それぞれの道
魔法陣を利用し到着したのは、この大陸の玄関でマータッド大陸スタート地点の港町。潮騒が香るこの場所で、まずは用件を済ませる。
この町に到着して最初に訪れた時と同様、エーネと会う。彼女には俺達の目的を達成できたことに加え、アナスタシア公爵へ手紙を渡して欲しい旨を伝え、屋敷を後にする。
そうして俺達は船に乗る……いよいよシェルジア大陸へ戻る時がきたのだ。
「遺跡の転移から、大変でしたね」
船が出発し陸地が遠くなるのを見ていると、ソフィアが近寄り声を掛けてきた。
「ナーザレイド大陸の出来事はかなり火急の状況でしたし、この大陸においても流れるように堕天使と戦うことになりました」
「ま、どちらも俺達が関わるべき問題だったと思うし……これで良かったと思うよ」
そう言いながら俺は目線を彼女へ。
「バールクス王国へ戻ったら、色々と話し合うことになるとは思うけど……少しくらいはゆっくりしてもいいかなと」
「ゆっくり、ですか」
「ああ。ここまで戦い続きだったわけだし……それに、急ぎの旅ってわけでもないからさ」
――少なくとも、別大陸で騒動が起きるまでは。
前世で俺が死ぬ前、この世界――『エルダーズ・ソード』のシリーズで新作が出ようとしていた。それはシェルジア大陸のエピソード『スピリットワールド』と、ナーザレイド大陸のエピソード『エデン・オブ・ドラゴンズ』に続く作品……三部作の最終エピソード。
少なくとも、そのエピソードが終了するまでは神とやらの介入もおそらくない――というより、現段階で干渉はしてくるがそれは条件などが必要。おそらくだが神自体は動けず、人間などが干渉したことにより、神が動き出したと考えるのが妥当。
その最終エピソードで、神が動くきっかけを生み出すのではないか……そんな風に俺は思っている。
よって、当該の大陸について情報を集め、問題ないか確かめればいい……とにかく現段階ではまだまだ力が必要。まずはそこを解決しないと。
「――色々と思うところはあるだろうけど、神霊や天使といった心強い味方ができた。神という存在の調査などはそっちに任せ、俺達は俺達のことを整理し、次の戦いである魔界へ行くため英気を養うべき、かな」
「そうですね……」
口元に手を当て考え込むソフィア。その所作に俺は首を傾げ、
「何かあるのか?」
「ああいえ……大丈夫です」
さらに問おうとしたのだが、ソフィアは話を別にやる。
「ルオン様、一度帰郷などされてはいかがですか?」
「帰郷、ねえ……」
――両親については魔王との戦いの後、故郷の国の王様なんかに保護を頼みそれが実行されている。元々没落貴族だったので大丈夫かと不安もあったのだが、英雄扱いされてる俺の両親ということで、厚遇されているのが現状だ。
両親のところに顔を出すのは確かにアリだけど……あ、そういえば。
「そうだ、やっておかないといけないことがあった」
「ルオン様? どうしましたか?」
「いや、ちょっと……ガルク」
『どうした?』
右肩にガルクが出現。
「実は魔王を倒した後、やろうと思って実行していなかったんだけど……修業時代に集めた素材とかを故郷の近くに隠しているんだ」
『ほう、素材か』
「天使とかと手を結んだわけだから、それらを使って武具を作ってもあんまり意味はないかもしれないな……ともかく、それらの素材は現在も同じ場所にあるんだけど、ガルクのすみかとかに移動できないかなと思って。有効活用してもらえれば」
『我は構わんぞ。森まで来てくれれば召喚術で素材などを引き寄せられるだろう? そこで私が預かろう』
「なら、そういうことで」
これについては故郷に帰らなくてもいいけど、どうするかな……と考えたところで、先ほどソフィアが口をつぐんだことが気になった。
「ソフィア、何かあるのなら今のうちに言っておいてくれた方が」
「あ、はい、そうですね……簡単に言いますと、私はゆっくりするのは難しいかな、と」
「難しい?」
聞き返した直後、俺は察した。
「あ、そうか……王女の帰還だからな。さすがに他の人が放っておかないか」
「はい。あ、別に戻りたくないと言っているわけではありません。ルオン様の言うとおり、一度国へ帰りお父様とも話をすべきとは思っています」
「けど、体を休めることは難しいと……うーん、魔界へ行く準備をする間くらいは体を休めておいてほしいところだけど」
――ただ面と向かって話をして、ソフィアの父親であるクローディウス王が認めるかどうか。今までの旅も俺の事情を理解しソフィアと共に旅を続けてきたけど……今回はどうなのか。
「その辺りのことを含めて、王様と直に話をしないと」
「ルオン様が直に、ですか」
「一度色々と話をする機会を設ける必要はあったし」
というわけで決定――そこで、俺達に近寄る人影が。
「お、ルオンさん」
「アルトか。船を見て回っているのか?」
「そうだ」
頷きながら彼は頭をかく。彼や彼の仲間であるキャルンやイグノスは大陸へ戻ったらどうするのか……その辺りを確認しておくいい機会だな。
「アルト、大陸へ戻ったらどうするんだ?」
「今までのように旅を続けるさ。けどまあ、堕天使との戦いに関わったことで、その旅の内容については変わるかもしれないが」
「……別に俺達のことについて首を突っ込む必要はないぞ?」
「迷惑か?」
「いや、そういうわけじゃないけど」
先の戦いのことを踏まえれば、戦力としても頼りになるのではないか。
「なら、それでいいだろ」
「……いずれ俺達はさらなる強大な存在と戦うことになるかもしれない」
「それほどの敵がこの世界にいると?」
「現段階では神霊なんかが調査中だ」
「そっか……何かあったら是非とも連絡してくれよ」
アルトとは、またいずれ共に戦うことがあるかもしれないな。
「キャルンやイグノスも同意しているのか?」
「もちろん。キャルンも今回のことが結構大きな自信になったみたいだ」
あれだけの敵と戦ったのだ。今回のことは彼女達にとっても大きな糧となっただろう。
「イグノスは、堕天使との戦いではあまり活躍できなかったと嘆いているが……だからこそ、思うところがあったみたいだ」
「……今はまだアルト達の力を借りる必要はない。でもいつか協力を頼むことになるかもしれない……その時はよろしく」
「もちろんだ」
にこやかに応じるアルト。その直後甲板にキャルンとイグノスが現れた。
アルトが手を振ると、彼女達が近づく。そこでアルトが一連の事情を説明し……キャルンは、
「次はもっと役に立てるよう頑張るよ」
「いや、絶対関わる必要はないからな?」
「ここまで一緒に戦ったんだから、色々と知る権利だってあっても良いと思うし」
なるほど、その辺りの情報が欲しいってことか。
まあ彼女の主張もわからなくはない。アルトも「そうだな」と同意しているし……。
「ということで、次会うとき楽しみにしてなよ」
「ならこっちも色々と頑張らせてもらうさ」
そう応じる……今回の戦い、エイナもそうだが魔王との戦いで共に戦った面々が強くなり、それが将来役立つ時が来るかもしれない……そう思うと、本当に今回の戦いで得た物は大きかった。
それからしばらく雑談を行い、解散となった。アルト達が三人揃って歩き出した後、次の大きな問題についてどうするか考える。
「ソフィア……エイナについてだけど」
「こちらに来ますね」
ソフィアの発言。見ればエイナが無言で俺達へ歩みを進めてくる光景があった。




