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賢者の剣  作者: 陽山純樹
王女の帰還

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脱出するために

 その日のうちに周辺の調査を行う。といっても周囲はフォンの地図通りなので現地確認という意味合いが強い。東側はしばらく進むと砂漠が広がり、北側は森。そして西と南には海がある。


「とはいえ住むにはよさそうな環境だな」


 俺はそう呟きながら目の前に存在する海を見回す。

 青い、透き通るような綺麗な海。これはこれで綺麗な光景なのだが……水平線がどこまでも続いていることが、この地からの脱出が難しいと認識させる。


「ソフィア、知っている範囲で教えてほしいんだけど……天使の遺跡って、こうまで大規模なものってあるのか?」

「何事にも例外があるので断言はできませんが、少なくともここが単なる遺跡のある空間と考えることはできないのでは、と思います」

「やっぱり俺達は見知らぬ場所に転移したって解釈でいいのか……」


 以前、転移装置が誤って作動し竜の棲まう大陸を訪れたことがあった。今回はそれと似たようなケース……しかも自ら扉をこじ開けてやってきた。


「ここにいる人達に帰れるという選択肢を提示できたらいいな」

「そうですね。さらに言えば『神隠し』についてもある程度解明できそうな気がします」

「まずは、ここが大陸のどこなのかを知らないと……シェルジア大陸内って可能性は低いよな?」

「西と南に海が存在するので、大陸の端である可能性も十分考えられますが……結論を出すのは早計ですね。まずは北か東……そのどちらかを調べなければ」

「東よりも北の森を調べる方がいいかな?」

「まずはそうしましょう」


 ソフィアも同意したので明日からは森を調べる……というより、森を抜けた先に何があるのか、だな。


「移動魔法を使えば森の上を行けるよな。それで反対側に何があるのか調べるとするか」

「そうですね……問題はこの場所を調べて帰る方法があるのか、ですが……」

「まあその辺りは……たぶんガルクとかも調べているだろうし、こっちはこっちでやれることをやろう」


 どうやって帰る手段を見つけるのか……例えばここが島なのか大陸なのかによってもやり方は変わってくる。

 そのために、まずはここがどういう場所なのかを調べるところから。


「よし、それじゃあ今日は休んで明日から早速行動開始だ」

「はい」


 というわけで、俺達は村へ戻って休むことにした。






 村で寝泊まりする所については俺とソフィアで分かれた……というか、家の規模的に二人以上人間を加えることができないって感じだ。

 ソフィアは農作業中にこの地に迷い込んだおばさんの家。ちなみにここに住んでいる誰もが来訪には慣れているためか、非常に暖かく迎えてくれた。そして俺は、


「申し訳ないね、ソファで眠るようなことになって」

「いえ、大丈夫です」


 フォンの家だった。俺は丁寧に応じつつソファに座る。


「そういえば、このソファはどこから調達したんですか? さすがにこの場所にあるものを材料に、とはいかないでしょう?」


 というか既製品に近いのだが……。


「過去、商人などがここに迷い込んだケースがありまして。家具などを扱っていたためこうした物品がいくつかあるんです」


 へえ、なるほど。


「あと困るのが鉄製の物ですね……実際護衛任務などを行う時や、料理をする時などに使用するわけですが、手に入りにくいですからね」

「鉄が採れてもここでは精錬とかもできないでしょうからね」

「はい……ただあなた方が転移した場所には色々と落ちていたりもします。その中に鍋なども含まれており、そういう物でなんとかしています」

「『神隠し』は人以外でなく物にも作用すると?」

「どうやらそのようですね」


 そういう拾い物を上手く使って生活を成り立たせているわけか。


「ちなみにですが、ルオンさん達はどういう経緯でここへ?」


 世間話の感じなのかフォンが問い掛ける……真っ正直に話すのは混乱すると思うので避けるべきか。騎士ノークについても……ひとまずやめておこう。


「……仕事を受けた際に巻き込まれた形ですね」

「そうですか。ちなみに場所は?」

「バールクス王国です」


 その言葉に彼は驚いた様子だった。


「そうですか……実を言うと私はその国の出身です。いやあ、懐かしい」

「……フォンさんは、帰ろうと思ったことはないんですか?」

「現在も検証していますよ。元々この『神隠し』について調べていた人間ですからね。むしろ私がやらなければ、という意思が強いです」


 それはそうだろうな……彼以外にそういうことのできる人がいるとも思えない。


「しかし、まったく糸口をつかむことができていません……村の人の中には期待している方もいるのですが……それにに応えることができず申し訳なく思っています」


 彼も色々と大変そうだな……俺達としてはこの場所の調査をして、その辺りの負担を軽減してあげたいところ。


「俺達は明日以降、森を調べようかと思います」


 こちらの言葉にフォンは「そうですか」と応じる。止めるようなことはないようだ。


「一つ確認を。村の活動において森に近づく際は魔物の出現などに備えて行動しますが、お二方が独自に森を調べるとなれば、自己責任となりますので協力などはできません」

「そこはわかっていますよ」

「そうですか……ではすみませんがお先に失礼させていただきます」


 フォンはバールクス王国のことについて語ろうとはせず、そのまま就寝した……なんとなくだけど、必要以上に転移前の境遇について言わないようにしているのかもしれない。

 明文化されていないけど、暗黙のルールって感じなのかな……その辺り疑問に思ったりもしたが、追及するとヤブヘビになりそうなので問い掛けたりはしないでおこう。


「ひとまずこの村では当たり障りのない対応をして、騒動は起こさないようにしよう」


 騎士ノークのことなんかは、帰ることのできる段階とかで話してもいい……しかし、バールクス王国ではたぶん大騒動になっていることだろう。


「ガルクとかがフォローしてくれればいいけど、神霊ですら対処できないようなことかもしれないからな……」


 むしろガルクが慌てている可能性だってありそうだ。


「俺達は俺達で動くしかない……とにかく明日、だな」


 そういうわけで俺も眠ることにしよう。というわけで毛布にくるまって眠る。

 魔法の明かりを消すと真っ暗になる。目を閉じてさあ寝ようかと思った時、ふとバールクス王国のことを想像する。


 右往左往するエイナの他、ロミルダは大丈夫だろうか……ソフィアとしてもその辺り心配していることだろう。

 早く帰らないと……そんなことを思いながら目をつむり、その日は就寝することとなった。


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