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賢者の剣  作者: 陽山純樹
王女との旅路

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花畑の主

 体力を回復し、ソフィア達の進撃の勢いはさらに増した。


 レベルも十分上がっている……この調子なら、好調なフィリと肩を並べるくらいかもしれない……などと考えていた矢先、いよいよステラが最奥に到達する。なおかつアルトも順調に森を進む。このままいくと鉢合わせになるギリギリのタイミングだろうか。

 そして俺達も――どうやらタイミング的にはドンピシャだったようだ。


 森が途切れる。そこは森の中にぽっかりと存在する花畑、といった按配だが、霧が深く全体像が見渡せない。

 その中央に、植物系の魔物……巨大なイビルフラワーという名前の、ボスがいた。


「何あれ!?」


 さすがのキャルンも驚愕する……茎の部分が異常なまでに太くなり、その上に醜悪な血を連想させる赤い花弁が俺達に口を開けている。

 魔物の周囲の地面には紫色をした気味悪い根が這うように形成されている。その根は咲いている花達を侵食し、その支配権をさらに広くしている。


 そして――魔物の前に、女性が一人。


「あれは……!」


 ソフィアが呟くと同時、女性――ステラが駆ける。後ろ姿で確認できるのはショートカットの茶髪と、革製のショートパンツ。正直旅をするには不相応じゃないかというくらいの軽装なのだが、回避重視の装備であるとしたら、まあ考えられなくもない姿なのかもしれない。


 その彼女が、剣を片手に魔物へ突っ込む――どういう経緯なのかゲームでもよくわからなかったが、とにかく助けないと!


「俺が行く!」


 一方的にソフィアとキャルンへ告げ、俺は駆け出す。試しに呼び掛けてみるが彼女は無視し魔物が放った地中の根からの攻撃を避けた。

 こいつはソフィアが戦ったキメラプラントと同様動かない敵なのだが、大きな違いは周囲に存在する根にもHPなどが存在している点。魔物扱いで再生能力があり、放っておくと際限なく増殖していく。


 俺は一気に彼女へ接近し、彼女の真後ろへ到達する。そして、


「おい、待てって!」


 正面から魔物へ向かおうとする彼女の肩を抑えた。


「――えっ!?」


 するとステラは声を上げた。どうやら俺達の存在に気付いていなかったらしい。


 そこまで周囲が見えていない状況というのは、一体――考えながらも俺は彼女の体を無理矢理抱え、根の攻撃を避けた。もしかすると今ので彼女は根から一撃受け空中に吹き飛ばされ――あの花弁に飲み込まれていたのかもしれない。


 俺はソフィア達が立っている所まで離脱。こいつは魔法など遠距離から仕掛けない限りは、根の間合いから出ると攻撃しなくなる。とはいえ花畑は徐々に紫色の太い根に侵食されつつある。対処しないと、俺達のいる場所も奴のテリトリーになるだろう。


