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賢者の剣  作者: 陽山純樹
王女との旅路

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神霊の餞別

 さて、ガルクが動かないと確約したことによりここにもう用はない……と思ったのだが、相手はまだだった。


『さらに質問があるのだが』


 ガルクは俺へ呼び掛ける。


「何だ?」

『その力……魔王が知ったのならば、相当警戒するだろう。貴殿が憂慮する危機的状況になる可能性も十分あり得る』

「そうだな」

『今の状態では、何かの拍子に露見する可能性がある。それについて対策はあるのか?』

「……現在、レーフィンと協議しているところだ。まだ高位の魔族が出現するような局面ではないみたいだし、とりあえず棚上げにしていたんだが――」

『その点について、我に案がある』


 案――神霊が語るようなことだ。これは話を聞いておくべきだろう。


「案とは?」

『その莫大な力自体を封印することはできん。だが、貴殿自身が力を上手く操作することができれば、露見する可能性は限りなく低くなるだろう』

「操作……加減するってことか?」

『単に手を抜くのとは異なる手法だ』


 ……これについては俺自身判断できない、精霊や魔族故に感じ取れる領域ということだろうか。


『貴殿には迷惑をかけた。その侘びとして、これを渡そう』


 そう述べると、ガルクの目の前に魔法陣が。召喚魔法だと察した直後、地面にリボンような青い布が出現した。


『これは我が人間として活動していた時、力を抑制するため使っていた物だ』

「……人間として活動?」

『昔の話だ。人間が繁栄し始め、我の領域に干渉するかどうかを見定めるために人間の中に潜り込んでいた。しかし人間側は我と交渉し、取引をした』

「取引?」

『人間側が支配領域を広げる際は、我らと交渉する。我らはそれと引き換えに供物などを要求する』


 へえ、なるほど。だから人間側は森の近くに街道を整備できたわけか。


『人間とはいえ、我が放つ気配を悟る存在もいる可能性を考慮した故に生み出した物だ。ただそれは力を封じる物ではない。そもそも、我の力は貴殿の力と同様道具などで封じることができるものではないからな』

「じゃあどういう道具なんだ?」

『それを右左どちらでもいいが、二の腕に着けてくれ』


 言われ、俺はリボンを手に取り左腕に巻き付けてみる。


『その状態でまず、下級魔法を強い力を込めて放ってほしい』


 指示されるがまま俺は『ホーリーショット』を地面に向け放った。結果、ほんの少しだが布を巻きつけた部分が熱を帯びる感触。


「あれ……」

『次に我の障壁を破壊した剣を』


 言葉に従い『デュランダル』を発動。すると――


「……これは」

『気付いたか?』


 俺は頷く。リボンを着けた部分。そこが先ほど以上に熱を帯びた。


『貴殿は今魔法を行使した。その結果、我の目から貴殿の魔力が外に漏れ出ているのがわかる。それにより貴殿の能力もわかる……もっとも、外に漏れた魔力自体は非常に少なく、兵卒の悪魔や竜などが察する可能性はないと言っていい。しかし、高位の魔族ならば気付いてしまうだろう』

「竜とかは、魔力の探知能力が低いのか?」


 なんとなく尋ねてみると、ガルクは僅かに目を細め、


『得手不得手の問題だな』

「そうか……つまり、これは魔力が放出されていることを知らせる道具であり、熱を持たないよう戦えば大丈夫ってことか?」

『そうだ』


 ……ここで俺は疑問が一つ。


「あんたは、戦う前の時点で俺の能力に気付いていたな? それは他に要因があるのか?」

『そこまでの芸当ができたのは、この聖域に存在する力のおかげだ。我は聖域内に存在する魔力と同調し、気配探知能力を通常と比べ遥かに向上させることができる。それによって、我は貴殿の能力に気が付いた。もしそうした気配探知をしなかったならば、そこそこの実力者程度に評価は留まっていただろう。魔族達はこの大陸の魔力と同調するようなことをしている様子はない。よって、我のように一目で判断するようなこともないだろう』


