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賢者の剣  作者: 陽山純樹
王女との旅路

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声の主

 声がした瞬間、俺を含めた全員が視線を転じる。ボスが存在していた奥、そこにいつのまにか男性が立っていた。


 銀――というより灰色の髪に、黒く禍々しい鎧。肩の部分は狼が口を開け叫ぶような姿を象った悪趣味な物。目は中々鋭く。黒い瞳はどこか濁りながらも俺達を称賛するような雰囲気を放っていた。


「強いね、君達」


 なおも呟く相手。間違いなく、目の前にいるのは魔族だ。そして、


「っ……!」


 ソフィアが短く呻いた。理由はわかっている。そう、こいつは――


「初めまして、かな。僕は魔王軍幹部の一人であるシェルダット。以後、お見知りおきを」


 慇懃な礼――こいつは、ソフィアの国であるバールクス王国を襲撃した幹部だ。


 まずい……ソフィアがこの場にいることで、王達が存命であるのを悟られるかもしれない。いや、アーティファクトを身に着けているから大丈夫なのか? それとも――


「魔族か」


 アルトが呟き俺達の前に出る。さらにイグノスも杖を握り締め、迎え撃つ構えを見せる。


「おっと、好戦的だなぁ」


 笑いながら話す――こいつはエイナが城に踏み込んだ時、ボスとして待ち受ける魔族である。シナリオ後半に出てくる敵であるため当然能力も高く、今のソフィア達で太刀打ちできるような相手ではない。


 さらにこいつは厄介な特殊能力を持っている……無論俺ならその気になれば瞬殺できるが、奴は俺の能力に気付くはず。ゲームでは高位魔族がやられる寸前、ほんの一瞬の間に他の魔族に情報を渡したというケースがあった。高位魔族で力を持つシェルダットならばそれも可能だろうし、情報がどこかに渡る危険性がある。

 そもそもこいつだって単独行動というわけではないだろう。配下の悪魔か魔族がどこかに潜んでいる可能性は高く……それを経由して魔王に報告がいくなんて可能性もある。


 リスクがあるため、現状全力は出したくない。けど、俺達を殺す気ならばやるしかない――


 その時アルトやステラが僅かに前に出る。するとシェルダットは笑みを浮かべ、


「なら、少しだけ遊んであげようかな」


 刹那、シェルダットの姿が――消えた。


 短距離転移……! こいつはゲーム上でも突如消えて別の場所に移動するという能力を持っていた。転移できる範囲はそれほど広くないようだが、少なくとも俺達のいる場所まで一瞬で転移することは可能な様子。


 ソフィア達が動揺する中で俺は相手を捉えようと意識を集中させる。もしソフィアに気付いているなら彼女を狙うかもしれないが――と思った矢先、気配を感じ剣を振った。


 ギィン――と、金属音が周囲に響く。場所はステラの背後――そこに出現し攻撃しようとしたシェルダットの剣戟を、俺が弾いた音だった。


「へえ、お兄さんやるね」


 称賛。次いでまたも転移し、さきほどまでいた位置に出現する。


「ふむ、少しばかり面倒だな。それにそこのお嬢さん達は厄介な奴を抱えている……疲れているし、ここは退散させてもらおうかな」


 シェルダットはソフィアやキャルンを見ながら言う……厄介な奴とは精霊のことだろう。レーフィン達に気付いているが、ソフィアのことに気付いたという様子はない。


「……さっきの魔物は、お前が生み出したものなのか?」


 ここで俺は前に出て問い掛ける。すると相手は頷き、


「そういうことだよ。ま、僕は形だけ作って……急激に成長するきっかけになったのはそこのお姉さんの短剣だ」


 シェルダットはステラを指差しながら告げる。


「彼女の戦いに興味はなかったから。退散するつもりだったんだけどね……しかし後続から君達がやってきた。だからちょっとばかり遊んだわけだ」

「……根の再生速度は、お前の仕業ってことか」

「そういうこと」


 答えると同時に小さく欠伸をする。疲労しているという言葉は本当のようだ。


 俺達が来たからこいつは介入したということで間違いない……それなら根の再生速度も頷ける。

 さらに現在のシェルダットに戦意はなく、またソフィアのことや俺の能力を察している雰囲気もなさそうだ。もっとも、この辺りは今後使い魔で確認する必要はあるが……。


「さて、どうする?」


 シェルダットは問う。アルトやステラはなおも戦う意思を示していたが……やがて、剣を下ろした。


「いずれ、剣の錆にしてやるよ」

「楽しみにしているよ」


 どこか嘲るような声音を残し――その姿が消えた。


 それと同時に息をつく。場合によっては俺が全力で戦う必要があったのだが……どうにか回避することができた。さすがに現段階で俺の能力が露見するリスクは取りたくないからな。


「……しかし、ずいぶんと悠長な魔族だったな」


 アルトが剣を鞘にしまいながら口を開いた。


「魔物を倒したというのに、俺達には興味無さそうな雰囲気だった」

「……もしかすると、私達を警戒したのかもしれません」


 ここで声を発したのはレーフィンだった。彼女は姿を現すと、俺達に言及する。


「口上からも、私達の存在については気付いていたのは間違いないでしょう。契約者を倒すことができても、私達の反撃がくる……だからこそ、ここは退いた」


 ――シェルダットは表情に出さなかったが、契約する精霊の力強さを感じ警戒したのかもしれない。ソフィアはシルフの女王にノームの王が推薦した精霊と契約している。疲労があることに加え、レーフィン達を警戒した……そういうことなのかもしれない。