「大丈夫か?」


 彼女を下ろす。するとステラは黒い双眸を見据え「ありがとう」と言う。


「えっと……あんた達は?」

「ここにいる魔物を倒そうと思った、冒険者だ」

「同業者って感じじゃなさそうね。あ、私はステラ=ムーンレイト」

「ルオン=マディンだ。こっちは仲間の――」

「キャルン=バッフィよ」

「ソフィア……ソフィア=ラトルと申します」


 ソフィアの方は咄嗟に姓名を出したな……簡単に自己紹介をした後、俺は魔物へ目を向ける。


「自信があるのか知らないが、いくらなんでも正面から斬りかかるのは危険すぎるだろ」

「いや、ごめん。道具を飲み込まれて、我を忘れてた」

「道具?」


 聞き返すと、ステラは頷き、


「魔法の短剣……そいつをこいつが飲み込んで、ここまで巨大化した」


 ……なるほど、事情は理解できた。


 目の前のイビルフラワーは、ステラの持っていた魔力武器を吸収して活発になったのだろう。で、それを奪い返そうと彼女は単身挑み、飲み込まれてしまうというわけだ。


「突撃した理由はわかった。だけど魔物があんな調子である以上、もう短剣はあきらめた方がいいな」


 俺は言いつつ彼女を眺める。よく見ると体のあちこちを負傷している。その様子を見たソフィアは、彼女へ声を掛ける。


「あの、治療しましょうか?」

「問題ないよ。それより、短剣が奪われたってことならアイツを倒さないと気が済まない」


 闘争心剥き出しのステラ。うーん、これは色々と厄介そうだな。


 そういう経緯なら、この場を離脱しようと言っても聞かないだろう……その時、頭の中に使い魔から報告が入ってくる。


 アルトが近づいている……ただ、この状況下でステラを連れ離れるというのは、彼女の意向もあって難しそうだ。

 それに、浸食する魔物を野放しにもできない。ならば、どうするか――答えは一つ。アルトのメインシナリオに多少なりとも干渉してしまうが、彼女の存在に関係なくシナリオは進んでいた――やるしかない。


「あの根は危険だ。しかも徐々に侵食し続けている」


 俺はソフィア達へ告げる。語る間にも侵食は進み……ここで一つ気付く。ゲームの時と比べてもずいぶん早い。

 現実世界になったから……というのも理由にあると思うが、それでも俺の想定以上……ステラを取り込んでいない状態なので、ゲームの時よりも能力は低くなっているはずだ。それなのに――


 疑問に思いつつ、俺は言う。


「この花畑一帯を覆うかどうかもわからないけど、放っておくのはいくらなんでも危険だ。とはいえ今から近づくにしても、根をかいくぐらないといけない」


 ――俺の魔法なら、一撃で倒すことは十分可能。しかしこの戦いを魔族が見ている可能性というのはゼロではない。それが高位魔族であれば、俺の能力を把握されるかもしれない……ならば――


「俺が魔法で根を破壊する。道を作るから、ソフィア達は接近し本体を攻撃してくれ」

「ルオンさんは根を攻撃し続けるというわけ?」


 問い掛けはキャルン。それに対し俺は、断続的に出現し続ける根に注目。


「根の成長が相当早いが、俺なら素早く魔法を使い、本体と思しき花弁の所まで道を作り退路を確保することはできる。しかしこれだけの再生速度……不気味な根を絶えず攻撃し続ける以上、本体に構っている余裕はなさそうだ……ソフィア達に、そっちは任せる」

「――わかりました、それでいきましょう」


 ソフィアは言う。キャルンとステラも同意するように頷いた。


 さて……俺は詠唱を始める。根のHPはそこそこだが、推奨レベルで弱点の火属性魔法を行使すれば二発くらいで滅せる程度。俺の場合下級魔法の『フレイムニードル』なら、魔力を発露しないくらいの出力でも十分倒せる……とはいえゲームと比べその再生能力が段違いに早い。これは多少なりとも気合を入れないとヤバそうだ。

 そしてもし花弁に誰か飲み込まれそうになったら――その時は全力で助けに行く。


 戦闘が始まる。俺は『フレイムニードル』を使用。小さな炎がいくつも放たれ――周囲に侵食しようとした根を破壊する。


 さらに同じ魔法を使用。本体である茎や花弁への道を形成する。ただ焼いたそばから瞬時に再生し始めることに加え、左右からも俺達を取り囲もうと根が浸食してくる。よって魔法を断続的に使用せざるを得ない……これだけの再生能力。できれば解明したいところだな。


 ここでソフィア達が進んだ。三人が固まって破壊した根を踏み越え――そこへ彼女達を巻き込まないように俺がさらに魔法を使う。


 ソフィア達が本体の間近に迫る。こいつの攻撃手段は根と花弁部分。花弁の方は花粉のようなものを飛ばし毒状態にする攻撃なのだが、もし状態異常にかかったらすぐに魔法で治せばいい。


 そしてソフィア達が猛攻を仕掛ける。まずキャルンが短剣で流れるように薙いだ後、ソフィアが『ファイアランス』を放つ。そしてステラが一撃加え……それで沈むわけではなかったが、確実にダメージを与えることはできた様子。


 とはいえ、周囲の根が彼女達に迫る。俺が外から『フレイムニードル』を撃って退路を確保しているが、花弁からの攻撃もあるためか、ソフィアは叫んだ。


「一度、退きましょう!」


 言葉と共に、三人は同時に動き出す。俺は再生しようとしている根を吹き飛ばし……彼女達はどうにか根の範囲から脱した。

 それと共に、アルトが近づいてくるとの報告が。いよいよか――俺は胸中で言葉を発しながら、魔物を見据えた。


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