わずかな異変
俺は使い魔の一体を彼らに接近させる。相対したのはセルガ達が戦っていたのと同じような見た目恐竜の魔物。ただこちらは四本足なのは同じだが二足歩行している……ティラノサウルスが表現的に一番近いだろうか。
「さて、来たがどうする?」
アルトが前に立ちながら大剣を構える。竜との戦いでは防戦一方だったが、面構えは強敵と相まみえてわくわくしているみたいだ。
「私とアルト殿が前線に立とう」
次いでエイナが発言。剣を抜き臨戦態勢に入る。
「なら、私は援護するよ」
キャルンも短剣を抜く。するとエイナは眉をひそめ、
「そちらが?」
「短剣使いには短剣使いなりのやり方があるんだよ」
……短剣技の中には遠距離技もあるから、それだろうか?
ともあれ、エイナとアルトが組んで魔物と戦うわけだが……魔王との戦いで共闘するような機会ってあったのか? なければ連携は難しいと思うけど、どう出るのか?
「ルオン様?」
ここでソフィアが声を上げた。俺が突然無言になったからだな。
「エイナ達が戦闘を開始した」
簡潔に内容を告げると、彼女は緊張した面持ちになる。
「大型の魔物、ですよね?」
「見た目は違うが、その能力はたぶんセルガ達と戦ったのと同じくらい――」
解説する間にアルトが動いた。突如地面に切っ先を当てると、大剣を放り出すような勢いで、上へと薙いだ。
すると剣先から魔力が溢れる――これは大剣上級技の『ライジングサン』。自身の魔力によって巨大な剣を生み、それを地面を介し魔物へ放つ技。
ゲームでは使用者の前方広範囲に光が生じ、敵を飲み込んだが……その通り、アルトが放った剣戟により地面から巨大な剣が生まれ、魔物へ放たれた。
魔物は避けることができずまともに受ける――ゴウッ、という衝撃音が発生し、魔物は吠えた。
敵も負けじと動き出し、反撃に転じる。口を大きく開け、エイナ達へ迫る――一飲みしてしまいそうなくらいだが、エイナ達は誰も臆することなかった。
「そらっ!」
気合いを入れた掛け声と共にキャルンが動く。短剣を何度も振り――魔力の刃を放出。狙いは魔物の頭部だ。
短剣中級技の『ウイングカノン』か。幾重にも連なる魔力の刃が敵に迫る多段技で、敵を食い止めることもできる。
彼女の目論見は――成功。ガガガガ、と彼女の刃を連続して受けた魔物は、体を震わせ足が止まった。
アルトやキャルンは、自分よりも遙かに大きい相手に対し有効な戦い方を既に見出している……と、それはエイナも同じようだった。
彼女はソフィアとの一騎打ちで見せた速力で、魔物の足下へ迫る。どうやら足に狙いを定めたようだ。
潜り込んでも恐れることなくエイナは剣を振り抜き――いや、光の塊と化し、右後ろ足へ突撃して。
――ガアアアアッ!
魔物の雄叫び。突撃により魔物は大きくたたらを踏み、そこへキャルンが追撃の『ウイングカノン』を決める!
