物語の世界
話し合いの場を小さな会議室に移して、俺達は議論を続行する。この場にいるのは俺とソフィアとロミルダ。別室で待機していたリチャルに加え、デヴァルスとアンヴェレート。
「確認だが、ルオンさんの事情についてはお仲間も知っているのか?」
――俺の前世や、物語として知っているという点についてだな。
「ああ、知っている」
「アンヴェレートは?」
「まだ語っていないけど……別に秘密にしているわけじゃないから、話してもいいよ」
「何? 面白いエピソードでもあるのかしら?」
アンヴェレートが告げる。瘴気などを消し人間モードの彼女であるため、威圧感などはない。
その問い掛けに対し、応じたのはデヴァルス。
「ああ、かみ砕いて言うと――」
俺の素性について簡潔に説明。すると彼女は興味を持ったようで、
「あなたにも複雑な事情があるのね」
「その一言で片付けられるのもどうだがな……話を進めるけど、アランの前世も似たような形だった。前世で知ったこととしてデヴァルスさんに伝えていたのは、前世の物語として把握していたから、ってことなんだろう」
「この物語について深く知っていたと」
「ああ。ただ彼がデヴァルスさんに語った内容が真実だとすると、現時点で物語と相当乖離しているはず」
これでは知識として役に立たないのでは……と思うのだが、それは『霊喰らい』を手に入れたことでチャラって解釈だろうか。
あとは目的の違いもあるだろう。例えば俺の場合は大陸を救うために立ち回っていたため、シナリオ通りの方が対応しやすいという面があったし、また賢者の力などの制約上、ゲームと同じ流れに沿う必要もあった。
反面アランはその目的が魔剣を用いての魔物の魔力吸収や、天使を始めとした膨大な魔力を抱える存在の力を奪うこと。つまり大陸がどのような結末を迎えようとも、彼にとっては小事なのだろう。
「そしてここからが重要な点。俺とアランとでは、どうやら転生前の世界が違う」
その言葉に一同沈黙するが――デヴァルスが目を細め、一番強く反応した。
「なおかつ情報の範囲も隔たりがある。例えば俺はこの大陸の現状については詳しく知らない。ただアランはこの戦いの行く末を知っているようだった。しかし俺のことは知らないと断定していいかなと思う。なぜなら俺と同じくらいの情報を持っているとしたら、俺やソフィア、ロミルダが現れた時点で反応してもおかしくない」
「知っていたのなら本来いないはずの人物がここにいる……って思うでしょうから反応があるはずですからね」
ソフィアが述べる。俺は深く頷いた。
「物語の上では、俺もソフィアも故人だからな……まあこの辺りについては戦いにそれほど関係なさそうだし、さほど気にしなくていいかな」
「ルオンさん達がいなければ、心底面倒なことになっていたな」
デヴァルスが肩をすくめた。確かにそうかもしれない。
「で、ルオンさんとしては気になっていることがあるよな?」
「ああ。この世界の物語っていうのは、どうやら俺の前世以外の場所にも存在していた……これは一体どういうことなのか?」
『可能性としては、一つしかあるまい』
ガルクの声だった。見れば俺の真正面に子ガルクが出現。
『まず確認だが、ルオン殿とアランとの世界に接点はないと考えていいな?』
「それは間違いない。アランの世界にはどうやら魔物に近しい存在もいたようだ。俺の前世はそんなもの存在していなかった……そもそも魔法や魔力という概念もなかった」
「魔法が存在しない、か」
口元に手を当てデヴァルスが呟く。
「ルオンさんの前世の世界がどんなものか少し気になったが……まあいい。俺もおそらく神霊さんと同じ見解だな」
『そう思うか』
「ああ」
「どういうことだ?」
尋ねたのはリチャル。そして答えはガルクから。
『ルオン殿自身、なぜこの世界に転生したのかわからないと語っていた』
