精霊との話し合い
俺が来たためか、レーフィンが魔法を解除した気配を見せる。当のソフィアは茂みの中に隠れるようにして座り込んでいた。
「ソフィア」
近づいて俺は声を掛ける。しばし呆然となっていた彼女だが、やがて俺へと目の焦点を合わせる。
「……ルオン様」
「大丈夫か?」
怪我はなさそうだけど……沈黙していると、ソフィアは俯いた。
「申し訳ありません……」
「……ごめん、俺の方も」
「いえ、私の制御がまずかったのが最大の理由ですし……以後、今日以上に気を付けます」
俺も心の中で今後気を付けようと思いつつ……町へ行こう、と言い出す寸前にレーフィンが姿を現した。そういえば、彼女は魔法を行使していたわけだが、俺とガルクの戦いは察しているのだろうか?
「レーフィン、そっちは?」
「平気です」
「ソフィアが森に侵入して以降、どうしていたんだ?」
「……魔法を暴走させる中で、私は周囲の風と気配を同化させました。結果。ひとまず魔物に襲われることはありませんでした」
レーフィンは語ると、小さく嘆息。
「そして、ソフィア様自身魔力が底を尽きかけていたため、ひとまず私が魔法を維持し体力回復を……ある程度魔力が戻ったら行動開始というつもりでした」
……ソフィアがこの場にいる手前そう言及しているが、実際は俺が来るのを待っていたのだろう。何かしら対策を行っているはずで、急行してくれる……俺は用意もなくさらにガルクと戦うような状況となってしまったわけだが。彼女がガルクとの交戦に気付いているかどうかは……後で訊こう。
ソフィアが立ち上がる。どこか弱弱しく見えたため、俺は彼女に問い掛ける。
「歩けるか?」
「はい、一応は」
「キャルンが宿を手配してくれているはずだ。町までいこう」
「……すいません、旅程も大幅に狂ってしまいました」
「構わないさ」
というわけで、俺達は森から脱することになった。かなり厄介な騒動であったことは間違いないのだが……それでもまあ、神霊とコネを手に入れたこともあるし、結果的には良かった……のかな?
町へ戻るとキャルンが出迎えてくれ、今日はこの町で宿泊することになった。キャルンとソフィアは双方平謝りした後、明日以降気を付けようという結論に至った。
俺は部屋に入り椅子に座って頬杖をつきつつ今後の予定を考える。旅程通りにはいかなくなったけど、明日少し急げば予定通りには辿り着くと思うので、この辺りは大丈夫。問題はガルクに関すること。
釘は刺しておいたので俺から言い出さない限り介入はしないだろう。というか神霊の力が必要になるような状況というのは、大陸も相当危険な状態に陥っている時だろう……主人公達の動向を見て、もし危険な状態になりつつあったら協力を仰ぐことにするか。
ひとまず予定通りに行動を……そんなことを考えていた時、窓を叩く音が聞こえてきた。
それが誰なのか理解し、俺は窓を開ける。外から、レーフィンが部屋の中へと滑り込んでくる。
「どうした?」
「少々お話が」
顔つきがやや硬い……ガルクとの戦いを感じ取っていたということかな。俺は椅子に再度座り、レーフィンはテーブルに腰を下ろし、俺を見上げる。
本題に入る前に……俺は、レーフィンに一つ尋ねる。
「ソフィアとキャルンの様子は?」
「今回のこともあってか最初は共に申し訳なさそうでしたが……今は打ち解けています」
「そうか。良かった」
「あの調子だと、キャルンさんを仲間に加えてもよさそうな感じですが」
「ソフィアの素性のこともあるからなあ……とはいえ今後仲間を加える必要性が出てくると思うし、今の内からその辺りのことを考えておく必要はあるかもしれないな」
キャルンならば、ソフィアのことについて言及しても問題なさそうな感じだが……いや、結論を出すのはまだ先でいいだろう。