結果、バランスを大きく崩し魔物は倒れ伏した――
「おっしゃ!」
アルトは声を上げると追撃の『ライジングサン』を放つ――今回は少し応用で、倒れ込む魔物を飲み込むような形になる。
光の奥で魔物が声を上げる……だがまだ健在。ふむ、セルガ達も倒すには多少なりとも時間が掛かったし、アルト達も同様か。
ただ、セルガ達との大きな違いは、基本敵には各々が役目を全うし戦うという点か……上位三人はそれこそ単独でも応じれるような気配を見せていたけど、アルト達はそういう感じではない。
ここが明確な差かな……そんなことを考える間に、エイナが剣を掲げた。
「起き上がる前に剣を食らわせる!」
その声と共に、彼女が握る剣の刀身から魔法陣が浮かび上がった。長剣技で魔法陣が生じるのはいくつかあるけど……剣を掲げているから上級技の『天空法剣』か。
光が伸び、まるで巨大な剣と化す――それをエイナは容赦なく、魔物へ叩きつけた。
直後、光をまともに食らった魔物から白い火柱が上がる。剣が振り下ろされた場所を中心に広範囲火柱を噴き上げる技なのだが……しかし魔物はまだ消滅しない。
「ずいぶんしぶといな」
アルトが呟いた直後、イグノスが『ホーリーランス』を放った。どうやら仕掛けがあるようで、エイナの火柱に飲み込まれ魔物に着弾した瞬間、火柱の中で青い光が一際大きく輝いた。
ここまでは圧倒的な攻勢……しかもキャルンやアルトが追撃をお見舞いしている。うん、連携さえすれば大型の魔物でも対抗できそうだな。
「問題ありませんか?」
ソフィアが問う。俺は頷き、
「平気みたいだな」
「ただ、セルガさん達と比べて少しばかり足りない部分もあるようね」
ネルが語る。その言葉に俺とソフィアは注目した。
「セルガさん達は、それこそ一人で魔物を倒そうという気概があったけれど、エイナさん達は連携で崩そうと動いていた。ただこれは、仲間同士で連携することを優先しているだけで、単独でも倒せるって可能性は捨てきれないわね」
俺と似たような見解かな……エイナ達が足りない、って言っているけど、基準点が「大型の魔物を単独で倒す」だからな。ハードルが高すぎる。
そしてエイナ達はなおも攻勢を続ける。魔物もどうにか動き出そうとしているのだが、彼女達は敵を上手く縫い止め猛攻を仕掛け――やはりセルガ達と比べ攻撃力は控えめだが、相手が単独なら一方的な展開になるみたいだ。
やがて猛攻に耐えきれず魔物は消え失せる……余力はまだまだありそうだし、先へ進むのは間違いなさそうだな。
一方、セルガ達も次の魔物を発見した。似たような魔物だけど……そもそもこれだけの大きさの魔物がゴロゴロいるという時点でここがどれだけ異常なのかがわかるな。
「さっきと同じようなやり方かしら?」
ネルが呟く……その間に、俺は使い魔で上空から山肌を観察する。
気付けば要所要所に大型の魔物が目に付いた。先ほどまでいなかったのに姿を現したのは、セルガ達やエイナ達の戦闘に気付いたためか?
疑問を呈した後、俺はさらに使い魔で……その時、
「……これは」
「ルオン様?」
呟いたのを聞いてソフィアが名を呼ぶ。
「……ネルさん、魔物の群れがいるんだけど、そっちは見つけたか?」
「え? ちょっと待ってくれる?」
ネルが慌て始める。そして、
「いるわね……大型の魔物が、合計五体か」
「山脈には相当な魔物がいるみたいだけど……こうまで一斉に出現するものか?」
「事前の情報では、魔物側も警戒してあまり外に出ないと聞いていたけれど――」
そこまで述べて、彼女は言葉を止めた。
「……もしや」
「堕天使がこっちの動向に気付いて、魔物を仕掛けている、と?」
「可能性はあるわね。けど、肝心の堕天使は姿を現していない」
「斥候、ということでしょうか?」
ソフィアが言う……仮にそうだとしたら、なんて贅沢な斥候か。あるいは、この程度失っても惜しくないってことか?
「どうする?」
ネルへ問うと、彼女は口元に手を当て、
「……現状、他の戦士達は山にほとんど侵入していない。加え、セルガさん達もエイナさん達も魔物とある程度戦えることが実証されている」
「危険だけど、戦うってことか」
「もしかしたら堕天使そのものが出てくる可能性もあるし、ね。もちろんまずいと判断したら引き上げるわ。手はずも整えているし」
危険は承知だが、リターンも大きいだろう……俺は頷き、ネルへ言った。
「俺やソフィアがフォローする。このまま進もう」
「了解。行きましょう」
ネルは決断し、俺達は進む――そこで俺は使い魔を用いてエイナ達へ連絡する。
まずは合流しておくべきだろう……そう考え指示を出す。さて、どうやら単なる魔物討伐ではなくなってきた……警戒しなければ。




