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賢者の剣  作者: 陽山純樹
王女との旅路

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現れた戦士

 魔物にはソフィア達がきっちりダメージを与えたようだが、まだまだ健在。そして警戒したのか根を本体周辺に張り巡らせ、防御の姿勢を見せる。


「壁を形成したか」


 俺は言う。とはいえ根の能力が変わらない以上、ソフィアの魔法でも消し飛ばすことができるはず。たださすがに一撃というわけではないだろう――ここは援護して壁も俺が担当するかな。


 そう思い指示を送ろうとした寸前、ソフィアが口を開いた。


「もう一度攻撃するにしても、もう少し火力か、戦力が欲しいですね」

「確かに」


 彼女の言葉にキャルンが同調。仲間達が険しい表情を見せた時……変化が起きた。


「これは……」


 後方から男性の声。振り向くと。そこには二人の人物がいた。


 一方はステラと同様冒険者風の……革製の鎧に身を固めた茶髪の男性。武器は長剣だがやや大振りで、大剣系の武器であることを俺はすぐさま理解する。

 もう一方は神官服を着た杖を持つ男性。黒髪に上から下まで青一色の格好はこの森の中でずいぶんと浮いているように見える。


 ――茶髪の男性こそ、主人公の一人であるアルト=ムーンレイト。そしてもう片方の男性が『神聖魔法』を扱うことのできる神官、イグノス=アルヴァンである。


「――ステラ!?」


 そして兄であるアルトが妹の存在に気付いた。途端、ステラはばつが悪そうな顔をして、


「あ、兄さん……」

「お前、こんな所で何を――」

「ちょっと待て。会話は後だ」


 俺が割って入る。そこで彼は俺を見た。


「あんたは?」

「この森の魔物を倒そうと動いている冒険者だ。えっと、彼女はあなたの妹なのか? 俺達三人がここに来たら、彼女が一人で挑んでいてさ」

「……ステラ」

「怒らないでよ」


 喧嘩しそうな雰囲気。俺はそれを抑えつつ、目の前の魔物を指差す。


「今はあいつを倒す事に集中してくれ……先ほど攻撃は加えた。とはいえまだまだ健在で、一気に決着をつけるには数がいる」

「わかった」


 アルトは剣を構え、魔物と対峙する。


「とりあえずヤバそうな相手だからな。協力するさ」

「……ソフィア、キャルン。彼と共に攻撃を」

「わかりました」

「了解」


 二人は応じ武器を構える。さらにステラも動く構え。その間にも根が壁を形成し、支配領域を再度広げる。


「俺が根を破壊して道を作る。四人の猛攻で一気に方をつけてくれ」

「援護します」


 イグノスも応じる。俺は小さく頷き、全員を一瞥する。


 果たして集中攻撃で倒せるかどうかわからないが……もしもの場合は俺が援護して魔物を撃破すればいい。それはあくまで最終手段なわけだが、ソフィア達が無事であることが優先だ――改めて決心し、魔法を放つべく腕をかざす。


 俺は『フレイムニードル』を使用し、地面を這う根を一気に破壊する。それにより一気に道ができ、アルト達は一気に魔物へと駆ける。

 さらに同様の魔法を使用し、本体を守るべく壁となった根も破壊する――そこでタイミングよく、四人が本体へ迫った。


 攻撃が開始される。手始めに放たれたのはソフィアの『火炎斬り』で、次いで放たれたのがキャルンの『ソニックスマッシュ』。

 さらにアルトが動き、放ったのは大剣下級技『斬空剣』。下から上のすくい上げの斬撃で、僅かながら衝撃波が生じる単発技だ。


 そしてステラがトドメと言わんばかりに剣戟を加える。ここで俺は周辺で再生し始める根に対し『フレイムニードル』を放って駄目押しをする。

 四人はさらに攻撃を加える。ゲームではダメージを受けようとも構わず反撃してきたのだが、花弁は動かない――というより動けない様子。より正確に言えば、攻撃するタイミングでソフィア達が動きを鈍らせていると言えばいいだろうか。