「ノームとの契約を済ませた後、彼女がどう動くかわからないし……今は何とも言えないな」
「わかりました。では、私から話をさせていただきますが」
いよいよ……言葉を待っていると、レーフィンは言った。
「魔法を行使していた状況で、あなた方の戦いを感じ取っていました」
「あれだけ派手にやれば、当然気付くだろうな……そういえば、聖域外は大丈夫かな? もし魔力が漏れていたら――」
「聖域の外に漏れてはいないようでしたよ。あれだけの魔力が生じても外の風は何の影響もありませんでしたし……その辺りは大丈夫でしょう」
なら、今の所魔族に露見する可能性はないな……考えていると、レーフィンは口を開いた。
「それでですが、その、私自身ガルク様を倒せる程とは想像もしていなかったので……」
「それはまあ、そうだろうな」
「最初に話をされた時はぐらかしていましたが、やはり魔王とも対抗できる能力をお持ちのようですね」
……彼女に嘘は通用しない以上、答えるしかないな。
「確かに、能力だけなら魔王に対抗できるだろうな」
「しかし、結界があるためルオン様では倒せない」
「そういうことだ……で、ガルクと最終的に話をしてこれをもらった」
二の腕に巻かれたリボンを見せる。
「あ、ちなみにレーフィンが森を訪れていたのはバレバレだったみたいだぞ」
ちょっとだけ彼女の顔が歪む……が、すぐさまリボンに視線を送り問い掛けた。
「それは?」
「ガルクによると、魔法を行使して発露する魔力を探知する道具だ」
それから彼女に色々と説明を行う。レーフィンは俺の言葉に逐一相槌を打ち、説明を終えるとなるほどと納得した。
「ガルク様も良い物をお渡ししましたね」
「みたいだな。俺は当面の目標として、これを使い幹部クラスの魔族に露見しないよう魔法の訓練をしようと思う」
「そうですか……何やら急ぐような雰囲気を漂わせていますが、遭遇する心当たりがあるのですか?」
そういえば、回避したいイベントに関してまだ何も言及していなかったな。ノームと契約した後でもいいかなと思っていたが、ここで多少なりとも説明するか。
「……ノームと契約した後くらいに、ある嫌な出来事が発生する」
「出来事?」
「ああ。物語の主人公の一人が遭遇する出来事だ……その場所は魔族の幹部が関わっている。物語の中で直接魔族と出会うようなことはなかったが、もしかすると監視している可能性がある」
よって、そのイベントの最中は力を隠しておいた方が無難。
「それほど日もないから、個々の魔法においてどの程度魔力が漏れ出るのか検証をやるので精一杯だとは思うけど」
「わかりました。ルオン様の方針に従いましょう」
……なんとなくだが、ガルクに打ち勝ったという事実にレーフィンも居住まいを正している気がする。
「あー、レーフィン。気を遣わなくてもいいからな?」
「わかっていますが……」
言葉を濁す。なんだかやりにくそうな雰囲気だな。
まあしばらくしたら元に戻るだろう……思いつつ俺は、彼女に言う。
「ひとまず、今からいくつか魔法を試す。攻撃魔法は危ないから、主に防御系の魔法とかになるけど」
「わかりました。お付き合いします」
――というわけで、俺とレーフィンは深夜近くまで検証することとなった。
翌日から、俺達は旅を再開した。ソフィアとキャルンは『バードソア』の訓練を引き続き行ったが、相当慎重になっているのが俺にもわかる。結局目的地到達までで完璧に使いこなせるレベルにはならなかったが、それでもある程度ものにはなった。
俺の方もレーフィンと色々試行錯誤。その結果、防御系魔法の類は攻撃魔法と比べて魔力の放出が少ないことがわかった。
そうした情報を統合しどう立ち回るか考えつつ……騒動以降順調に旅程をこなし、俺達はノームの住処へ辿り着くこととなった。




