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賢者の剣  作者: 陽山純樹
王女の帰還

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英雄との訓練

 俺とソフィアの婚約の儀をやることになったわけなのだが……まあそれにも準備は必要で、結局城に滞在することになった……のだが、さすがになんというか、婚約者待遇であることもあってまあすごい。

 廊下を歩けばルオン様と声を掛けられ、国の重臣でさえ俺を見るとフレンドリーに話し掛けてくる。侍女なんかは廊下を歩いているとキャーキャー言ってくるという貴重な体験をしている。


 皮肉にも聞こえるけど、なんというか城に入る前に危惧していたような問題は一つも起きなかったので、それはよしとしよう。俺にへそを曲げられたら一大事だからの扱いだろうし、誰かが粗相したらその人が袋だたきにされてもおかしくない……そうなったら全力でフォローしよう。


 で、滞在期間は十日くらいになるらしい……準備にそれほど時間が掛かるのかと思ったが、どうやらそれ以外にも色々とあるとのこと。


「陛下がソフィア様のことについて重臣達を説得するのに、必要な時間だ」


 そうエイナは述べる――場所は俺に与えられた客室。椅子に座り窓際に立って話をするエイナへ視線を送る。


「陛下はソフィア様が旅をすること自体、良いという判断をした。けれど国の中枢にいる人間の中には、もう腰を落ち着かせてルオン殿にもここへいてもらうべきという意見を述べる者もいる」

「……だからこそ、熱烈な歓待をしているわけだよな」

「そうだ。ルオン殿のことについてなどを調整するのに時間を要する」


 ここは王を頼るしかないのでもどかしい……が、今は待つしかない。


「俺が危惧するのは再び旅に出た場合……その事実から良からぬ噂を立てられないか、だけど」

「陛下がフォローするつもりのようだ」


 クローディウス王には申し訳ないな。


「ルオン殿が気に病む必要はないぞ。ルオン殿には成すべき事がある……だからこそ、私達ができる限りの支援をする」


 バールクス王国が後ろ盾になってくれるのはありがたいけど……ま、王女と婚約関係になるのだ。このくらいのフォローはある意味当然か。


「ただし、だ」


 ここでエイナが口添えするように語った。

「一応、ルオン殿としても婚約者として、またこの国に籍を置くことになる以上、ルオン殿自身協力姿勢を見せているポーズもあった方がいい」

「なるほどね。俺としては別にいいけど、具体的には?」

「……少し話は変わるが、ルオン殿は、現在城で過ごすのは息苦しいだろう?」


 俺は素直に頷く。部屋を出て歩けば呼び止められるような状況なので、正直引きこもるのも一つの選択肢か、などと考えているのだが……あんまりそういうことをするのも、体裁が悪いかなと思ったりもする。

 現状間違いなくストレスを受けている……それは肉体的な要因ではなく完全に精神的なもの。


「ルオン殿がどういう風に感じてるのかはおおよそ理解できる。こちらもその辺りについて色々考慮はしたい……そうした中でポーズを見せるというのはこちらとしても申し訳ないのだが」

「いや、やることがあるなら気が紛れるし……それで、内容は?」

「簡単に言えば、ルオン殿の力に対し興味を持っている騎士が多くてな」


 あ、なんとなくわかった。


「剣の訓練でもすればいいのか?」

「平たく言えばそうなる」

「うーん、技術的なところは微妙だぞ? 俺は小さい頃から鍛錬してきたけど、騎士の剣術とかの方が技術的には洗練されているような気もする」

「いや、総合的な力を見たい……といってもルオン殿が本気を出せばこの城そのものが吹き飛ぶくらいになるだろう。その一端でもいい。騎士に見せてはもらえないだろうか?」


 ……まあ体を動かすし、気が紛れるのは事実かも。それに騎士に指導したっていうポーズにもなるし。


「わかった、いいよ」

「ありがとう、ルオン殿。それでは早速――」






 というわけで、俺は騎士と向かい合って少しばかり剣を振る。手に封じ込めてある剣を用いるのではなく、支給された物を使っているのだが……圧勝である。


「はああっ!」


 と、相手の気合いを入れた声が城内にある訓練場に響く。周囲には戦闘を見守る騎士や兵士の姿。見学は自由にしてあるのだが、ここに来た時と比べ人数も増えている……なおかつ誰もがキラキラと目を輝かせている。


 現在は戦っている騎士は……年齢は俺よりもちょっと上くらいかな? エイナによると将来有望な騎士の一人らしいが、俺は難なく攻撃をさばく。

 周囲の人々はこのくらい英雄ならば当然だろって感じなのだが……うーん、体を動かせば気だって紛れるかと思ったのだが、別の意味で神経を使うことに戦い始めてから気付いた。


 身体強化などすれば、目の前にいる騎士の剣は正直止まって見えるくらい。鋭い剣戟も俺なら容易に避けられるし、反撃することも簡単。

 ただ剣術面は……放たれる突きや斬撃はどれもこれも洗練されている。そこには絶え間なく鍛錬を積んだ結果が現れており、例えば刺突はもっとこうした方がいいとか、技術的な助言はおそらく無理。


 騎士からの一閃を俺は後退してかわす。相手は一太刀も当たらなくて、どうにかして一矢報いようとしているのだが……残念だが無理だぞ。

 放たれた剣を軽く弾く。途端に小さく呻いた相手は腕が痺れたか一度剣を引き戻した。そこへ俺は間合いを詰める。


 一瞬の動作。相手は咄嗟に対応できず、こちらの剣が、その狙いを定め――首筋に刃を突きつけた。

 あっという間の出来事。周りの騎士や兵士からすれば目の前の彼は隙のある動作には見えなかったかもしれないが、俺にとっては余裕だった。


「……さすが、ルオン様です」


 騎士が称賛の声を発する。


「私達が手の届かない領域に達している……凄まじいの一言です」

「どうも」


 感服した様子の騎士。とりあえず失望させるようなことにはなっていない。


 正直技術について突っ込まれると不安なんだけど……ひとまずどうにかやれている。騎士の剣術はさすがと思うこともあり、こちらに放たれる剣は鋭く気を抜くと危なそうだなと思ったりする。まあこれが実際の戦闘であったなら俺はノーダメージなので問題はないんだけど

 とはいえこっちが内心冷や汗かいていることは気付かれていないらしい……ボロは今のところ出ていないけど、長時間やるとどうなるかわからない。


「では、次」


 エイナが言う。俺との対戦を申し込む人間が殺到したので彼女に順番なんかを任せているのだが……と、こちらを見た。ちょっと申し訳なく思っている様子。

 たぶん顔を見せてちょっとデモンストレーションとかやる程度を想定していたのかもしれないけど、予想以上の反響だったのだろう。ま、彼女の見立てが甘かった。仕方がない。


 さて、気を取り直して……次に現れたのは上背で俺を上回る男性。肩幅も広く、なおかつ俺と年齢がそう変わらないであろう彼は、結構格好いい。


「――ノーク=ロデストと申します」


 丁寧に自己紹介。俺が「どうも」と応じると、彼は剣を抜き、


「無礼を承知で申し上げます……もし私が勝負に勝ったのなら、少々話をしてもらえないでしょうか?」


 ん、話か……するとエイナが「待った」と呼び掛けたが、俺はそれを手で制した。


「内容にもよるな。個人的なことか?」

「はい。無論、王女やルオン様に危害を加えるような内容ではありません」


 ……なんとなく、興味を持った。反発もあるだろうこの舞台で、俺に要求か……。


「ああ、わかった。いいよ」


 俺は同意。ノークは「ありがとうございます」と応じ――戦闘が始まった。


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