 ただレーフィンがシルフの女王であることを察知したのかはわからないが……この点においても使い魔を派遣して注意深く観察する必要があるな。もし露見していた場合は、レーフィンと相談した上で動くしかない。


「なるほどな。ということはあんた方に感謝しないといけないな」


 アルトは言う。俺は「必要ないさ」と首を振りつつ答えた後、ソフィアに視線を送った。


「大丈夫か? ソフィア」

「はい」


 表情は硬いまま。城に乗り込んできた魔族である以上、当然だろう。

 その辺りについてはこの場で話すとまずいので、後だ……考えているとアルトがさらに声を発した。


「おそらく、今後こういう魔族が影響する場所が大陸各地に増えるんだろうな」


 ――彼の言う通り、ゲームも中盤以降ギルドに舞いこむ依頼がこうした魔族の仕業によって発生した問題の比重が増してくる。

 なおかつ、この森だってギルドの依頼で強力になった魔物と戦うため訪れる可能性がある……背景画とかは使い回しのパターンが多いけど、ダンジョン構造が変わっていたりするので甘く見ていると痛い目に遭う。


「ともあれ、この場にいた魔物は倒せたみたいだし……帰るか」


 さらにアルトは言う。この状況で遺跡を探す気はないようだ。


「そっちの人達とも話がしたいしさ」


 なおかつそんなことを言ってくる。俺はなんとなくソフィアとキャルンへ視線を向ける。二人はどっちでもいいという雰囲気で小さく頷いた。


「……わかった。こうして出会ったのも何かの縁だ。色々と付き合おうじゃないか」

「おう、よろしく」


 アルトは言い、森を出るべく歩き出す。それに追随し――俺達は、町まで戻ることになった。






 町へ戻り食事を行うべく酒場へ。男性と女性とで分かれてテーブルにつき、俺は旅についての説明を行う。さすがにソフィアのことについては話せないので、森でも語った通り個人個人に理由があるという感じで話した。一方アルトは、


「俺は魔王が襲来してきて遺跡の検証がやりやすくなったから、これ幸いとばかりに色々各地を回っているところだ」

「妹さんも同じような感じだろうな」

「だな……ただあの森の遺跡は出ていなかったらしく外れだったみたいだが……しかしまあ、今回のことでそんな悠長にしていていいのかな、と思ったりもしたけどさ」


 ビールを飲みながらアルトは言う。ちなみに俺は単なるミルク。


「アルトさん、一ついいか?」

「ん? どうぞ」

「イグノスさんとはどういう経緯で?」

「ちょっと彼に関する仕事をやって、以後つるむようになったって感じかな」


 彼を仲間にするための依頼をこなしたってことか。


「イグノスはルオンさん達と同じように魔物とかを退治したいって思っている人間でさ。俺の目的は遺跡探索だけど、それによって魔物も倒すことになるって話で、ついてきているんだよ」


 なるほどなるほど……ちなみに彼の能力だが、森の奥まで到達したということは、ソフィアと同格くらいの成長は見せていると考えていいだろう。


 このまま順調にイベントをこなせば、いずれは五大魔族と戦える能力を……五大魔族の強さは基本、シナリオの進み具合によって変化する。彼らの居城にいる魔物達は全て五大魔族達が作り上げたものなのだが……彼らの目的は大地に楔を打ち込むこと。序盤はその作業に集中しているため、通常よりも弱体化しているという設定となっている。


 だが最低ラインというものは存在している。レベル的に、中級技なんかを覚え始めたくらいの段階じゃないとつらいが……ソフィアやアルトがそのレベルに到達するには、もうひと踏ん張りといったところだろうか。


「なるほど……わかった。目的は違うけれど、頑張ろうじゃないか」

「ああ。とはいえ今回のことで色々思ったこともあるし、今後どうするか……」


 彼は呟きつつ妹のステラを見る。彼女は別のテーブルでソフィアやキャルンと談笑している。


「妹さんはどうするんだ?」


 問い掛けると、彼は肩をすくめた。


「俺が何かを言って止まるわけがないからな……さっき話したけど、当分は俺達と行動するってことにしたよ」


 ――アルトの妹ということは、それ即ち彼女もまた賢者の末裔だということ。あの森に単身踏み込んで魔物をあしらっていたことを考えると……シナリオ開始の段階で妹が兄より強いというような話はなかった。よってゲームで仲間にはならないが、アルトと同様高い成長能力を所持していると考えていいだろう。


 二人で行動する……これについてはどう考えるべきか。ふむ、彼らの様子は使い魔で確認するべきだろうな……胸中で考えつつ、俺はアルトと語らい夜は更けていった。

 魔族と遭遇するという出来事があったため観察する事柄が増えたが……それでもステラを救うことができた事実が、俺の心を軽くした。




 だからなのか――俺は、翌日の出来事を驚愕で迎えることとなる。


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