 ……なるほど、自分がどこまでの魔法を使えるのかをこれで認識して立ち回れということか。確かにこれはわかりやすくなる。

 俺は魔法を解除すると、存在している熱が徐々に引いていく……その間に、ガルクはなおも語る。


『正体が露見せぬよう、我もそれを使い多少ながら鍛錬を行った……貴殿ならば使いこなせるだろう』

「わかった」

『もし高位魔族と戦うような場合は、その道具と相談するべきだな』

「ありがとう。もらっておくよ」


 俺は礼を言いつつ左腕にあるリボンの感触を確かめつつ考える――露見する可能性のある魔族とはどのようなものか。まず五大魔族は確定と考えていいだろう。他にも大陸各地で暗躍する魔族の中には幹部クラスがいる。この辺りにも注意が必要だ。


 イベントによっては幹部が暗躍するものもあるため、そういうものに関わる場合は特に警戒する必要があるな……そういえば、俺が介入したいと思っている近々発生するイベント。これも幹部クラスが関わっていたはず。注意した方がいい。


『もし何か不都合があれば、我も何か協力しよう』


 そしてガルクは言う――騒動によりここを訪れたわけだが、結果的に俺は神霊のコネを手に入れた。こんなことになるとは予想外極まりない。


『何か質問はあるか?』


 さらにガルクは律儀に訊いてくる……ここで俺は、あることが気になった。


「なら、訊きたいことが一つ」

『ああ、何だ?』

「旅をしている時、俺は他者を引き寄せてしまうと言われたことがあった。その辺りについては、どう思う?」

『人間がどういうものの見方をしているのか我にも判然としないが、それだけの力を保有している以上、何かしら他者に影響を与えるのは当然だろう』


 やっぱり俺のステータスが関係しているのか。


「その辺りを是正することはできるのか?」

『抑制することは可能だろう……しかし、根本的な解決は難しいかもしれん』

「難しい?」

『貴殿が人である以上、普通にしていても同種の人に影響を与えるということだ。人が発する気配……人の言葉を借りればオーラとでも言えばいいだろうか。そういったものは我などの精霊に属する存在からは何の変哲もなく見えても、人同士であるが故に感じることもあるはずだ』

「人同士で……か」


 うーん、どうやらガルクからもらった道具を活用しても、全てを隠し通せるというわけではないらしい。


「なるほど、事情はわかった。上手く付き合えってことか」

『そういうことだ……力を手に入れたことによる副産物だな?』

「おそらくは」

『それだけの力……どのようにして手に入れた?』


 まあ当然気になるよな……けど「魔物を倒し続けたらこうなった」と説明して納得してくれるのだろうか。


「……色々と理由がある。詳しくは話せない」


 結果、誤魔化すように言う。怪しまれるかなとも思ったが、ガルクはそれ以上詮索するようなこともなく『わかった』とだけ言った。


 そこで俺は話を切り上げるべく口を開く。


「また何か困ったことがあったら協力をお願いするよ」

『ああ。我はこの聖域にいる。助けが必要ならば声を掛けるといい』


 俺は「ああ」と返事をして歩き始める……騒動から始まった出来事だったが、最終的にガルクのコネを手に入れた。これが今後役に立つのかどうかはわからないが……持っていて損はないだろう。

 ふと、他の神霊についてどうするべきなのか考えてみる。シナリオ通り進めば率先して行く必要もないが、協力を仰ぐような事態が発生した場合――


「といって、すんなり協力してくれるのか?」


 その辺りガルクに訊いておけばよかったか……いや、現段階では大丈夫だろう。ひとまず物語どおり話が運んでいるし。

 だがもし、予想外の事態が発生したら……考えている間に、ソフィアがいる場所へと到達した。


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