 このまま押し切れると確信した俺は、四人の障害となりそうな根を魔法で撃破していく。さらにイグノスも『ホーリーショット』でそれを援護し、やがて――


 魔物のくぐもった声。いや、植物である以上声なんて出せないはずで、それは力を失い崩壊していく音だったのかもしれない。

 根も朽ち始める。終わったと思うのと同時に、ソフィア達も戻ってくる。


 全員が距離を置いて固唾を飲む中……イビルフラワーは、枯れるようにその姿を小さくし、やがて消滅した。


「倒した、か……」


 アルトが声を発する。それから程なくして、俺はソフィアに首を向ける。


「……すまないな、妹を助けてもらって。俺の名前はアルト=ムーンレイト。こっちは仲間のイグノス=アルヴァン」

「俺はルオン=マディン。で、彼女は――」


 互いに紹介を終えた段階で、俺はあることに気付いた。魔物の本体が存在していた場所。そこにキラリと輝く物が一つ。


「あ……」


 ステラは呟き、それに近づく。すぐさま拾ったそれは、どうやら飲み込まれた短剣らしい。


「見つかったけど、魔力は無くなったみたい」

「あれだけの魔物が出現したくらいだから当然だけど……そんなに貴重な物なのか?」

「……あ、それは俺達が最初に潜った遺跡で発見した」

「初心を忘れないようにって意味でずっと持っていたんだけど」


 ああ、なるほど。そういうことか。最初に手に入れたからこそ大事にしていた……ゲームでは飲み込まれてしまったけど、現実世界となった今、助けることができた。


 そして、周囲の霧が少しばかり晴れてくる。元々霧が溜まるような場所であるため完全に晴れたというわけではないが、おそらく瘴気の影響でさらに濃くなっていたんだろう。


「この周辺のボスは倒したってことでいいだろうな」


 俺は一つ呟き、ソフィアとキャルンへ視線を移す。

 二人のレベルも十分上がった……まだ中級レベルの技を覚えたわけではないが、もう少し修行すれば習得することになるだろう。


 そしてイベントの目標も達成。ただ疑問は残っている。ボスは猛攻を仕掛けたにしろゲームと比べずいぶんともろいような気がした。これはステラを取り込んでいないためだと考えられるが、だとすれば根の再生能力はどう解釈すれば……周辺を調べて解明できるのかわからないが、やっておくべきだろう。


 またアルトと鉢合わせるするに至ったわけだが……この辺りは様子を見るべきだろうか? まあここで縁が生まれたのは事実なので、町に戻って話をしてみるのもいいか。


「そちらは、何か目的があってこうした森を訪れたのか?」


 アルトが尋ねてくる。それに俺は肩をすくめ、


「一応、な。俺達はそれぞれ理由を抱えて魔族と戦おうとしている。そのため、こういう森に存在する魔物達と戦っているというわけだ」

「魔族と……そうか」

「そっちは? 遺跡って言葉を聞けたってことは、トレジャーハンターなのか?」


 問い掛けるとアルトは「そんなところだ」と答え、


「けど、日に日に強くなってくる魔王の影響に思う所はあったさ……なあルオンさん。魔族の中には居城を構える奴もいる。そういう魔族に挑もうって話なのか?」

「どうするかはまだ考えていないが、魔族と戦っていくのならその可能性もゼロじゃない」


 肩をすくめる俺――この近くに、確かに五大魔族であるレドラスの居城が近くにあるのは事実。だがとあるイベントがなければ入れないはずだった。


 他の五大魔族もそうだ。倒す順番は自由だが、特定のイベントが発動しない限りは次元の歪みから五大魔族は出てこないという設定だった。これは奴らの目的が人間の直接支配というより、大陸に存在する大地や大気中の魔力を支配しようと動いているからである。


 五大魔族の目的は、大陸に魔族の力によって魔力の楔を打つことである。これは五人の主人公がそれぞれ五大魔族を倒した場合発動する魔法と関係している。五大魔族が打ち込んだ魔力は魔王が放つ破壊魔法と呼応し、大陸全体を崩壊させる程の威力を生み出す。現在は人間や精霊を足止めしつつ、魔法を発動させるための準備をしている段階。


 ただ、主人公一人が五大魔族を倒した場合は発動しない。理由としては魔王が魔法を発動する時、五大魔族から賢者の力を手に入れた主人公が、その魔法を無効化してしまうから。五人それぞれが攻略した場合は力が結集していないためこうはいかない。よって、魔王が大陸を壊滅させる魔法を使えるというわけだ。


 現状、五大魔族に関するイベントは発動していない。一度町に戻ったらその辺り詳しく調べてもいいかもしれない――そんなことを思った時、


「まさか、やられてしまうとは思わなかったよ」


 幼げのある――仲間のものではない、男性の声が聞こえてきた。


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