宴の終わり
アランとの騒動を終え、いよいよ俺達は帰還することになった。宴については目的を果たした以上、もう用はなかったんだけど……宴の期間も終わりを迎えようとしていたこともあって、結果だけ見ることに。
一位であったアランについては失格扱いとなったため、そこからは激戦だったらしいが――最後にトップに躍り出たのは、セルガだった。
「あの後、さらに魔物を狩る勢いが増したって話だぞ」
最終日、宴の管理を統括する国の首都で、盛大な祭りがあった。そこでクオトが俺に先の解説をした。
「俺も堕天使と戦ったことで、色々と思うところもあった……セルガは全然表情には出さなかったが、ああした強大な敵に対抗するために、もっと強さを身につけなければ、って思ったのかもしれん」
「そうか……」
宴の上位者が、中央広場に設置された舞台で祝福を受ける。ちなみにクオトも上位者なのだが、セルガやディーチェに全部押しつけてこっちへ来たらしい。
「ま、今回の戦いで俺の色々と考えることはあったよ」
「……俺達は帰るけど、そっちはどうするんだ?」
問い掛けにクオトは意味深な笑みを浮かべる。
「ああ、それなんだが――」
口が止まる。何事かと思った矢先、こちらに近寄ってくるディーチェやセルガの姿が。
「お、もう終わったのか?」
「大体は。まったく、そっちが抜け出してこっちが大変な目に遭った」
ディーチェが不満をこぼす。それにクオトは笑い、
「だけどほら、悪くはなかっただろ?」
「……まあ、な」
肩をすくめるディーチェ。同じような気持ちなのか、セルガも苦笑を浮かべていた。
「さて、ようやくお祭りの主役も舞台に上がらずに済むようになったわけだが」
仕切り直すようにクオトが言う。
「ルオンさん、さっきの続きだ。俺達三人は、これからも天界……いや、天界の長であるデヴァルスさんと共に戦っていくことに決めた」
「天使達と?」
「人間側で、俺達みたいな堕天使と戦った戦力が欲しいらしい。ま、今後堕天使なんてものが生まれるかどうかは知らないけど、警戒はしておきたいらしいぞ」
――それはきっと、いずれ来るかもしれない『神』との戦いに備えて、という話なのかもしれない。
「俺としてはあんな戦いもあったし、もっと精進しないととか思ったりもしたからな。またいつかルオンさんとも再会できるかもな」
「再会、か」
「国に帰るって言っても、結局は旅を続けるんだろ?」
――そこは間違いない。だから素直に頷いた。
「宴の上位者ということで、大陸内の国とも多少関わることになる」
次に話し始めたのは、セルガ。
「中には色々と言ってくる人間だっているかもしれないが、ひとまず天界と手を組んで動こうと思っている」
「というより、その方がよさそうだ」
ディーチェが続く。俺も同意し頷いた。
「そうだな、国と変に関わると面倒なことになりかねないし」
「……ルオンさんとは、近いうちに会えそうな気がするな」
予感めいたセルガの発言。俺は「どうだろうな」とだけ返した。
もし――彼らがデヴァルスの下でさらに強くなり、天使と肩を並べるようになったら……『神』に挑む際、並んで戦うようなことがあるかもしれない。
「ところでアランについては、本当に無視していいんだな?」
確認するようなクオトの問い。彼らには「力をある程度封じたが逃げられ、天界側がそれを追っている」という説明が成されている。彼が所持していた『霊喰らい』は既に天界の倉庫の中だし、説明内容自体間違いというわけでもないだろう。
彼については……俺だってどうすることもできない。よって、
「ああ、ここはデヴァルスさんに任せていいよ」
「そっか……なら遠慮なく今後も強くなるために動きますか」
「宴が終わっても、魔物の巣に入って鍛錬か?」
質問に三人同時に頷いた。そして代表して口を開いたのはセルガ。
「当然だ」
「三人の活躍が聞こえることを楽しみにしてる。それと三人に出会えて、俺達としても良かった」
色々と、彼らから学ぶこともあった……堕天使との戦いを通して体得した技術は、今後の戦いにおいて確実に役立つことだろう。
「そう言われてもらったらこっちも嬉しい」
セルガが言う。ディーチェやクオトもうんうんと頷き、俺は笑みで応じた。
「三人とも……死ぬなよ」
「もちろんだ」
クオトが返答し――祭りの夜も更けていった。
堕天使にまつわる騒動が終結し、さらに天使達が開催した宴も終わった……これでもうこの大陸でやることは完全になくなった。
「転移魔法はルオンさん達が利用した港へ行くようにしてある」
そうデヴァルスは言う――場所は天界の宮殿。荷物をまとめ、旅立ちの朝だ。
「最後に、改めてルオンさん達に感謝を。堕天使の戦いが天界を揺るがすことなく乗り越えられたのは、紛れもなくルオンさん達のおかげだ。以降も旅を続けるみたいだが、もし何かあればその協力は惜しまなくさせてもらう」
「武具については、頼んだ」
「任せとけ」
俺の言葉にデヴァルスは自身の胸をドン、と叩く。
「ただ、今後神様とやらを相手にしていくためには……天使という枠組みにとらわれてはまずい気もする」
『それは同意だ』
ガルクが右肩に姿を現す。
『ここまでの旅路で、精霊、竜、天使と力ある者達が集う下地ができた。我らが集まり、結集できるよう態勢を構築するのもいいかもしれん』
「そうだな……ガルク殿、とはいえ大陸が違う以上、色々と考慮する必要もあるだろう」
『うむ、まずはそこからだ。現在この分身は本体と記憶を共有できていない。だがシェルジア大陸に戻ることができれば、記憶を本体へ移動できるので、何か手法を構築できるだろう』
「あとは竜側だな」
『それもさして問題にはなるまい。ルオン殿』
「ああ、そうだな」
この大陸で最初に訪れた場所は、アナスタシア公爵の知人であるエーネの屋敷。公爵へは手紙をしたためたので、彼女を介しそれを渡せば、あっちから連絡を取ろうと動き始めるだろう。
「帝国の皇帝とも知り合いだし、やりようはあるな」
「さすがルオンさんだな……よし、こっちはやることが決まった。そっちも頑張ってくれ」
デヴァルスは言う――が、俺やソフィアはともかく他の面々はどうするのか。
リチャルやロミルダについてはついてくる可能性が高いけれど、エイナやアルトは……戦いが終わって以降もバタバタしていて訊く機会がなかったからな。この辺り、大陸へ戻る間に一度確認しておかないと。
「戦士達よ、また元気な姿で」
最後にデヴァルスが言う。横にいるネルやリリトは笑みを浮かべ、俺達に綺麗な一礼をする。
そうした中で、俺達は魔法陣へ足を踏み出した。先にエイナやアルト達――そしてリチャルやロミルダが消え、俺とソフィアだけが残る。
そしてソフィアも魔法陣に足を踏み入れ、光の中へ――最後になった俺は、ここで振り向いた。
「……ありがとう、そして今後もよろしく頼む」
「ああ」
デヴァルスは笑う。それを最後に俺も魔法陣の中に入り――天界を後にした。




