相談事
ソフィアと約束をして二人で何かをするというのは滅多にないため、なんだかちょっと新鮮に思えるのだが……個人的に彼女がどうするのかなんとなーく予想できるので、それに付き合うのが今回の目的かなと思う。ちなみに今回ガルクは同行しない。配慮してから俺から離れ宿の一室で一日過ごすとのことだ。
そして、キャルンについてだが……使い魔でちょっと姿を確認しようとしたが、いない。俺が使い魔で色々探れることは彼女も知っているので、どこかから覗き見する場合身を隠すのは至極当然……どうやってこちらの目をかいくぐるのか。
ま、彼女に対しては手を打っておいたので、やりようはあるけど……というわけで、宿の前で俺はソフィアが来るのを待つ。時刻は朝食の後くらい。大通りの店も開き始め、人通りが出始めたくらいでソフィアが現れる。
「お待たせしました」
「いいよ。それでどこに行く?」
「少し町を歩きましょうか」
散策開始。彼女に何か物でも買うべきかなあなどと考えた矢先、
「あ、ルオン様。私は特に何もいりませんので」
「……そうはっきり言われるとなあ」
旅をしていて何かをねだったこととか一切無いんだよな……もう少し要求してもいいくらいなんだけど。
一瞬やっぱりプレゼントでもしようかなあと考えたが、ソフィアが「いりませんから」と釘を刺す。そこまで言われると逆に……などと思っていると、
「実はルオン様に、ご相談が」
「……なんとなく話題については予想がつくよ」
「そう、ですか」
一転、ちょっと体の動きが固くなるソフィア。俺は苦笑しながら町中を歩き続ける。
やがて辿り着いたのは町の広場。宴の掲示板も設置され、参加者らしき冒険者達がそれを眺めている。
「そういえば、順位が更新されたんだったな」
ちょっと見てみる。相変わらず上位は変わっていない。ただセルガ達は堕天使と遭遇以降それほど魔物を狩っていないのか、一位と二位との差が広がっている。
「っていうか、一位の人すごいな」
さらに武勲が増えて二位との差が広がっている……この人、魔物の巣にこもって戦ってないか?
「一位の人とはまだ会っていないですよね。今後どこかで出会うことになりそうですが」
「まあこれだけ活躍している以上、天使が放っておくことはないだろうなあ」
天使側としては、今回の戦いに参戦させるつもりはないみたいだけど……こっちとしては居場所もわからないし、どうすることもできないな。
「天使達が接触しているかもしれないし、堕天使と戦う間に会うことになるだろ……次はどの方向に行く?」
「では、あちらに」
右を指差し、彼女に従って歩く。町は結構広く、大通りをゆっくり眺めるだけでも時間が経つ。ソフィアの言う相談は昼食どきかなと考えていると、ふいにソフィアが足を止めた。
「どうした?」
「いえ、一度女性の方々と入った店が目に入ったので」
女子会やっていた店か。
「あー、昼食とかそこにする? でも、俺とか入りにくい?」
「ごくごく普通のお店なので問題はありませんよ」
ならそこにしよう――やがて昼時になり当該の店へ入る。内装も綺麗で、確かに女性が入りやすそうな感じ。ただ男性客もそこそこいて、住民に評判のいい店って感じだ。
対面するような形で座り、注文をとった後、しばし待っていると、
「……ルオン様」
意を決したように、ソフィアが話し始めた。
「その、いずれ話をしておかなければいけないと思いまして……」
「駆け落ち云々のことだな」
重々しく頷くソフィア。
「はい……そう噂される可能性も考慮はしていましたし、色んな国に顔を出そうと相談したこともありますが……ルオン様が政争に巻き込まれるという危惧から私は反対しました」
「表に出ないよう活動していたから、自業自得と言えばそうなんだけどさ……」
「どうしましょうか?」
ソフィアが問い掛けるのだが……うーん、駆け落ちは間違いですなどと説得するにしても、余計に誤解を生む可能性だって否定できない。まして俺達二人が首を揃えて出てきたとすれば、それだけであることないこと言われそうだな。
ベスト、というよりベターな選択としては……。
「ここはバールクス国王に任せるしかないんじゃないか?」
「お父様ですか……」
「身内が否定すればそれなりに効果もあるだろうし。あ、でも今だって否定しているとは思うし、噂が一人歩きして制御できていないってことなんだろうか?」
そうなるともう打つ手なし?
「どういう状況なのかは大陸に戻ってから判断するしかありませんし、お父様ともご相談する必要はあるかと思いますが……別の意味で不安要素があるんですよね」
「不安要素?」
聞き返すと、ソフィアはコクリと頷き、
「その、なんというか……ルオン様の立場を考慮すると、英雄を引き入れるためにそのまま認めてしまおうとか」
「……大切な実の娘をダシに使う人だとは思えないんだけど」
「普通なら、そうですよね」
そこまで言ってそっぽを向くソフィア。
普通なら――それは普通ならダシに使うような真似はしないが、今は違う。なぜかというと……。
「なあ、ソフィア」
目をそらしたままの彼女。なんだか核心的な部分には触れたくない感じ。
……竜の国における戦いでも似たようなことが起きたなあ。こっちが無理に押し通そうとしてもたぶん、会話を打ち切って止めようとするだろうな。この様子だと。
なぜこうまで頑なに会話を止めようとするのか……理由を考える間にソフィアの方が視線を戻す。
「あの、ルオン様」
「ああ」
「話の続きですが、お父様とまずは話し合いをするのが一番かと思います」
「ならこの戦いが終わった後、一度戻るってことでいいか?」
「はい、ではそれでお願いします」
会話は終了。そして沈黙。俺としては口を開こうとしてもソフィアに差し止められそうな気がする。
……彼女がどう思っているかはわかっているけど、今言おうとしても間違いなく止められるだろうなあ。
うん、彼女のことについて、一度きちんと議論しないといけないな。その相手は、間違いなく彼女の父親であるバールクス国王。
堕天使との戦いが終わった後、駆け落ち云々のこと以外も、きちんと腹を割って話をするべきだな……一瞬エイナにも伝えようかと思ったが、それはそれでややこしくなりそうな気がしたので、ひとまずこの決意は胸の内に秘めておこう。
決意をした時、料理が来た。さて食べようかという段階に至り、使い魔から一つ報告が。
どうやらキャルンが動いているらしい……いや、それだけじゃないな。彼女と共に行動しているのはエイナとネル。エイナ……は、まだわからなくもないけど、ネルはなぜ一緒に行動しているんだろう? のぞき見するような性格でもなさそうだけど。
まあいい。とりあえず彼女達の動向がわかったということは、こっちの策がきちんと機能しているということ……よし、食べ終わった後、お灸を据えてやろうじゃないか。
「ソフィア、食事の後だけどどうする?」
「そうですね……ディーチェさんの話によれば、この町の近くに見晴らしのよい高台があるそうです。町を一望できるらしく、そこへ行ってみませんか?」
「ああ、いいよ」
そこで、実行だな……俺は使い魔の報告を受けながら、ソフィアと食事を進めた。