「ああ。原因とか、そもそも調べられるのか疑問だったから放置していた」
『我はこう考える……発想が逆なのだと』
「逆?」
聞き返すと、ガルクは一拍置いて、
『つまりルオン殿やアランの世界……そこにあったこの世界の物語は、この世界側から何かしら干渉があって存在していたのではないか、ということだ』
――内容を理解するのに、少しばかり時間を要した。
『この世界の出来事を基にした物語は、ルオン殿やアランの世界による創作ではないというわけだ』
「ずいぶんと壮大な話になってきたわねえ」
どこか楽しそうに、アンヴェレートが言った。
「ただその過程だと、この世界の何かしらの存在は異世界に干渉できるだけの力を持っていると解釈できるわよ?」
『つまり、そういうことなのだろう』
「……目的は、何だ?」
俺はガルクに問う――答えが出ないにしろ、訊かずにはいられなかった。
「そうやって異世界で物語を紡ぐ理由は?」
『そこは判然としないが、物語を通してこの世界の出来事に触れることにより、ルオン殿が遭遇したような転生をしやすくなるのかもしれん』
「転生させるのが目的だと? 俺は事故で死んだんだが、それもまたこの世界からの干渉ってことか?」
『あくまで可能性の話だぞ。真相に辿り着くためにはまだ情報が足りん』
仮に事故で死んだ俺を意図的に転生したとして、ならなぜ俺を選んだのか――そういった疑問が浮かんだ時、推測がデヴァルスからもたらされた。
「ルオンさんやアランがこうやって転生したのは、転生を目論んだ存在のお眼鏡にかなったって話なんだろうな。ただどういう根拠なのかはわからん。魔力的な要素なのかと考えたが、ルオンさんの前世では魔法など存在しなかった。理由としては弱いかもしれないな」
……例えば物語を深くまで知っていたから? いや、俺くらいのめり込んでいる人間はたくさんいただろう。なおかつ今みたいに転生当初の物語以外にも色々やらせると仮定したら、より知識を持った人間だっていたはずだ。
『この世界へ呼び込んだ存在にも評価尺度は存在するだろう』
ここでガルクが語り出す。
『それについては我にもわからん。とはいえルオン殿やアランという戦士がこの世界へ転生してきたのは、偶然ではなく故意である可能性が高くなったわけだ』
「これもまた、神とやらが関係しているのかもしれないな」
デヴァルスが口元に手を当てながら告げる。
「というか候補になるのがそのくらいしか思いつかない」
「俺達は、地底に眠る神によって呼び寄せられたと?」
「現段階では推測でしかないが……異世界に干渉できるなんて、天使でも無理だからな」
――ここで俺は一つ怖い考えに至る。神とやらが異世界……例えば俺の前世の世界にすら干渉できるというのは、それはつまり前世の方にも魔法か何かで影響を及ぼすことができるということなのだろうか?
もしそうなら、今だって何かしている可能性があるのか?
「ともあれ、その目的については不明だな」
なおもデヴァルスが語る。
「そもそもこの世界に呼び寄せられた人間は、各々好き勝手に行動している。ルオンさんの場合は死なないため、そして大陸を救うために戦った。一方のアランはどうやら己が目的を果たすために動いている……彼の行動は大陸に被害を及ぼしそうな雰囲気だし、行動方針としてはルオンさんと真逆だな」
「どちらにせよ、神とやらに会わなきゃいけない理由が増えたな。理由を語ってもらえるのかはわからないけど」
「ルオン様が神を打ち倒そうと動く以上、いずれその時は来ますよ」
ソフィアが言う。俺は「そうだな」と同意し、
「ひとまず転生云々についてはここまでかな……デヴァルスさん、しばし俺達は休憩か?」
「大きな戦いも終わったし、とりあえずそうだな。調査については全力でやらせてもらうから、いつでも戦えるよう手はずを整えておいてくれ」
そうデヴァルスは締め、肩の力が入るような話し合いは終わった。




