶ではあるが、俺達が早く帰るにはその方法もありか……俺とソフィアは魔王を討つだけの力を得ている。群雄割拠している魔界だが、魔王以上の力を有している存在は、クロワの話を聞く限りいるとは思えない。


「クロワは俺達が活躍してもどうにかなるって話をしていたし……俺達の行動次第で変わりそうだよな」

「逆に言えば、頑張ればそれだけ早まるってことですよね」


 まあそういうことだよな。


「ならば、明日から帰るべく……全力で頑張りましょう」

「そうだな。というわけで今日は休むことにしよう」

「はい」


 ――こうして、激動の一日が終了した。図らずとも魔界で戦うことになったわけだが……俺とソフィアならば大丈夫――そんな風に考えながら、眠ることとなった。


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